モブの自覚(田中)青春部活?編
内容に合うタイトルを思いつきませんでした。
この世は意外にも多種多様なラブコメで溢れている。
そしてその数だけ、倍以上のモブキャラも溢れかえっている。
ガタイの良いイケメンに右ストレート1発でのされた時、
オレは自分が──主人公がヒロインを助ける時に出てくるやられ役。
言うなれば、弱っちいモブヤンキーであることを自覚した。
――――――――――
「護藤くん、その……守ってくれてありがとう。」
「礼には及ばない。漢として当然のことをしたまでだ。」
その言葉に制服姿の女子は目を輝かせた。
彼は逸材だと。
「護藤くん、すっごいカッコよかったよ! なんかスポーツやってる?」
「いや、特に今はやってない。」
「だったらさ、私がマネージャーしてるボクシング部に入ってよ!」
「ボクシング部?」
…いや黙って聞いてたらどんな青春部活ラブコメだよ?!
それなら別にモブヤンキー倒さなくても、もっと自然な流れがあるだろ⁉︎
理不尽に殴られた怒りで、思わず口に出してツッコんでしまいそうだったが──なんとか踏みとどまった。
いやいや、落ち着けオレ。そもそも前提が間違っている。
オレは不良ではないし、ましてやヤンキーでもない。
治安の悪い校区の中学に通ってた時、いじめられないように髪を染めてピアスを開けただけ。
その名残がまだ残っているだけで、ガチの喧嘩なんてしたこともない。
なんなら、痛いのはただただ嫌いな普通の高校生だ。
さっきまで女の子を取り囲む輩の1人になっていたのも、しょうもない事情がある。
面識は無いが、おそらく高校の先輩と思しき男共に、
「お前も来てくれ。いい思いさせてやるからよ〜」
と言われるがままついて行ったら、こうなった。
中学以来触れていなかった懐かしい空気に身体が釣られてしまったオレが悪いのはもちろんだが──
偏差値高めの高校のくせして、こんなベタなヤンキーがいる方が悪い。
そうこうしていると、オレが気絶したふりをしている間に体が癒えたのだろう。
ボコされたヤンキーの数人が立ち上がった。
「テメェ! 調子に乗るなよ! 女子の前だからってカッコつけんじゃねーよ!」
あまりにもベタ過ぎる台詞を吐きながら、ヤンキーたちは、
意味はさておき、少し良いムードになってる2人に殴りかかった。
よせばいいのに。
ガタイの良いイケメンに、オレと同じく右ストレートを浴びせられたヤンキー共は、
倒れたままでいるオレを超えて吹き飛ばされていった。
何という戦闘力だ。
ヤンキー達は大丈夫だろうか。あんなに飛んでったんだ。
きっと大怪我に違いない。
オレは恐怖のあまり、未来のボクシング部エースとマネージャーがいなくなるまで、
そのまま寝たフリを続けるしかなかった。
――――――――――
何分ぐらい経っただろうか。
2人がいなくなったのを確認すると、向こうのほうで動かなくなったヤンキーを心配しつつ、
オレは静かに身体を起こした。
すると突然、オレの全身に悪寒が駆け巡る。
「最後はお前か?」
芯から冷えるような気配を感じ、ゆっくりと後ろを振り返る。
あ、あれ? ヤンキーをボコして帰ったんじゃ……?
そこからの記憶ははっきりしない。
翌日。
実は今まで気が付かなかったが、右ストレートの少年が同じクラスであることが判明した。
俺がやられ役のモブとはいえ、彼に昨日の1人だと気づかれたら何されるかわからない。
オレは昼休み、弁当を持って──学校で安心して飯が食える場所を探す旅に出たのだった。
(完)
最後まで読んで頂きありがとう御座いました!