モブの自覚(鈴木)主人公席編
引き続き読んで頂き感謝です。
この世は意外にも、多種多様なラブコメで溢れており、
そして、その数だけ──いや、その倍以上のモブキャラも溢れかえっているのです。
皆さんは主人公席という概念をご存知でしょうか。
諸説ありますが、そこは教室の最も後ろ、そして最も廊下から離れた場所にあって、ふとした時に外を眺めて chill できる学校史上最高峰の場所の場所です。
そして僕は惜しくも最高峰の一つ前に座っているただの一般生徒です。
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「朝宮さん、また教科書忘れたの? ほらここ、次当たるとこ。」
「忘れて…ない。アツジくん…が、貸して…くれる…から。」
「…いつでも貸すし見せるけど、偶には自分で持ってこないと駄目だよ。朝宮さん!」
「ありが…とう。アツジ…くん、やさしい…とこ。好き…」
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席の運に見放された僕とは違い、現在学校の最高峰に位置しているのは温厚篤人さん、彼は穏やかで情が深く、誠実そうな好青年です。
そして僕と同じくニアピン賞である彼の右隣にはダウナー系? 不思議ちゃんと言うのでしょうか。非常に容姿端麗な朝宮さんがいます。
間違いないですね。確信しました。僕はこの2人の尊い空間を守るための防波堤としての役割を与えられたモブなんです!(断言)
それもそのはず。
もし主人公友人ポジのキャラクターが僕の席に座っていたらきっと彼はお調子者で、2人の空間なんてぶち壊すに決まっています。男女共に。
ですが僕は違います。
割と近くの席なら聞こえるであろうこの2人のイチャイチャも聞こえてない振りが完璧に出来ます。いや出来てしまいます。
そのうえ、僕の見た目は作画コストがかかるとされる教室で、一切見た目に凝る必要がないメカクレマッシュというモブっぷりを発揮しています。
アニメーターさんへ。僕という存在がせめてもの癒しとなってくれたら嬉しいな。
「アツジ…くん、顔が…真っ赤、だよ? 熱…でもある?」
「ち、近いよっ朝宮さん!僕は全然元気だから!そんな心配しなくても良いから!」
僕はは窓ガラスに反射した2人の様子を覗き見ます。
朝宮さんがアツジさんの額に手をやり、顔同士がもうキスしてしまうのではないかと思うくらい急接近だしてます。
うっひゃ〜!!! 尊すぎて目が潰れそうです! もっとやって下さい!
口をパクパクさせ湯気が出ているアツジさん、いや今作期待の主人公の様子に興奮して僕は思わず汚い笑みを溢してしまいました。グヘヘ…。
「おい! そこ、何をニヤニヤしている! お前次当てるぞ!」
「す、すいません!」
どうやら先生に僕の密かなお楽しみ中を見られてしまっていたらしいです。先生はそれほど怖くもない怒りの形相をこちらに向けてきています。髪の毛で隠れているのに僕の目線がみえるなんて恐ろしいやつです。
普通なら後ろの何やら動きが激しくなってきたカップル2人の方が先生に注意されると思うのですが、やはり僕は防波堤なのでしょう。
こちらは窮地に立たされてしまっても2人の世界は問題なく平和に保たれているようなので少し安心しました。
はやく付き合っちゃえば良いのになぁ〜
「それじゃこの問題を〜」
キーンコンカーンコーン
当てられる寸前で4限目終了を知らせるチャイムがなりました。
危ない危ない。ギリギリセーフみたいです。
「最後にやってくれ」
アウトでありました!がっかしです。
「えっと、そこのなんは係助詞なのであらむが省略されていると思います。」
さっと答えて間違った後、授業は筒が無く終了しました。
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さて昼休みになったことだし、僕はさっさとこの教室から退散します。
防波堤たる僕がいるときっと邪魔になってしまい、仲良く友達とお昼ご飯を食べられない。つまりは主人公、ヒロイン、友人キャラの絵の中にモブがいると余計な作画コストが増えてしまうという事です。アニメーターさんのお手を煩わせる訳にはいかないです。何より僕では映えませ。僕ががもうめっちゃくちゃ高身長イケメンだったら話は違ったかもですが…。そんな事はどうでも良くて、要するにどうぞ僕の席を占領、もといお使い下さいって話です。
「あさみっち!一緒にごはんタベヨー」
「アツジ飯食おうぜ!」
「ちょっと、『なんでお前がここにいるんだよ!』いるわけ?!」
そうこうしていると騒がしいご友人様方がやって来たようだ。モブである僕が離れるとすぐこうなります。やはり俺は防波堤。防波堤系モブなんです。
2人のことをずっと観ていたいですが、幸せなひと時を邪魔する訳にもいきません。推しの涙は俺の涙なんです。
そう考えながら俺 僕はは弁当とペットボトルで塞がった両手をどうにか駆使して教室のドアをスライドします。
ん?ところでモブたる僕はどこで食べるのかって?
勿論人気の無い2階多目的トイレに決まっていますよ。今更聞かないで下さい!(完)
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