第07話
ある日、侯爵家に甲高い声が響き渡る。
「姉さま、姉さまっ!本当にここに住んでるの!?うわっ、噴水ある!?あれ見て、馬車が三台並べる車寄せ――!」
「セシリア、少し静かになさいっ!」
マルグリットがいつもより高めの声で妹を叱る横で、父・アドルフはやたらと背筋を伸ばし、侯爵邸の応接間にどっかりと座っていた。
その対面に、リディアとセレノが並んで座る。
「……立派な屋敷だな」
「侯爵家ですからね、お父様……」
「そ、それはそうだが……娘がこの空間に馴染んでいるのが、なんというか……」
「なんか、もう……申し訳ありません……」
リディアが肩を落としかけた時だった。
「謝ることなどない」
静かに、しかしはっきりと、セレノが口を開く。
普通だったらメイドとかに紅茶をいれてもてなすのだが、その紅茶を何故か侯爵が入れている。
以前も同じような事があったので聞いてみると、セレノではなく、従者であるフェルが笑顔で言ってきた。
「紅茶を入れるのは閣下の趣味なんですよ」
――その時、何故か可愛らしいと思ってしまったとは、言えない。
話は戻り、リディアの父、アドルフの前にカップを置いてはっきりと言った。
「彼女はここにふさわしい……むしろ、もっと早く迎えるべきだったと私は思っている」
その言葉を聞いた瞬間、一同、沈黙してしまう。
「まっ……まっ……マルグリット!?お、おま……泣くな!」
「だって……! そんなストレートに褒めてくれる人、あの子の人生で初めてよ……!」
「セレノ様、そんな……私、褒められるような人間じゃ――」
「私は自分の目を信じる」
自然と、そのままセレノはリディアの手を自然に取った。
「リディアは誇り高く、優しく、そして意志を持って立っている。それだけで、侯爵家の名にふさわしい」
「ちょ、ま……せ、セレノ様ッ!」
「だから『様』はいらん」
その言葉を聞いた家族。
母が泣き、妹が拍手し、父が頭を抱える。
「……お、おい……娘の人生、俺たちもう口出せないんじゃ……」
「今ごろ気づいたの!?私なんか昨日からこれは間違いないって思ってたわよ!」
「セシリア、言葉を選びなさいっ!」
▽
結局、マルグリットとセシリアは屋敷内を見学し、何かあるたび「ここにリディアが……」と感慨に浸り、アドルフは終始「うちの娘に本当に本気なのか」と詰問し続け、そしてセレノは、一切動じず、堂々と全員に向かってこう言った。
「私は、彼女を娶るつもりでいる。契約など、私にとってはただの口実──『愛している』などと、まだ軽々しくは言えない。だが、これだけは確かだ。私は、彼女以外を妻にするつもりはない」
――その発言が、翌週には社交界全体を揺らす大噂になることを。この場の誰も、まだ知らなかった。
そして、そんな義理の兄にある男、セレノを見た妹のセシリアは笑顔で彼の手を握りしめる。
真剣な眼差しで。
「絶対に幸せにしないと、許しませんからねお義兄様!」
「ああ、そのつもりだ」
姉大好きなセシリアがその時、この男なら絶対に信頼できる、幸せにしてくれると、感じる瞬間だった。
そしてその姿を見て、アドルフはとりあえず胃が痛くなる感覚を覚えたのだと言う。
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