モブの自覚(高橋)妹がボーイッシュヒロイン編
ここまで読んで頂きありがとう御座います
この世は意外にも、多種多様なラブコメで溢れている。
そして、その数だけ──いや、その倍以上のモブキャラも溢れかえっているのだ。
妹よ。お兄ちゃんは、ボーイッシュヒロインがなんで男装してるのかをリアルに説明するためだけに存在する、「アニキのお下がりなんだよ、コレ」的な役割のモブだと思う。多分。
「お邪魔しまーす!」
「おう! 手洗ったら俺の部屋来いよ!」
おっと妹のお友達がやって来たようだな。玄関で妹がお出迎えをしていた。
お兄ちゃんに幼馴染はいなかったが、妹には一人、幼馴染がいる。
今し方、我が家に上がり込んだ気弱そうな男の子──あれがその幼馴染くんだ。
ふむ……あれは、おとこの娘ってやつだな。お兄ちゃんはアニメのおかげでよく知っているぞ!
すると、階段の方からドタドタと音を立てながら、短髪ボーイッシュ少女が部屋に転がり込んできた。
「アニキ! そ、その……今日は光平と部屋で遊ぶんだ。そ、それで……さ」
お兄ちゃんは分かっているぞ。妹よ。
今は女の子であることを隠しているフェーズなんだな。
来たる「お前! 本当は女だったのか」イベントのための布石なんだろ?
すべてを察したお兄ちゃんの取る行動は一つだ。
「おう、俺の部屋は自由に使っていいぞー。じゃ、お兄ちゃんはちょっと外で遊んでくるから。光平くんを絶対に射止めるんだぞ!」
「そそそ、そんなんじゃねーからぁ!!!」
「はいはい、行ってきます。」
顔をわかりやすく赤らめる我が妹。実に恋する乙女といった感じだ。
こんなにもわかりやすいのに、光平くんは本当に妹が女子であることに気づいていないのだろうか。見事な鈍感系主人公だな。
お兄ちゃんたる俺はゆっくりと階段を降り始める。すると、手を洗った気弱そうな少年が洗面所から出てきた。
「あ、お兄さん。お邪魔してます!」
ぺこりと一礼。なんて礼儀正しいやつなんだ。ここはお兄ちゃんらしい大人の風格を漂わせておくか。
「いらっしゃい、光平くん。いつもありがとうね。これからも末長く、一彩と仲良くしてやってくれ。」
「?……はい! もちろんです。いつもヒイロくんにはお世話になってます!」
──おっと危ない。モブなのに二人の関係に少々出過ぎたことをしてしまうところだった。
妹もしばらくは男同士の関係でいたいのだろうし、何より俺の部屋を自分の部屋と言い張って呼んでるのがその証拠かな。ここは黒子に徹さなければ。
光平くんはペコっとお辞儀をして、二階の妹の部屋という名の俺の部屋へと階段を駆け上がっていった。
「遅いぞー光平。ブラスマやろうぜ!」
「ヒイロが強すぎるから別のやりた〜い。モンポケ対戦にしようよ」
「仕方ねぇ〜なぁ〜」
うっすら聞こえてくる微笑ましいやり取りにニタニタと笑みを浮かべつつ、お兄ちゃんはモブとして邪魔しないように出掛ける準備を済ませる。
二歳上のお兄ちゃんだが、二年前にあんな微笑ましい存在だっただろうか。
PCゲームの強さでイキっていた、可愛らしさの欠片もない中二のクソガキだったな。
お兄ちゃんは嫌な記憶を振り払うように、さっとキャップを被り靴紐を結んで家を出た。目指すはエアコンの効いた大型市民図書館。金のない高校生にとっては最高の環境だ。無料であれだけのコンテンツを読み漁れる──お兄ちゃんにとっての夢の国だ。
鼻歌混じりに歩いていると、昼食をまだ取っていないことに気がついた。
昼食=人気のない三階多目的トイレが脳裏に浮かぶ自分が恐ろしい。しっかりしろ! お兄ちゃん!今日は日曜日だ!学校に蔓延る妹の連絡先をしつこく聞いてくる女子生徒共は、ここにはいない!優雅に一人ファミレスと洒落込むんだ!
にしても、ボーイッシュとはいえ、女子すらメロメロにするとは……さすがのイケメン。魔性の妹……だな。
そうこうすると、前方にゼリヤサイの看板が見えてきた。
ちなみにお兄ちゃんイチオシの料理は鶏肉のステーキだ。最高に美味い。
空腹からか、少し小走りになりながら──俺は光平くんの今後の頑張りに期待するのであった。(完)
後一話、おねがします