聖足村の日常
夜明けの光が粗い麻のカーテンを透かし、柔らかな薄絹のように少女の淡い目尻に降り注ぐ。彼女のウサギの耳が微かに震え、まるで日差しと戯れているかのようだ。光はいたずらっぽく角度を変え、長いまつげをなでようとする。少女は眉を微かにひそめ、何かを懸命に避けようとしているようだった。
高山の麓には、聖足村という桃源郷のような小さな村がある。教皇の偉大な姿にちなんで名付けられた聖山アルクは、鋭い剣のように天を衝き、雲の中にそびえ立つ。山頂は一年中雪に覆われ、まるで真っ白な王冠のように、山全体に神秘的で壮大な彩りを添えている。
山麓の広大な平野は、巨大な緑の絨毯のように平坦で、その間には無数の聖なる実の茂みが群生している。これらの聖なる実は、実際にはごく普通の野生のベリーだが、並外れた品質を持っている。まるで大自然の寵児のように、野生の果実特有の酸味がなく、むしろ誘惑的な果実の香りを放っている。最も重要なのは、これらのベリーが慢性疾患に不思議な効能を持つことで、これが聖なる実の名の由来かもしれない。
「じゃあ、行ってきます。」
グネリは桜色のずきんをまとい、大きな竹籠を背負い、やや古風な木製の扉を開けて外に出た。門前の道には、人々がひしめき合っている。彼女は再び、かすかな不安を感じた。村の多くの人々と同じく、彼女の目的は、その神秘的な聖なる実を採集し、適切に貯蔵するか、あるいは丹念に美味しい菓子や芳醇な果実酒に加工することだ。これらは、聖山麓にある全ての村の主要な経済源となっている。
興味深いことに、聖山の周囲には三種類の色彩豊かなベリーが自生している。それは、炎のように燃える赤、海のように深い青、そして太陽のように輝く金色だ。かつて、他の色のベリーを別のベリーが自生する地域に移植しようと試みた者もいた。聖山は広大で、駿馬四頭立ての馬車で一周するのに丸一日かかるほどだが、それでも違う色のベリーを他の場所に植えようと試みられたのだ。
しかし、どんなに試みても、それぞれの色のベリーは特定の地域でしか育たなかった。人々がこの決して理解できない謎に直面したとき、神話は夜明けの光のように、静かに姿を現した。歴史とは、常にそうであるらしい。
「遠い昔、神がこの地に降り立ちました……」
少女は遠くそびえ立つ山を眺め、耳を微かに震わせた。ずきんの頂上にある二つの穴は、まるでそのウサギの耳のためにあつらえられた窓のように、ぴったりとそこから顔を出していた。
少女のささやきは、微風の中のさざ波のように、後ろにいたもう一組の猫耳に共鳴し、それらも軽く二度震えた。
「こんな時になって、あなた、まさか神学校を受けるとか言わないわよニャー。」
同じく巨大な竹籠を背負い、赤い猫耳のポンチョをまとったミヤタが、傍らでふくれっ面をして言った。周囲の多くの人々と同じく、彼女たちの目的は赤いベリーを採集することだ。
「違うの、私、最近よく夢を見るんだけど、いつも内容を思い出せないの。ただ、すごく大切なことだった気がして。」
ウサギの少女は遠くの聖山を見つめ、その瞳には一抹の迷いが浮かび、足取りさえも無意識に遅くなった。
「あー、わかるわかる。私、前にせっかく買ったクリスタルキャンディをなくしちゃって、何日も眠れなくてね。最後に夢で蓋の裏にキャンディがくっついてるのを見て、起きてみたら本当にあったのよ!」
ミヤタが歩み寄ってくるのを見て、グネリはこの抜けてる猫の冷たい額に触れ、頬を撫でた。二人はじゃれ合いながら山麓へと向かった。
ずっと昔、山麓の人々は二色のベリーが自生する地域の中間に定住した。その理由は言うまでもない。その後、様々な問題が次々と持ち上がり、そこで教会が調整に乗り出した。それ以来、各村はそれぞれの役割を果たし、採集効率が大幅に向上し、雰囲気も徐々に良い方向へと変わっていった。
王国北部は冬が異常に厳しいが、幸い四季がはっきりしており、景色は美しい。さらに北にある群島国家は、ほぼ一年中冬に覆われ、まるで時間がそこで止まっているかのようだ。一方、王国南部からさらに南は酷暑地帯で、山脈が縦横に走り、多くの活火山が活動している。簡単に言えば、人間が住むには全く適さない場所だ。しかし、種族の多様性ゆえに、多くの耐寒性や耐熱性を持つ種族が、この過酷な環境で平和に暮らしている。
「ミミ、私、採り終わったよ。あとどれくらい?」
聖なる実を採集する際は、まず葉をいくつか摘み、籠の底に敷く。次に、拳大の赤いベリーを一層敷き詰め、葉で区切り、さらに頂部に葉を敷く、という作業を繰り返す。朝から昼まで忙しく作業し、ようやく籠一杯になった。
「げぷっ、私も採り終わったニャー、帰ろっか。」
「あなた、食べ終わっただけでしょ?それじゃあ、あとでどうやってお昼ごはんを食べるのよ?」
ミヤタは籠を背負いながら歩いてきて、ポンチョで口元の真っ赤なベリーの汁を拭っていた。
「問題ニャ、歩いて帰るうちに消化されるニャ。」
「本当に大食いね。そんなに食べてもどうして太らないの?」
グネリはミヤタの反対側の口元を拭ってやった。
「私、成長期なんだニャー。たくさん食べるのは普通なの。ほら。」
ミヤタは胸を張った。それを見てグネリは少し落ち込んだ。そして彼女はミヤタを軽く叩き、ミヤタは震えたが、グネリはさらに落ち込んだ。
帰り道、グネリはわざとミヤタの後ろを歩いた。彼女は心で思った。人間は朝食を摂らないと力が出ない。亜人も同じだ。
「あの、グネリ様、グネリお姉ちゃん!そうだ!今日、神殿の神像がすっごく霊験あらたかだって聞いたの。午後にお願い事しに行こうよ!」
「ガツガツ、ゴクッ。ふぅ、私には偉大なるミヤタ様のお姉さんになる資格なんてないわ。それに、霊験あらたかかどうかが日によって違うなんて、そんな馬鹿げた話を信じるの?」
「ニャー……違うの!今朝、ここに来る前に道で誰かが言ってたの!神殿が昨日の夜に光を放ったって!」
「もっと信じられない話はないの?真夜中に神殿に参拝する人なんて見たことないでしょ?明らかにデマよ。」
「え?でも……そんなデマを流す意味なんて、全くないニャ?」
「うーん……たぶん、伝わるうちに内容がずれたんでしょうね。だってデマを流す人なんて、ろくなもんじゃないし。」
「ニャー……私、まだ聞いたことがあって……聞いたことがあって……」
ミヤタは焦った顔で、グネリの口を休ませないために話を続けようとした。
「でも、私、やっぱり神殿にお参りに行きたい気分なの。」
「え?なんでニャ?」
「うーん……うまく言えないの。昨日の夢がまだ少し気になってるからかな。」
「それで、昨日の夜、何を見たの?」
「全く思い出せないから困ってるのよ。聖殿に関係があるような気がするんだけど、多分。」
「うんうん、じゃあ私、先に家に果物届けに行くね。後でご飯食べたら探しに行くニャ!」
二人は話し合いながら村へ戻った。村の門に入る前、ミヤタは待ちきれないとばかりに戦場から離脱した。グネリは遠ざかる揺れる猫の尻尾を呆れたように見つめた。
「たぶん、頭が良すぎて成長が止まってるんだろうね。まさに、賢すぎてかえって失敗するってやつ?」
ギシギシと音を立てながら、グネリは巣に戻る疲れ切った鳥のように自分の木小屋へ帰った。彼女は大切そうにベリーを宝物のように安置すると、ほっと一息つき、台所へ入って昼食の準備を始めた。なぜなら、先ほどのミヤタのベリを本当に食べていたわけではなかったからだ。
聖山麓の三つの村には、多くの孤児や子供のいない老人が暮らしている。大規模な戦争はすでに終結していたが、国境付近では小競り合いが絶えず、野外の危険な動物も猛獣のように凶暴で、人々の生存に重い試練をもたらしていた。聖山はまるで堅固な要塞のように王国の中心部にそびえ立ち、亡くなった戦士たちの遺族に、嵐を避ける港のような安全な生活空間を提供していた。
木製の扉がギシッと音を立ててゆっくりと開いた。まるで年老いた者が歳月の物語を語るかのようだ。昼食を済ませたグネリは、軽やかな足取りでその猫を捜しに行った。
グネリは14歳まで国立修道院で暮らし、まるで蕾のように修道院の庇護の下で健やかに育った。まだ言葉を話し始めたばかりの頃、両親は流星のように戦場で散った。時が流れ、両親の面影は彼女の記憶の中で薄れ、朝霧の中の幻影のようだった。
修道院での日々、彼女は貪るように聖典を学び、文化的な知識を吸収し、戦闘技術を磨き、様々な職業技能を習得した。今年でこの村に来て四年目になるが、一日も休まずベリーの採集を続けている。見た目は非常に大変そうだが、実際はそうでもない。だいたい朝7時から昼12時には仕事が終わり、そのうち往復の道に2時間を費やしている。
ベリーの鮮度を保つため、村の経済生活は厳格な買い取りスケジュールに基づいて行われている。毎週月、水、金曜日には教会の馬車が定刻に到着し、ベリーを買い取る。各家庭は最低量を納めなければならない。その直後、毎週火、木、金曜日には商会の馬車も時間通りに到着する。両者の買い取り価格は同じだが、商会はベリーだけでなく、ベリーを加工した様々な製品も買い取る。加工には時間と労力がかかるが、製品の価格はベリーを直接売るよりもはるかに高価だ。さらに、商人たちは決して手ぶらで来ることはなく、様々な食料品や商品をもたらし、静かな村に活気を添えている。
村の商店もこの恩恵を受けている。商会は帰り便に積むベリーの量を増やすため、売れ残った商品を商店に安く売却する。この取引は双方にとって有益だ。商店は腐りやすい食品原料を安く買い取り、加工して保存期間の長い製品に変えることができる。道具や材料についても同様で、堅実な利益を確保している。
「来た来た、ニャー。」
「もう、あなたに家を食い潰されるんじゃないかって心配になるわ。普通の女の子が鶏のモモ肉をかじってるだけでも珍しいのに、あなたは丸鶏をくわえてるなんて何なのよ?」
「あなたのもあるよ。」
ミヤタの祖父は村で名の知れた商店の店主で、寛大で義理堅い人だった。ミヤタは幼い頃に祖父母と聖足村へ移り住んだ。グネリは内心で推測した。この小さな子が驚くほどの大食いだから、家が思い切って商店を始めたのかもしれない、と。
「私たち、このまま直接行くの?」
「ええ、そうよ?何か良い案でもあるの?」
「んー、おやつとかお弁当とか持って行った方がいいかなーって、ニャー。」
「まさか、まだ食べられるの?私、ちょっと怖くなってきたんだけど。」
「だって、あそこに着くのが午後3時くらいでしょ?帰ってくる頃には6時過ぎるんじゃない?夕食の時間過ぎちゃうニャ!」
「もう何も言えないわ。だから、あなたの言う通りにする。」
「あ?あー……わかった。」
振り返ってさらに二つのバッグを背負って出てきた猫を見て、グネリは呆れたように手に持った丸鶏を抱え、急いで出発するように促した。二人は連れ立って山腹の神殿へと進んでいった。
神殿は山腹にある自然の洞窟の中に位置している。今では、石レンガの壁、床、天井が、かつて洞窟だった面影を完全に覆い隠している。長い通路を抜けると、広々とした広間があった。十数本の石柱がまるで天を支える巨柱のように、高くそびえる天井を支えている。中央に敷かれた絨毯は、まるで豪華な絹の帯のようだ。周囲の水槽からはサラサラと水が流れ、部屋を巡り、最終的に洞窟の外にある円形の水盤へと注がれている。
広間の奥には、巨大な石板が壁に嵌め込まれており、まるで神秘的な絵巻物のようだ。石板には巨大なレリーフが彫刻されており、厳かな姿の女神が描かれている。彼女の顔は曖昧で神聖だが、三対の薄く巨大な翼が生えている。これらの翼は鳥や昆虫の羽ではなく、無数の交錯した鋭い刃のような金属片で構成されており、光の中で不気味な光を放ち、まるでいつでも壁から抜け出しそうな勢いだ。彼女は片手を伸ばし、抽象的で神秘的な模様を指し示している。その模様は、まるで遠い古代の暗号のように、解読されるのを待っているかのようだ。
神殿では、グネリは巨大なレリーフの前でひざまずき、うっとりと見つめていた。まるでその壁画と一体になったかのようだ。一方、ミヤタは片手に山盛りの菓子を抱え、もう一方の手で口に運んでいる。まるで貪欲なリスのようだ。ついさっきまで彼女もグネリの隣でひざまずいていたが、グネリの「神様の前で叩くのはやめてちょうだい」という一言が、まるで雷鳴のように響き渡り、彼女を驚かせた。驚いた鳥のように、彼女は脇の柱の陰に逃げ込んだのだ。
「はぁ……」
グネリは結局何も得られず、顔には残念そうな表情が浮かんでいた。彼女は両手を合わせ、目を閉じ、敬虔な信者のように祈りを捧げた。
「ちっ、この扉も壊れてるのか?」
壁画の奥から、はっきりしない話し声が聞こえてきた。まるで冥府の悪鬼がささやいているかのようだ。続けて、金属が軋む音が絶え間なく聞こえてきた。その音は、鋭い剣のように二人の少女の耳を刺し、彼女たちは苦痛に顔を覆った。幸い、その音はすぐに「ドカン」と音を立てて消え去った。まるで悪夢の終わりを告げるかのようだ。
「くそっ!?誰だ、扉の後ろに壁を築いた奴は?病気か。」
壁画の奥からは、よりはっきりとした声が聞こえてきた。まだやや不明瞭ではあるが、話している者の怒りと戸惑いが感じられた。ミヤタはすでに菓子を投げ捨て、グネリを引っ張って後ずさりしようとしたが、グネリはまるで金縛りにでもあったかのように、身動き一つできなかった。彼女はミヤタに引きずられて転びそうになったが、それでも壁画と心中するかのように前へともがき続け、結果的にミヤタをも巻き添えにしてしまった。
「ドン、ドン。おお、あんまり厚くないな?」
壁画の中から数回の振動が伝わってきた。大地が揺れているかのようだ。ほこりが柳の綿毛のように、細かな石と共にサラサラと落ちてきた。すると、赤い光を放つ手が、悪魔の鉤爪のように、レリーフの中から猛然と突き出された。
「ジェジェジェ……」
恐ろしい笑い声と共に、その手は引っ込んだ。そして石の壁は、王国南部の特産品である豆腐のように揉み潰され、剥がれ落ちた。土煙が舞い上がる中、赤い光を放つ人影が壁の穴から現れた。
「誰かいるのか?ああ……怪我はないか?」
グネリは先ほどからゾンビのように固まっていた。ミヤタは涙を流しながら、必死に後ろへともがいたが、その足はグネリにしっかりと掴まれており、まるで鉄のペンチで挟まれたかのように、その場で空しく滑るばかりだった。彼女が恐怖のあまり泣いているのか、グネリに掴まれて痛いのかは定かではなかった。
砂塵が舞い上がる中、金色の流れる模様が嵌め込まれた銀白色の体が、まるで霧の中から現れた。二人の少女の狼狽ぶりに、さらに驚愕が加わった。
「そんなに怖がることないだろう。ここは神殿だぞ。まさか神殿から魑魅魍魎が飛び出すわけでもあるまいし。」
「神は全人類の富の源であり、すべての上に君臨する存在です。聖典のこの言葉は比喩ではないのですか?!」
グネリはかすかに呟き、目は銅鑼のように丸く見開かれた。何かを突然悟ったかのようだ。目の前の少女を見つめる。その清らかな顔立ち、人間の五体、手足も人間のようだ。ただ、一対のウサギの耳が際立って目を引く。これは文献に描かれているものとは大きく異なっている。もはや獣人種とは呼べない、あるいは人獣種と呼ぶべきか?時間の経過によるものか、繁殖によって遺伝子の割合に何らかの変化が生じたのだろうか。
「あ、あの、あなたは……神様ですか?」
一瞬の冷静さを取り戻した後、グネリはついに勇気を出して口を開いた。
「あまり複雑に説明すると、君たちには理解できないだろう。簡単に言えば、そうだ。」
「では、あなたは……誰の神様なのですか?」
「うーん。その質問は本当に難しいな。そうだね、全ての生き物の神?いや、私を信仰する人々の神かな。信仰してくれないのに、私が彼らの神である必要はないだろう?理にかなっているだろう?」
「申し訳ありません、神明様。私に不敬な気持ちは微塵もございません。」
グネリは両膝を地につけ、お尻を高く突き出し、恍惚とした様子でハート型になった。
「実は、私たち人間種の神は、美しい女神様なんです!あのレリーフに彫られている方です!」
神明は振り返ってレリーフを見上げ、それから地面の瓦礫の山に目を落とし、沈黙した。その一瞬の静けさを利用して、ミヤタはそっと、まるで注意を引きたくないかのように、ゆっくりと逆さのスペードの形になり、尻尾を真っ直ぐに立てた。
「君たちの女神はまだ眠っている。私も彼女を目覚めさせる方法を探しているんだ。」
「神明様、あなたは私たちの女神様とどのような関係なのですか?」
「関係?うーん……私は彼女の使用者だ。今や、彼女に命令できる唯一の存在だ。彼女の主人と言ってもいいだろう。でも正直なところ、私は彼女が、その、ゴホン……君たちの女神が眠りにつく前、ここで何をしていたのかは知らない。」
グネリの心には、その短い一言で、一瞬にしてあまりにも多くの考えが駆け巡った。ひざまずく二人は皆、沈黙していた。もちろんミヤタは、すでに極度の驚きで半失神状態だった。
「よし、ひざまずくのはもういい。立ちなさい。気楽にしてくれても構わない。」
二匹の小動物は、空気が抜けたボールのように地面に崩れ落ちた。白金の体は、穏やかな山のように地に座り込み、二人の心が落ち着くのを静かに待っていた。二人の少女は、偉大な神明様が何の威厳もなく、むしろ親しみやすい様子で、さらに心を落ち着かせる音楽を流す小さな箱を取り出したのを見て、心に次々と湧き上がる思いを徐々に鎮め、ついに平静を取り戻した。
「ララララ……」
音楽の再生が終わると、箱は音も光も放たなくなり、まるで疲れた歌手が最後の歌を歌い終えたかのようだ。
「ありがとうございます、慈悲深き神明様。私たちの無礼をお許しください。まだ、神明様の御名をお伺いしておりませんでした。」
グネリは彫像のように端座してひざまずき、恭しく頭を下げた。
「ええと、正直に言うと、私の記憶は完全ではないんだ。君たちの女神は何という名前なんだい?」
「偉大なる女神の御名はキドポス様でございます。」
グネリは再び頭を下げた。その動作は、訓練された兵士のように正確だった。
「君の敬虔な信仰は見える。では、女神キドポスの功績について話してくれないか。ただし、簡潔に、50字以内で頼む。」
グネリの笑顔は少し引きつり、まるで何か悪いことをした子供のように指を噛みながら俯いて考え込んだ。
「あの、私、言ってもいいですか、ニャー?」
ミヤタはひざまずいたまま、そっと手を挙げた。まるで発言したいが怖がっている生徒のようで、いくらか臆病そうに見えた。
「言った後の末路を考えてるんでしょ?」
グネリは顔も向けず、鋭い刃のような視線で、目尻の端からミヤタをじろりと睨んだ。
「おや、君のウサギは随分と凶暴だな。構わない、彼女に話してもらおう。」
グネリは黙って視線を戻し、俯いて目を閉じた。正直なところ、この少女は時々少し恐ろしい。
「えっと……女神様は……戦乱を鎮め、恵みと平和をもたらしました。聖山を中心とし境界とし、四つの国が築かれ、平和に共存しました。百年後、女神様が姿を消し、世界は再び動揺しました。王国が聖山を占領し、女神様に代わって諸国を調停しました。50字以内でしたか?」
ミヤタはほとんど指折り数えながら話していた。グネリの口元は引きつっていた。
「神明様、これには千万の理由がございますが、神への信仰だけは決して変わっておりません、と信じてください。」
「おお、なるほど。最近数百年はかなり動乱だったようだね。しかし、教会は君をよく育てたな。子猫もなかなかやる、簡潔にまとめてくれた。」
「神様、ありがとうニャー!」
「うん……そうだね、恩恵として、君たちの願いを聞いてあげよう。」
世間では偉大な神明とされている彼だが、確かに魔法は使えない。だが、過度に発達した科学は魔法と何ら変わりない。もちろん言葉遣いも厳格で、「聞く」と言っただけで、「叶える」とは言っていない。
「神明様、私は昨日啓示を受け、今日参拝に参りました。もしお許しいただけるのなら、この国の聖女となり、神明様にお仕えし、あなたの御意を伝えたいと存じます。」
「啓示?いいだろう、それは重要ではない。問題ない、今日から君は聖女だ。」
ひざまずいて願いを述べたグネリが身を起こす間もなく、神明は一瞬で彼女の懇願を叶えた。しかし、この神明が新参者で、「働き手」を求めていることをグネリは知る由もなかった。聖女という役割がどれほどの権力や恩恵をもたらすかなど、神は気にも留めない。方舟を出てすぐ使える人材に出会えるのは、自分で駆けずり回って神の身分を説明するより、どれほど都合が良いことか。
「えっと、ご恩典に感謝いたします。」
グネリも神がこんなに早く承諾するとは思っていなかったようで、少し言葉に詰まった後、すぐに再び頭を下げた。
「では、子猫、君の願いは何だ?」
「えっと……うーん……あー……」
しまった、このわがままな子は真剣に何を食べるか考えてるに違いない、よだれまで垂らしてるぞ。
「まだ決まってないなら、また後ででもいいんだぞ。」
グネリははっとした。「そんな手があったんだ!?」と顔に書いてあった。
「えへへ、じゃあ私、先に考えるので、いつか決まったら神明様に伝えます。」
「神明様、あなたの御名について、私はどのように世の人々に伝えればよろしいでしょうか?」
「おお……それなら、君たち二人で名前を考えてくれないか。私が自分で名前を決めると、あまりに大げさになりすぎて、かえって相応しくないかもしれないからね。」
グネリの目は、夏至の月のように真ん丸になった。神に名前をつけるというのは、少々荷が重すぎるかもしれない。
「わたくしは、ほんの数年書物を読んだだけの孤児でございます。恐れ多くて神明様に御名を差し上げるなど、滅相もございません!」
「緊張するな、舌を噛み切らなかったか?じゃあ、君はどうだ、子猫、名付けは得意か?」
「あ?あ、いえいえいえ、わたくしはただの村の猫でございます。神様に名前をお付けするなんて、恐れ多いです。」
「駄目だ。これは命令だ。名前をつけろ。」
グネリは体を微かに後ろに反らせ、呆然とした表情を浮かべた。彼女は神に出会ったことはなかったが、聖典に対する理解には自信があった。しかし、こんな神様は本当に見たことがなかった。
聖殿の中は、灯火が常に明るく灯り、夕日はゆっくりと沈んでいった。現在の民情をいくつか理解し、話し合いを重ねた結果、白金主神、フィオスという名が最終的に決定された。グネリは、これまで学んできた知識を全て使い果たしたような、心身共に疲れ果てた感覚に陥っていた。
「あ!いけない……もうこんな時間だ。」
一件落着して安心したグネリは、はっとした。すでに外は漆黒の闇に包まれていた。
「主神様、私、一人暮らしなので問題ありませんが、ミヤタの家族はもう待ち焦がれているかもしれません。今日、聖殿に来る前に家族には行き先を伝えてありますから、今頃は探し始めているでしょう。」
「おお、そうか。では、私がお前たちを送っていこう。日が暮れると山道も歩きにくいからな。」
神明は小さな板を取り出してボタンをいくつか押した。するとすぐに、銀白色の金属製の馬が一頭、壁の中から飛び出してきた。元々あった洞窟の穴は、さらに大きくなった。
「これは試作1号だ。聖女の乗り物にするといい。言葉は話せないが、簡単な命令なら理解できる。私、数日間ここを片付けるつもりだ。準備ができたら君たちに知らせよう。」