お父さんの気持ち、私の気持ち
4人で歩く。ムウ、私、お父さん、ケン。
時々お父さんが私の隣に並んだり、ケンがお父さんに並んだりするけど基本の並びはこれ。
前方に門は見える。門に向かってみんなでひたすら歩いているのに近付いている気がしない。
たいして変わらない風景にさすがに飽きてきた。
太陽が照り付けているわけでもないから、暑いわけでもない。何か出てくるかもしれないっていう緊張感。変化のない風景。単調なのに緊張していなきゃいけないことに疲れてきた。
後ろを見るとお父さんは私を見てニコニコしているし、ケンはムウを見てはデレッとした顔をしている。
私が見ていることに気付くと二人ともキリっとした表情を作る。
「あそこで一旦休憩にしましょう」
さすがムウ。私の気持ちを察してくれたかのような発言。
ムウの指差す方を見ると、左前方に気が茂っている場所が見えた。
「おおぉ」と雄叫びを上げて走り出すお父さんとケン。
ムウは若干呆れたような顔をしている。
「ハルカ様はこちらへ」
ムウは左手で私の右手を掴む。
「えっ、お父さん達、あっち行ってよかったの?」
「ああ、ご主人様達は大丈夫でしょう。多分」
多分がすこし引っかかるけど、大丈夫なら私も最短ルートを行きたい。そう思いながらもムウに手を引かれる。お父さん達がやっぱり気になるので時々チラっと見てみる。
2、3分進んだ頃だろうか。お父さんの後ろに黒いモヤが沸いてきた。私は足を止めてムウの腕を引っ張る。
「お父さんが!」
振り向いて足を止めたムウに私は訴える。
「大丈夫です。見ててください」
何が大丈夫なのか。黒いモヤは段々とお父さんの倍ほどの大きさがある人型になっていく。
しかも1体だけでなく時間差で数が増えていく。
モヤに先に気付いたのはケンだった。
ケンはお父さんの肩を叩き、親指で黒いモヤの固まりを指した。
お父さんとケンは互いに頷きニッカリ笑うと、お父さんは刀を抜いた。
「うりゃ」「とう」
二人は黒いモヤに向かって走り出す。
お父さんは刀でザックリと。ケンはグーパンでモヤを消していく。
一撃で黒いモヤの固まりは消えるけれど、次々とモヤは現れる。
お父さんとケンは楽しそうにモヤに向かって行き消していく。
確かにあれなら大丈夫そうだ。
「うん。大丈夫だね」
私はムウと歩き出した。
時々お父さん達の方を見ると楽しそうに戦っている。
私とムウは一足先に木の茂った場所に到着した。
(うん、これは急がば回れってやつだね)と心の中で呟いておく。
茂った木に囲まれた中に池があった。
池の中心は水が沸いているのか少し水面がふくらんでいて、そこから小さな波が水辺に向かって進んでいく。水は底が見えるほど透明なので、水の中には危険なものがいないことがわかる。
「飲んでもいいの?」
「はい、大丈夫です」
ムウはいい笑顔で答えてくれる。私は水辺に近寄り両手で水をすくって飲んでみた。。喉を通る冷たい水。そのまま体の中に染み込んでいくようだ。隣ではムウが顔を近付けて飲んでいた。
二人で水を堪能した頃。お父さんとケンがやってきた。二人は髪も服もかなり乱れていて、ヨレヨレになっていた。それでも満足気な顔をしていた。
到着するや否や頭を水に突っ込んで水を飲み、顔を洗っている二人を見て私は喉の奥が重たく、胸の中に何かが溜まった感じがした。
「お父さん。楽しそうだよね」
「うん。楽しいよ」
「私といるよりケンと一緒の方が楽しそうだもんね」
こんなことを言うつもりはなかった。お父さんはずっと私のことを大切にしてくれている。それは小さい頃から始まって今でも。それは解ってはいる。
学校のこと、友達のことを聞かれてもウザいとしか思えなかった。それでも私のことを心配してくれているのは解ってた。あの頃何でも一人で出来ると思ってたのに出来なかった苛立ちをお父さんにぶつけてるだけだったのかもしれない。反抗的な言葉を投げつけても許してもらえるっていう甘えもあったのかもしれない。こっちの世界に来てお父さんと一緒にいて、お父さんがずっと私を見てくれていた。なのに今は私がいなくても楽しそうにしているお父さんと、一緒にいるケンにヤキモチを焼いているんだ。私は下唇を噛んで下を向いてしまった。
「なんだ。ハルカ、ヤキモチか?」
お父さんは笑いながら私の頭を撫でる。
「そんなんじゃない!」
お父さんの手を振り払う。
「ヤキモチだね」
ケンが笑って言う。
「ですね」
ムウがスンとした表情で言う。
「オレはムウさんにヤキモチ焼いてほしいなぁ」
「それはないですね」
ケンはガッカリしながら笑った。
ケンはムウの隣に座る。
お父さんは黙って私の隣に座る。
(そうだよ。ヤキモチだよ)思いながらも何も言えずに下を向いている。そのまま抱えた膝の中に顔をうずめた。
お父さんは話し始めた。
「お父さんは若い頃からずっと、やりたいことをやってきたんだ。周りが無理だとか、やめろとか言っても自分がやりたいって思ったことをやってきた。
しんどいこともあったけど後悔はしていない。自分で求めたことだし。おかげでお母さんやハルカと出会えたし、今こうやってハルカの隣に座っていることも出来て楽しくて幸せなんだ」
少し顔を上げてお父さんの顔を見ると、ニコニコ楽しそうな顔をしている。
「お父さん。ごめん」
私は小声で、最後は消えそうだったけどお父さんに謝った。
「うん」
お父さんは私の背中をトントンと叩いた。
「あのね、ハルカ」
「何?」
「門に着いたら、ハルカにお願いしたいことがあるんだ」
「今じゃダメなの?」
「うん。今じゃダメなんだ」
「なんかちょっと、うーん、かなりモヤモヤするけど、わかった。でも出来るかわかんないよ」
「大丈夫。ハルカなら出来ることだから」
「そうなの?じゃあわかった」
私とお父さんは立ち上がった。合わせてムウとケンも立ち上がる。
「じゃあ、あと少し頑張ろうか」
お父さんが言う。
「うん。しょうがないか」
私がそういうと、、ムウ、私、お父さん、ケンの順でまた歩き始めた。




