村の正体
「おやぁ、僕の花嫁さんはどこにいくのかなぁ?」
ムウは私とイケメンの間に立ち、前傾姿勢で大ぶりのナイフを構える。尻尾がピンと立ち全身の毛が逆立っている。
「私は結婚の約束をした覚えはありません!」
ムウの後ろから叫ぶ。
「恥ずかしがらなくていいよ。君はこの村で暮らし、ニエとしてこの村の民を救い続けるんだ。こんな美しい僕と結婚出来るんだ。光栄だろ」
なんだこのナルシスト。気持ち悪い。
「気持ち悪いとはなんだ!」
いけない心の声が漏れていた。しょうがないよね。
「だって気持ち悪いんだもん」
ムウがくすりと笑う。
イケメンは顔を真っ赤にして怒っている。
「この美しい僕に向かって気持ち悪いだと。許さない!」
イケメンは壊れたドアを持ち上げて向かってきた。けれど悲しいくらい非力なようで2、3歩進んだところでヘロヘロと崩れ落ちた。そこへすかさずムウが頭に回し蹴り。イケメンは抵抗することなくノビた。
私とムウは階段を駆け下りる。
階段の下には執事さんが立っていた。
「申し訳ございません。お嬢様をお帰しするわけにはいかないのです」
「こちらこそ申し訳ございません。ご主人からハルカ様を離すことは出来ません」
ムウと執事さんが一触即発の空気でにらみ合っている。
物陰に玄関を開けてくれたメイドさんが見えた。私は左右のポケットにナイフがあるのを確認する。
ムウと執事さんがお互い飛び掛かった瞬間、メイドさんが私に向かってきた。
両手にナイフを握りしめメイドさんに向かって振り回す。どうやって戦ったらいいかなんてわからない。とにかくナイフを離さないように。
後ろではムウと執事さんが戦っているんだろう。ドスッとかバキッとか物騒な音が聞こえる。
「いやぁ、来ないで!」
むやみやたらに振り回していたナイフがメイドさんの首にヒット。メイドさんが倒れた。手に残る感触。ウサギの時よりも強烈な衝撃。思わず吐き気がこみ上げてきて座り込む。
ムウに腕を引かれ立ち上げる。執事さんが床で倒れている。
玄関を出るとお父さんが村人達を払いのけている。
上から見た光景より目の前に迫ってくる村人が多く感じる。
そういえばケンがいない。
「ニエ様」
村人が二重、三重になり押し寄せてくる。手前の村人が倒れると後ろの村人が踏みつけて迫ってくる。
「ニエ様」
村人は手を伸ばして近付いてくる。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
「いやぁー」
今まで.出したことのないお腹の底から湧き上がってくる大声が出た。
自分の出した声で体中がビリビリした。
半径2メートルくらい私の周囲から村人達が消えた。
お父さんがビックリした顔で私を見ている。
ムウは親指を立ててニンと笑った。
「この隙に逃げますよ」
お父さんが私に背中を向けてしゃがむと、ムウが私をお父さんの背中に載せる。
「ハルカ、しっかり掴まっててな」
お父さんは私を背負って走り出す。
後ろでは復活した村長が窓から身を乗り出して叫んでいる。
「ニエを逃がすな!ニエを取り戻せ!」
村人達は追ってくる。
お父さんは全力で走っているんだろうけど、さすがに私を背負っているせいで村人達の距離も狭まってくる。ムウは時々止まって村人を薙ぎ払っている。
それでも村人達との距離は縮まってくる。
村人達の後方からギャーとかワーとか悲鳴のようなものが聞こえだした。
村人の波を破るようにケンが現れた。
「お待たせー」
ケンがニコニコして現れた。
「任務完了したよー」
「そうか、じゃあ行こう」
ケンが村人達に向かって大きく腕を振ると手前の村人が後ろに倒れる。その後ろの村人は倒れてきた村人に倒されドミノ倒しのように倒れていく。
私達(私はお父さんに背負われていたけど)走る。
ケンの家を過ぎた時には後ろに村人は見えなくなっていた。
村を出て元の道に辿り着いた。
3人は座り込みさすがに肩で息をしている。
「ここまで来れば大丈夫でしょう」
ムウが言う。
「コウイチさんのアイディアはよかったです」
「そうかぁ」
お父さんが笑っている。
「何?何があったの?」
「オレの獲ったウサギ。肉屋に行ったらまだ残ってたんで解放してきちゃいました。獲ってから餌ももらってなかったみたいだったし、今頃きっと村中で大暴れでしょうね」
ケンは笑った。
「あの量だから残ってる気がしたんだよ。ただタイミングを間違えるとオレらもやられるだろうし、いいタイミングだったんじゃないかな」
お父さんとケンは腕をクロスで当てて喜んでいる。
私はムウに向かって聞いてみる。ムウは真顔で私の目を見て答えてくれた。
「この村ってなんなの?」
「ここは亡者の村です」
「ニエって何?なんで私がニエ様って呼ばれなきゃならなかったの?」
ムウは少し考えて話し始める。
「ニエとはおそらく生贄の意味ではないかと。
ハルカ様。これまでずっと、蛇も魚もウサギもみんなハルカ様を食べたがっていました。
ここは死を迎えた者の世界です。
中にはその死を受け入れられない者もいます。その中でも特に生に執着している者は、人の魂を喰らうことで元の生を取り戻せると信じているのでしょう。この村はそんな者達が集まった村だったのです」




