脱出
村長の家を出るといろいろな店がある。ケンを先頭にしてお父さんと私が並び、後ろをムウが歩く。
店頭がオープンになっているところは食品を扱っている。特に変わった食材が並んでいるわけでもなく、普通に野菜や果物が並んでいた。ドアの上に看板があるところは、窓からチラリと店内を覗いてみる。洋服が並んでいたり、武器のようなものが並んでいたり様々だ。
どの店もどこを通っても村人たちは私達を二度見する。それがなんだかいたたまれなくてケンの家に帰ることにした。
「明日の宴って出なきゃダメかなぁ」
私は人が集まる場が苦手だ。
「ハルカが出たくないならバックレちゃおうか」
「その方がいいかもしれません」
「そうなの?じゃあオレもそうしようかな」
「ケン君は出てもいいんだよ」
「オレはこの村に来たばっかりでそんなに親しくないし、なんかコウイチさん達と一緒にいるほうが居心地がいいんだよね。それに...」
ケンはムウをチラリと見ると顔を赤くして口ごもった。
その様子で私とお父さんは察したけど、ムウは完全スルーしている。
ケンの家に着くと早速荷造りを始めた。まあ荷物と言ってもカバンくらいでずっと持ってるし。実質荷造りをするのはケンだけだ。
私達は家の掃除を始める。庭の井戸から水を汲み家中を拭く。大きな家ではないし、ケンも住み始めたばかりだったからそんなに大変なことはなかった。
「バケツの水を替えてくるね」
「ハルカ様!一人での行動はしないで下さい」
「平気、平気。庭の井戸で水を汲むだけじゃん」
私はバケツを持って家を出る。お父さん達に見えるようにドアを開けっぱなしにしてある。私は水を汲むための井戸の上にある桶を下す。
バタンッ
家のドアが閉まった。その瞬間なにか甘い匂いがした。私の意識がフワフワして視界が真っ暗になった。
空?
意識が戻ってきてゆっくり目を開けると、目の前には空が広がっていた。
私はイカダのようなもの上に寝かされていた。しかも大の字。足首と手首は縄で板に括り付けられている。まだぼんやりした中で手足を動かしてみてもやっぱり動かない。頭は動かせるのでゆっくり動かして左右を見ると屋根ばかり。
どうしてこんなところにいるんだろう。
お父さんはどこにいるんだろう。
私はこれからどうなるんだろう。
上を見ると村長の家の2階が見えた。窓から村長がニタニタ笑っているのが見えた。
「おや、目を覚ましましたね。ダメですよ、宴の主役が村から出ては。
執事に様子を伺わせておいてよかったです」
村長は窓から満足げに私を見ていた。
まだ頭の中に薄っすら靄がかかっている。
何をしていいのか、どうしたらいいのか考えることが出来なくてぼんやり空を見ていた。
どれくらい時間が経ったんだろうか。かすかにお父さんが呼ぶ声が聞こえる気がする。
「ハルカー、ハルカー」
いや、気のせいじゃない。
「お父さん!」
私は精一杯の声を上げ、思い切り手足をバタつかせる。これで縄が少しでも緩むかと思ったけどビクともしない。
「お父さん!お父さん!」
私は何度も叫ぶ。叫びすぎて声がかすれてきた。
頭上でドカッ、ドスンと音がした。そちらを見るとさっきまでニタニタした村長がいた窓にムウが見えた。ムウは窓枠に片足を乗せ、こちらにジャンプをしてきた。
ムウは小型のナイフで縄を切り、私の目をしっかりと見据え言う。
「ハルカ様。大丈夫です。ご主人も下にいます。もう少し我慢してください」
私はムウの言葉に頷いた。そして私は自由になった手足の感覚を確かめるように動かしてみる。
ムウは縄を切ったナイフを私に持たせた。
「護身用です」
私はナイフを鞘に入れ、右ポケットにしまう。ウサギの時に使ったナイフは左ポケットに入っているのを確かめる。
「跳べますか?」
ムウは村長の家の窓を指して聞いてくるけど、助走もなく跳べるわけない。ましてや私は運動神経がいい方ではない。
「...ムリ」
私は首を振る。
「わかりました。あと少しお待ちください」
ムウは私が寝かされていた板の端を何かしている。
下の方では段々と騒がしくなってきた。
「ハルカー。ハルカー」
お父さんの呼ぶ声がする。
下を覗くとお父さんとケンが、村人と揉みあいになっている。
「ニエを渡すな!」
「うちの娘を返せ!」
「ワタシの客人をどうするつもりですか!」
お父さんは刀を鞘に入れたまま村人を叩いている。
ケンがブンと腕を振ると何人も吹き飛ばされている。
ワラワラと村中から人が集まってくる。
それを片っ端からお父さんとケンが叩き潰していく。それでも何度も立ち上がって向かってくる村人達。
上からそっと覗いている私に何人かが気付いた。
「ニエ様だ」
「ニエ様、私にも恩恵を」
口々に私をニエ様と呼び下から手を伸ばす。
流石に手は届かないけど、その人数は少しずつ増えていく。それを見た私は恐くなり視界から外れるように板の中心で小さくなる。
状況を見たムウはチッと舌打ちをして、板をバキッと剥がすと村長の家の窓枠に掛けた。
ムウは私の腕を取った。
「一気に走りますよ。下は見ないで下さい」
ムウは私の腕を掴んだまま走る、というか跳んだ。板の中央に一瞬着地してまた跳んで窓に飛び込む。板は着地した衝撃でグラグラ揺れて落ちた。
窓の横には村長がノビていた。
私とムウは立ち上がり部屋を出ようとドアに向かう。ドアは無残に壊されている。その壊されたドアの向こうに村長の息子が腕組みをして立っていた。




