第34話
妙にねちっこい王太子の詰問を逃れた俺は、すぐに姫を見つけた。
なんせ姫の背後には、疲れ果てた様子の農民兵たちがぞろぞろついているからだ。幸いにも今回はみんな無事だった。
しかし俺が声をかけるよりも早く、姫が俺に気づく。
「姿が見えなくなったと思ったら、そんなところにおったのか」
「そこの天幕で王太子殿下から質問攻めにされていました。姫の決断が信じられない御様子でしたよ」
俺は苦笑してみせる。
姫は首を傾げた。
「信じられないと言われても困るぞ。あの状況なら、夜襲をかければ敵が逃散するのは自明であろう?」
「自明ではないのですよ。少なくとも俺のような凡人にはね」
姫がどこらへんに勝機を見いだしたのか、俺は未だにわからずにいる。
俺が前世や今世で学んだ限りでは、ああいう状況では下手に敵をつっつかない方がいいという判断しか出てこない。さっぱりわからない。
姫は愛らしい眉間に小さなしわを寄せて腕組みする。
「わからんというのがわからん……」
「もしかすると姫は兵法の天才なのかもしれませんね。たぶん違うと思いますが」
「おぬしはそうやって褒めたかと思えば、またすぐに貶める。温度差で風邪を引いてしまうぞ」
ちょっぴりお怒りの姫だが、俺の言葉に思うところもあるようだ。
「だがまあ、そのことは心に留めておくとしよう。私もおぬしも、人には見えぬものが見えておるようだからな」
「俺のはそういうのじゃないですよ」
俺は転生者として前世分の知識があるから、この時代の人が知らないことを知っているだけだ。
だがもしかすると、姫も……?
そう考えたとき、メステスが軽く咳払いをした。
「仲がよろしいのは結構ですが、城主になることをお伝えした方がよろしいのでは?」
「おお、そうであった」
姫がポンと手を叩く。
「実は先ほど、父上からここに小さな城を建てるよう命じられたのだ。サイダル軍がまた妙な気を起こさぬようにとな」
「その城の城主になる、ということですか」
「うむ! マルダー村も引き続き治めよとのことで、街道の自由通行権も認められた。いよいよ私も城持ちの王族だ! 父上や兄上に一歩近づいたぞ!」
嬉しそうな姫だが、喜ぶのはまだ早いだろ。すかさずメステスが釘を刺す。
「お喜びになるのは、城を建ててからにした方がいいと思いますけどね」
「うるさいのう。何年かかるかわからんのだから、そんなものをいちいち待っておれるか。今喜ぶがよいぞ、なあカナよ」
やっぱり変な子だよ。だが何かやらかしてくれそうな子でもある。
そこにカナティエが割り込んでくる。
「はい、姫様。私も正式に騎士見習いとして士分の待遇になりましたので、ますます精進いたします」
ああ、やっぱり一足飛びに騎士にはなれないのか。あんな大手柄を立てたのにな……。
男女格差が厳しいのもあるが、騎士になると領地や俸給の問題が出てくるというのもある。地道にコツコツ手柄を積み重ねていくしかないだろう。
昨夜の大奮闘を思い返しつつ、彼女に助けられた俺はにっこり笑う。
「早く正式な騎士になれるよう、俺もお手伝いしますよ」
「ありがとうございます、ジュナン殿……」
少し照れくさそうに笑うカナティエは、本当に良い表情をしていた。この短期間で人間的にも幅が出てきた気がするな。
そしてなぜか、またしても姫が御機嫌斜めだ。
「おぬしはなんでカナには甘いのだ」
「特に差をつけているつもりはありませんよ。単に姫がひがみっぽいだけでは?」
「そういうところ! そういうところだぞ!」
姫が俺のブーツをぺしぺし蹴る。やめてください、みっともない。
俺はブーツを蹴られながら苦笑する。
「ではサクッと築城しますか」
「うむ!」
姫はうなずき、そして朝霧に霞むリュジオン河を指差した。
「ゆくゆくはサイダルを征服するぞ!」
やっぱり本当に侵略するつもりなんだ……。
本話で第1部完です。第2部は現在執筆中ですので、しばらくお待ちください(書き上がり次第、また全話予約投稿します)。




