お父さんとお母さん
今回は短めでハードモードお休みです。
どうやら私は気を失っていたようだ。
目を開けると3人の心配そうな顔が見えた。
うつ伏せで砂に突っ込んだはずが仰向けになっていて、お父さんの腕で背中が支えられていた。顔の砂はきっとお父さんが払ってくれたんだと思う。
「ハルカ。お父さんを助けてくれてありがとう」
「私、役に立った?」
「もちろんさ。でももう無理しないでくれな」
お父さんの目に薄っすら涙が溜まってた。
「ハルカさんが目を覚まさなかったどうしようってすげー心配してたんすよ。ムウさんが大丈夫だって言っても聞かなくて」
「余計な事言うなよぉ」
私は起き上がって服の砂を払った。
「ごめんね、心配かけて」
「もういいのか?」
「うん。大丈夫。門まであと少しでしょ。頑張ろうよ」
「そうだな」
お父さんも立ち上がる。
そしてまた4人で歩きだした。私はムウに渡された黒い棒を杖のようにして歩く。この棒は絶対に離さない、と決めてしっかり握る。
門の手前の塀に近づくほど足場が固くなって、砂地ではなくなってきた。大分歩きやすくなってきたので、進みも早い。黙って歩くのにも飽きてきた。そのタイミングでケンがぶっこんできた。
「コウイチさんの奥さんてどんな人なんですか?出会ったのはどこですか?」
これは、お父さんの口からお母さんのことが聞けるチャンス。実際お父さんがお母さんのことをどんなふうに思っているかなんて聞いたことがない。
「それは私も聞きたい」
お父さんはちょっと考えたような顔したけど、話し始めた。
「いや、普通に会社で会って、よく働くし結構美人だなって。たまに抜けたとこもあって」
「あー、お母さんも似たようなこと言ってた」
「なに?なんて言ってた?」
「会社では仕事は出来るし、困ってると助けてくれて、恰好よかったって」
「なに?過去形?」
「まあね」
「何?続きがあるの?」
「まさか、家だとあんなにポンコツだとは思わなかったって」
ムウとケンは聞こえていたようでブフッと鼻で噴き出した。お父さんも笑っている。
「お父さんだって、まさかあんな怖いおばさんになるなんて思ってなかったよぉ」
ひとしきり笑った後ポツリと言った。
「お母さんが大笑いしてる顔が大好きなんだ。そうか、もう見れないんだな」
このまま門に行った後どうなるかはわからないけど、ただもう家には帰れないしお母さんには会えないんだ。今更私は気付いた。
忙しくても、疲れていても、毎日ご飯を作ってくれた。あの時ハンバーグを残さなきゃよかった。学校でのことにイライラして、お母さんのちょっとした物言いに突っかかってケンカしたこともあった。それでもしばらくすると何もなかったようにココアを作ってくれて二人で黙って飲んだ。
そういえば私が自分のことをブスだと言ったらメッチャ怒ったなぁ。
「どうせわたしはブスなんだから!」
「自分のことをどうせ、なんて言わないの!見た目だけの話で言ったら、ハルカはブスじゃないし、可愛いし、美人の部類なんだから!」
「それは親の欲目ってやつだから!」
「違う。ハルカはお父さん似なの。お父さん格好良かったの!イケメンだったの!今はあんなんだけど...。
とにかくお父さんに似てるハルカは美人なの。ハルカが自分のことを貶すってことはお父さんを貶すことになるの。お母さんが好きになった人を馬鹿にしないで!」
ああ、あの時はこのおばさん子供相手に何言ってんだって、呆れて何も言い返せなくなったんだっけ。
フフッと笑ってしまった。
「何?どうしたの?」
「いや、ちょっとお母さんのこと思い出して笑っちゃっただけ」
「どんなこと?」
「あのねぇ、お母さんはお父さんのこと大好きだったんだなぁって」
お父さんは顔を真っ赤にして視線を泳がせた。そして立ち止まり胸を張った。
「お父さんだってお母さんが大好きだ!」
お父さんの宣言に一瞬3人であっけに取られたけど、ムウはふふっと笑って楽しそうだ。ケンはヒューっと言ってお父さんの背中をバシバシ叩く。
「ちょっ、止めろよ」
ケンは左腕をお父さんの肩にまわして「いいなぁ、羨ましいなぁ」と言っている。
私はその光景を見て楽しい半面、寂しいのと悲しいのが入り混じってしまった。
それを見たお父さんは両手で私の肩を掴み、目を見て言った。
「お父さんはお母さんが大好きだけど、お父さんもお母さんもハルカが一番大切なんだからな!」
「ちょっと、いきなり何言い出すの」
「いや、なんか言いたくなっただけ」
胸の奥に暖かいものが現れて、それが込み上げて目から溢れそうになる。私はそれを必死に堪えた。
「さあ、あと少し頑張ろう!」
私が右腕を振り上げると、みんな「おおー」と腕を振り上げた。
お母さんのことを思い出して少し恋しくなったけど、もう会えないことに気付いたハルカとお父さんでした。




