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第00話


「……リディア……すまないが、この婚約はなかったことにさせてくれ」

「……え?」


 突然の言葉を聞いて、リディアは目の前が一瞬にして真っ黒になってしまった。

 そして、その言葉を理解するのに、数秒掛かってしまったのである。


 冬の空気よりも冷たい沈黙が、応接間を支配している。

 その支配している部屋で、対面に座る青年――リディアの婚約者、いや既にもう元、婚約者と言っていいほどの男、レオンは何処か申し訳なさそうな顔をしつつも、視線は何処か別の所を向いている。

 リディアの顔など、見ていないのだ。

 心臓がドキドキとしながらも、レオンに対して理由を聞いてみる。


「あの……理由を、うかがってもよろしいかしら」


 少しだけ、かすれる声で問いかけると、レオンははっきりと告げた。


「君は……その、地味で、社交界では見劣りする……僕には、もっとふさわしい相手がいると思うんだ」

「……は?」

「最近、とても気さくに話してくれる、綺麗な令嬢と知り合いになれてな――」


 その言葉を言いながら、何処か笑っているようにも見える。

 レオンは楽しそうにその話をしているが、明らかにそれは浮気のようなものだ。

 それと、確かにリディアの服装などは地味で目立たないのだが、それはそもそも目の前の男が要求してきたからなのである。

 リディアだって、おしゃれに興味のあるお年頃だ。

 しかし、婚約者であるレオンが出来れば控えめにしてほしいと言ってきたから、このような姿になったのである。

 それを、、目の前の男は『地味』と言ったのだ。


 レオンの言葉を聞いて、呆れるしかない。


(こいつ……自分が言っている事、忘れてるのかしら……ああ、もうどうでもいいや)


 最近、よそよそしい態度だったのはわかっている――もしかしたら、気になる相手でもできたのかもしれない。

 しかし、見て見ぬふりをしていた。

 いつか、彼と一緒に未来を築けると、信じていたのかもしれない。

 しかし、既に彼女は、どうでも良くなっていたのである。


「……わかりました。婚約破棄、承知いたしました」


 リディアがそのように言うと、彼はほっとしたように微笑んだ。

 その顔が、なぜか一番、苦しかった。



     ▽



 部屋に戻った後、リディアは静かに扉を閉めた。


 胸の奥がずっと、ずきずきと痛い。

 涙は出ない。

 ただ、息をするたびに、自分の価値を失っていくような気がしてならなかった。


(……あなたの為に、この格好にしたのに……控えめな女性がいいって言ったのは誰よ、もう、ありえない……)


 リディアは静かにため息を吐きながら、ぶつぶつと呟く。

 婚約破棄をするのは良いのだが、これからどうすればいいだろうと考えたのである。

 婚約破棄した令嬢にすぐ縁談が来るのだろうかと考えてしまうが、そんな簡単にうまくいかないのが世の中だ。

 リディアは拳を握りしめながら、とりあえず行動に移すことにしたのである。


 それから数日後。

 王都の中央広場に、一人の令嬢が立っていた。



《結婚相手、真剣に募集中です》



 丁寧な筆致で書かれたプレートを胸に掲げ、彼女は毅然と前を見据える。


 ──その行動が、後に『氷の侯爵』と呼ばれる男の心を動かし、王都中をざわつかせる恋の始まりになるとは、このときのリディアはまだ、知る由もなかった。


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