第09話
再びレオンが屋敷に現れたのは、数日ぶりだった。
まさか、再び訪ねてくるとはないだろうと思っていたリディアの前で、レオンはリディアを取り戻したい、のではなく、言い訳を並べに来た様子が見られた。
いつも以上に憔悴しきっている顔をみせながら、レオンは話を続ける。
「……俺も、少し焦っていたんだ……家の事情もあって、周囲の目も気になって……でも、君と別れてよかったとは思っていない。むしろ、後悔しているんだ」
レオンの言葉は、以前よりもよく練られている。
まるで、自分は反省しております、と言う男の仮面をつけて、それなりに誠実に見せようとしているのが分かった。
しかし、何度来ても時すでに遅し。
リディアはそっと、紅茶をテーブルに置く。
「……その後悔は、どこに向いているものですか?」
「え?」
「私を失ったことを後悔しているのですか?それとも、社交界の評判が下がったこと、資産的な安定が崩れたこと、を後悔しているのですか?」
リディアの言葉を聞いて、レオンの目が見開いている。
(まさか、気づいていないとでも思ったのかしら?)
鋭い視線を向けながら、リディアはレオンを見る。
一方のレオンは何も言い返せず――彼の本音は既に彼女に見抜かれていたのである。
「私、あなたが以前言った言葉……地味だから、婚約破棄してほしいと言う言葉につきましては、もう怒っていないんです。そもそも、あなたが求めていた姿だったのだと、思っておりましたので」
「リ、リディア……」
「でも、あなたは『私』と言う存在を見ていませんでした……見ていたのは、家柄と体面と、あなた自身の見栄、それだけでしょう?」
静かで、優しく、しかし一切の情を残さない声を、レオンに聞かせる。
「そんなあなたに、もう何も感じていません。哀れだとも思いません。可哀想だとも思いません──ただ、関わりたくない。それだけです」
「リディア……そ、それでも――」
「――私の人生から消えていただけませんか?あなたが消えていただかないと、私は幸せになれない、そのように思っているんです」
まっすぐな瞳で、リディアははっきりとレオンに告げる。
これ以上何を言っても無駄なのかもしれないと感じさせるほど、リディアの決意は固かった。
既に彼女の心の中には元婚約者の存在など、どうでも良かったのだ――と言うような感じで。
レオンが何かを言いかけたとき、扉が再び開いた。
「……もう十分だな」
扉から現れ、入ってきたセレノ・ヴィスケが、二人の前に姿を見せる。
リディアが何かを言おうとした時、セレノはそんな彼女の前に立ち、目の前の男を睨みつけるようにしながら、話を始めた。
「君がリディアの価値を見誤ったこと、それはもう過去の話だ。だが、彼女にとっては踏みつけられた時間だ……その重さを、二度と計り間違えるな」
「セレノ、さま……」
リディアが、少しだけ彼を見上げる。
その目には、もう揺れはなかった。
「――お引き取りください、レオン様」
「……っ……!」
レオンは、一度ショックを受けたような顔をした後、唇を噛みしめたまま、一礼もせずに去っていった。
扉が閉まる音と同時に、セレノがため息を吐いた後、静かに訊く。
「……大丈夫か?」
「ええ。あの人はもう過去の人です……私が自分で選んだ道を歩くために、必要だった人です。でも今は――あなたの隣にいる今の私が、いちばん好きです」
「……君は、もうとっくに前だけを見ているんだな」
「もちろんですよ!」
セレノの言葉に、リディアは笑顔で返事をする。
その姿を見たセレノはふっと息を吐き、そしてそのまま、彼女の手を取った。
「今夜は、少しだけ私のわがままを聞いてくれ」
「わがまま、ですか?」
「……君の時間を独占したい。その心が、私のものかどうか、まだ確かめたい」
「…………え?」
その言葉を聞いたリディアはその場で固まるが、セレノは優しくリディアの手を優しく握りしめ、彼女の目を静かに見つめるのだった。
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