第08話
数日後――実家にて妹と楽しく会話をしつつ、楽しくお茶を飲んでいた時だった。
突然の来客で、しかも相手はあの男なのである。
クラウゼル子爵家の嫡男、レオン・クラウゼル。
父、アドルフの眉間がピクリと動く。
母、マルグリットはあからさまに睨み、セシリアは口元を手で押さえ、笑いをこらえていた(完全にバレていた)。
「……どうしましょうか?リディア、会いますか?」
「お前の意志に任せる。が、無理をするなとは言っておく」
「……ありがとうございます。お母様、お父様」
頷いて客間に通されたリディアは、静かに向かいの椅子に座る。
そこに座っていたのは、あの夜会と変わらないが、何処か青ざめた顔をしているレオンの姿だった。
レオンは、久しぶりに見た彼女の姿に、再び言葉を失いかけた。
(やっぱり……いや、今のリディアは、以前とはまるで違う)
赤いドレスではないが、彼女はもう“地味な令嬢”ではなかった。
その立ち居振る舞いも、姿勢も、空気すらも。
レオンは、彼女が座るのを確認した後、すぐさま頭を下げた。
「……改めて言わせてくれ。あの時は、俺が……間違っていた」
沈黙が落ちる。
その中でリディアは、紅茶にそっと口をつけ、淡々と答える。
「どの部分が“間違っていた”とお思いですか?」
「そ、それは……君が、あそこまで魅力的になるなんて……」
「つまり、華やかになった私なら、また隣に立たせてやってもいいと?」
レオンの顔が引きつる。
「い、いや、そんな……!」
「今さら、あなたに許される価値が、私にあると?」
その声には、怒りも、涙もなかった。
ただ静かに、突き放すような冷たさがあった。
「侯爵閣下とは……ただの契約なのだろう?なら、まだ一緒になれる余地があると思ったんだ……!」
「契約だからこそ、私は選んでいただいたんです。誓っていただいたんです。『浮気をしない』と……あなたの口からは、一度も出なかった言葉ですね……それに、私があの姿をしていたのは、あなたが私に言ったからでしょう?」
「そ、それは……」
「『俺を引き立てる為――』と言っておりましたね……だから、私はあの姿をしていただけです。本当ならば、今どきの令嬢たちのように、おしゃれとかしてみたかったんです。でも、あなたのためだと思って――いえ、やめましょう。これじゃあある意味八つ当たりです」
本当は、普通の令嬢たちのように、おしゃれをしたかった。
しかし、婚約者であるレオンがそれを望んでいなかったから、リディアはあえて地味な格好をしていた。
それを指摘したのは、レオンだ――忘れたとは言わせない。
レオンが何かを言おうと口を開いた瞬間、扉が突然開いた。
そこから現れた人物に、リディアは驚いた――何故、実家に来ているのかと考えるほど。
「『浮気をしない』という言葉は、契約ではなく、私の矜持でもある」
低く、鋭い声が客間を貫く。
「……セレノ、さま」
「私の許可なく、彼女と二人きりで話すこと自体が不快だったが……聞く価値はあった。それと、『様』ではなく、『セレノ』と言えと何度も言っているだろう?」
リディアにそのように告げた後、セレノはレオンに向かって、まっすぐに歩を進める。
「『仮契約』だったからといって、彼女が他人であると思うのは愚かだ。今この瞬間、君が彼女に向けたその視線ひとつすら、私の許容の範囲を超えている」
「お、お言葉ですが、侯爵閣下……!」
「君はもう彼女と婚約を破棄した……君が望んだんだ。その時点で、二度と彼女の隣に立つ資格は失われている」
「そ、そんな……ッ」
レオンはまだ何かを言おうとしていたのだが、言葉が出なかった。
そのまま立ち上がり、屋敷から逃げるように去っていった。
その背に、リディアは静かに言葉を重ねた。
「……土下座でも、謝罪でも、足りませんわ。あなたが私に捨てた言葉の重さは、もう返せないのですから」
▽
レオンの『敗北』は、再び社交界に噂となって広がっていく。
一方その頃、セシリアは部屋の隅で小さくガッツポーズを取っていた。
「……あ〜気持ちいい……これが『ざまぁ』ってやつだわ……さて、まだまだ容赦しないわ、レオン様?」
ニヤっと笑うセシリアの姿を見たものは、誰もいない。
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