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4年生編(1)

「いつまでこの辛い日々が続くのだろう……」

「早くみんなと幸せな時間を過ごしたい……」



「辛さがなくなるのなら、消えてなくなりたい……」

「誰か……助けて……」



 雪が溶け、暖かな風が弘前市を包み、薄紅色の花びらが舞い落ちる。弘前市は青森県の津軽地方に位置し、人口17万人ほどの街である。特に弘前城は桜の名所として有名であり、毎年、多くの観光客が桜の魅力に取り憑かれる。散った花びらが織りなす薄紅色の川は、とても幻想的であり、観光客に非現実を味わわせる。


 和樹は弘前城の桜を小学1年生の頃から見ているが、粛として佇む桜に胸が震える。ほのかに漂う春風の香りとふわりと舞う桜の花が和樹を包み込む。和樹は母のような桜の存在に、惹きつけられた。来年以降もこの桜を見ていたいと、心から願うのであった。


 今年は桜を見るようになって4年目。4年生の春である。1年生の頃と比べて、背がだいぶ伸び、毎年8cmくらい大きくなった。なんだか桜が小さくなっていくようで、不思議な気持ちになる。背が伸びるたびに、桜の見方が変わっていった。枝を見られるようになったり、散る前の花をまじまじと観察できるようになったり……。背が伸びてくれるおかげで、和樹は新鮮な気持ちで桜を毎年見ることができていた。優しく佇む桜は、そんな和樹を元気づけ、希望溢れた気持ちで心を満たすのであった。


 (「俺も先輩たちみたいに、かっこよく野球がしたい!」)


 和樹の通う小学校では、4年生の春から部活に入部できる。念願の部活であった。サッカー部、バスケ部などがある中で、野球部に入ることを決めていた。野球部が大声でお互いを励まし合い、校庭で汗を流しながら練習に励む姿を見て、低学年の頃に強い憧れを抱いた。晴れやかな顔で気持ちよさそうにバッティングをする姿、砂を巻き上げながら捕球した球を素早く投げる姿、どれを見てもかっこよく見えた。俺もああなりたい野球したいなぁ……。和樹の憧れは年々強くなっていった。


(「俺、野球部に入部して、先輩たちみたいにかっこよくプレーするんだ!」)


 淑やかに包み込んでくれる桜に、そう固く誓うのであった。

 「おっす!和樹も来てたんだな。」

 聞き覚えのある声の方に目をやると、親友の正樹が立っていた。

 「奇遇じゃん!一緒に桜見て回ろうよ。」

 「賛成。久々にぶらぶらしようか。」


 2人は弘前城の桜並木を見て回ることにした。和樹たちは永遠に続くと思わせる桜のアーチを歩き、掘りに掛かる橋へたどり着いた。橋から見る桜並木は別格であり、弘前城の傍らに桜が佇む姿は、まるで絵画を見ている気持ちにさせてくれる。


「それにしても綺麗だよなぁ……。何回見ても飽きない。」

 正樹が桜を見ながら、真剣な顔で語る。

「だよな。俺もここから見る桜が好きだよ。」

「ところで、和樹も野球部に入るんだよな?」

 当たり前のように正樹が尋ねる。


「もちろん!ずっと野球をやって見たかったんだからな。正樹も野球部に入るんだろ?」

「うん。僕も野球部に入ろうと思うよ。一緒に野球頑張ろうね。」

 力強く語る正樹の姿には、決意が宿っていた。

「俺の方が先に背番号もらうんだからな!」

 和樹も負けじと決意を露わにする。

「僕の方が絶対先にもらうんだ!」


 くしゃくしゃの笑顔で語る和樹と正樹。満開に咲く桜たちも二人を優しく見守る。

 一緒に野球ができることを想像しながら、二人は桜並木を歩いていった。

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