第五話 青の大蛇
「青の大蛇へ、ようこそ」
視線に映ったのは少し古びた建物、青の大蛇と書かれた看板があり、その上には蛇の頭部の形をした石像が乗っかっていて、よく見ると石像の胴体部は建物全体に巻き付いている。
かなり迫力がある石像だな、広場にある像とは違く、こっちの蛇は獲物を狙っているような鋭い目をしている。
作りがリアルで今にも動き出しそう…
(ズズッ…)
?
一瞬石像が動いたような…
いや、気のせいか、石像が動くわけがない。
「よくできてる石像だろ、たまにガキが像を見て泣き止まないことがある」
確かに子供は怖がるかも。
「中入ろうか。俺らのギルドは仕事を取れる場所だけではなく酒場でもあるんだ。まぁ、普段はギルドの騒がし奴らしか集まらないが」
ギルドに近づき、入り口に立つとと微かに話し声が聞こえてくる。
(あー!その仕事うちが先に取ろうとしたのに!)
(べ〜、取れるもんなら取ってみろ!)
(よこして!)
(や〜なこった!俺に勝ったらよこしてもいいけど)
(おい!やめろ、煽るな!)
「喧嘩?」
「昼間から元気な連中だ…」
生駒がドアを開くと微かに聞こえただけの音が倍となり鼓膜を揺るがす。
ギルド内部は広く、入口から入ってすぐ右のにクエストボードがあるが今は喧嘩騒ぎて塞がれてる。真正面にはカウンターがあり、その左側の階段は2階へ繋がっている、2階は1階を見下ろせる作りになってる。
酒場って言ってたからもっと薄暗くてごちゃごちゃしてると思ってたが全く違った、中は明るくてどこもキレイに整理されている。
そして普通の酒場よりは倍賑やかだ。
「この#@!/#._/&が!」
「んだと?!もう一回言ってみろチビ!女だろうがボコボコにするぞ」
「いいだろう!よーく聞け!この#@!/#._/&!!!!」
「やめろ!!お前らが喧嘩すると毎回大変な事になるんだ!」
「黙れ!」
「黙れ!」
「えーーー」
喧嘩騒ぎの中心は一人の少女と高身長の少年が殴り合いをしている、なのになぜか周りのみんなはただ楽しそうに観ているだけで、止めようとする人が一人もいない。それどころか混ざりたさそうな人もいる。
「あれ大丈夫?」
「いつもの事だ、気にしなくていい。それより魔導士登録しないと」
いつもの事って、大丈夫なのここ…
喧嘩騒ぎを無視し、生駒についてカウンターに。
カウンターの中には二人の女性が働いてる。
見た目は似ているが雰囲気や服装は全く違く、一人はメラメラと燃え上がるような赤い頭巾を巻いていて、もう一人は大人ぽい格好をしている。
「アンヤ、メラ、ボスは?」
「ボスなら二階にいるよ。ん?新しい顔だね」
「初めまして、タラッサです」
「よろしくなタラッサ!私はメラ。で、こっちが私の姉」
「アンヤよ、よろしくねタラッサ」
「よろしくお願いします」
(メラ!ビールを2杯!)
「はーい!ごめん、少し忙しいからまたあとで話そうな!」
短い会話が終え二人は仕事に戻る。
―青の大蛇 二階
トントントン
「ボス、入るよー」
え?
返事の前に入るタイプ?お母さんスタイル?
カチャ
本当に返事する前に開けやがった、ボスに対してこんな軽い態度で大丈夫?
「生駒、返事されてから入れって何度言わせるのじゃ」
「ごめん、つい」
「全く。」
ほらやっぱり。
ボスと呼ばれていたのは美しい女性、暫くすると文書をめぐる手を止めタラッサに視線を向ける。
「タラッサと言ってたね、青の大蛇に入りたいとの事じゃのう」
あれ、まだ話してないのになんでわかったの?
「フフ、この周囲で起きた事は全てわかるわ、あの子達がまた喧嘩してることものう。全く、手間が掛かる子達だこと。」
彼女は疲れそうにこめかみを押し、長い溜息をつく。
「生駒よ、あの子達を止めるのを任せてもいいかのう?」
「俺?アイツらの喧嘩止めるの疲れるんだけど…最悪負傷する可能性もあるし.」
「ハァ………」
その返事を聞くと彼女は再び溜息をつく、今度はもっと長く 深く、そしてチラッと生駒の顔を見る。
「…クッ…わかったよ、止めればいいんだろ、やるよ」
話を聞くと彼女は微笑む。
「生駒はいつも気が利くのう。では、あの子達を任せるよ」
「はいはい、わかりました。」
パタンとドアが閉まる。
「自己紹介が遅れたのう」
彼女は椅子から立ち上がり、タラッサの前に立つ。
「バンシアナ・モーティン、青の大蛇のボスよ。歓迎するぞ、タラッサ」
そう言いながら彼女は空中から紙と筆を出し、タラッサに差し出す。
「ここに名前を書けば契約が成立し、今後青の大蛇の魔導士として登録される」
筆を取りサインをすると紙が光となる、そして光は身体を包み吸収されたように消える。
「ふむ、これで歴とした青の大蛇の魔導士だわ、残りはシンボルじゃのう」
「シンボル?」
「魔導ギルドに所属していると示す証よ、我々のギルドは蛇をシンボルにしているわ。形はとらわれない、ピヤスやネックレスなどのアクセサリーにするのも良い、服につける者もあったのう。欲しい形を教えてくれ」
なるほど、常に身に付けるものに作るのか、なら動きに支障が出ないものがいいだろう、そうなると…
「ピアスでお願いします」
「良かろう、手のひらを出せ」
指示通り手を出すと、彼女は再び空中から物を出す。
手のひらに置かれたのは精巧な軟骨ピアス、着けると小さな蛇が耳に纏ってるように見える。
「どうだ、気に入ったかのう」
「はい!」
「ふむ、くれぐれも無くさないようにわよ。これはただのシンボルでは無く、魔導士としての証、そして何よりも仲間としての誇り。この青の大蛇で思う存分楽しんで成長したまえ。」
彼女の手が頭に触れた瞬間、
嗚呼、いいところに来れたなっと思った。
仲間って言う瞬間の笑、そのあったかい眼差しからは感じられるギルドや仲間に対する想いは、深くあったかかった。
この一瞬は今後一生忘れないと思う。




