表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/14

第02話

朝の王都は、冷たい風が吹いていた。

リディア・エインズワースは、中央広場の石畳に足を置き、一枚の厚紙を胸元に掲げる。


《結婚相手、真剣に募集中です》


丁寧な筆致で書かれたプレート。

その場違いな文字に、道行く人々は二度見し、そして囁き合う。


「何あれ……冗談?」

「まさか本気……?」

「あれ、エインズワース家の令嬢じゃない?」


それでもリディアは、一歩も引かなかった。

心臓が早鐘を打つ。けれど足は震えない。

全ては、一人で考えた事。

見つからなければ、自分で探せばいい――しかし、リディアはこのような行動しか思いつかなかったのである。


 今回の婚約破棄の事で、大切な家族には迷惑をかけてしまった。

 だからって、これからの事を家族に決めてもらうわけにはいかない。

 周りに変人と言われても、構わない――そのぐらいの覚悟で、この看板を掲げたのだ。


(だから、私は――)


 リディアは真剣な眼差しを見せながらその場に立っていた、時である。

 突然背後から影が出来たのである。


(え……)


「……随分と、思い切ったことをするのだな」


背後から聞こえる声に、リディアは反射的に振り返る。

目の前にいたのは、黒の外套を身にまとい、銀の瞳を持つ青年貴族。

美しい容姿をしている人物に、リディアは全く持って見覚えのない人物だった。


「あの、えっと……失礼ですが、あなたは?」

「初めまして、リディア・エインズワース嬢……私はセレノ・ヴィスケ。侯爵家の出身だ」

「え……」


その名を聞いた瞬間、リディアの呼吸が止まる。

王都でも名高い若き侯爵。

冷徹、無感情、情に流されぬ男――そう評される彼が、なぜ自分の目の前にいるのか理解出来なかったリディアは呆然と目の前の人物を見つめる事しか出来ない。

彼は無表情の顔でリディアに視線を向けながら、答える。


「君の名前が見えた……まさかと思ったが、本当に――」

「あの……私に何か御用でしょうか?」

「君のそのプレートを見て、声をかけた」

「え――」


「婚約者を探しているのであればこの私はどうだろうか?」


「……はい?」


 突然そのような言葉を言われて、目の前の人物は一体何を言いだすのだろうか?

 ただ淡々と、まるで自分を観察するかのように、リディアに目を向ける。

 もしかして、からかいに来たのであろうかと

リディアは警戒を滲ませつつも、目を逸らさない。


「からかいに来られたのなら、結構ですわ」

「からかう気はない、本気だ」


セレノは懐から封筒を取り出し、スッと差し出す。


「もちろん、ただとは言わない……嫌ならば、まず契約として婚約者になるのはどうだろうか?」

「……契約、ですか?」

「形式上の婚約。一定期間を過ぎれば解消も可能。だが、互いに利益のある関係だ。君は体面を守れ、私は外部からの縁談を断れる……どうだ?」

「……」


どうして自分なのか、リディアはわからない。

しかし、目の前の人物が嘘を言っているようには思えなかった。

リディアの唇が少しだけ震えながら、ゆっくりとセレノに目を向けた。


「――私のような地味な女を、利用するつもりですか?」


「……半分は正解だ。最近、親戚たちから縁談をどのように断ろうか考えていたら、君のプレートを見た。もう半分は――」

「半分、は?」


「──私は結構、君の事を気に入っているのだよ、リディア嬢」


気に入っていると言うその意味は、どのような意味なのだろうか?

小声で、囁くように答えたセレノの言葉に、リディアの鼓動が早くなる。

セレノの目は冷たいのに、なぜか心の奥まで突き刺さってくる。

 心臓を抑えるようにしながら、一度だけ大きく息を吸った後、リディアはセレノに目を向けて答えた。


「……ひとつだけ、条件があります」

「言ってみろ」

「浮気は、絶対にしないでください。それが『契約』でも、『仮』でも、『建前』でも──もう、誰かに裏切られるのは嫌なんです」


 例え、これが『契約』な事でも、嫌なモノは嫌だった。

 一拍の沈黙の後、セレノは頷いた。


「わかった。約束しよう。契約であろうと、私は一度選んだ相手以外には、決して触れない」


その声音に、偽りは感じられなかった。

 セレノの言葉に、リディアは安堵する。

 ふと、何かを思い出したかのように、セレノはリディアに向けて言った。


「それと、君のことを『地味』などとは、一度も思っていない。むしろ、そのプレートを掲げて立つ姿は、誰よりも美しかった」


それが褒め言葉だと理解したとき、リディアは思わずうつむいた。

耳の先まで、熱い。


「……わかりました。契約、受けます」


その言葉を聞いたセレノが、ほんの少しだけ、唇の端を持ち上げた気がした。

その瞬間。

寒空の下で、リディアの人生は静かに、新しく動き出した。


読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ