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魔力探知

 そこは下の店とは対照的に所狭しと物が置かれていた。上から吊るされているものまである。

 見慣れないものばかり置かれているが、食品や回復道具には見えない。

「道具?いや、呪具……?」

「ジュグ?」

 リアティオスが思わず呟いた言葉が聞き慣れなかったのか、不思議そうに善人が聞き返した。

 興味深そうに室内を見ていると、近藤もやって来た。

「どうかな?僕のコレクションルーム」

 近藤はどこか自慢げに部屋を見てリアティオスに笑いかけた。

「僕はオカルト好きでね、怪しげなものとか曰く付きのものとか集めてたんだ。そしたらどこから聞きつけたのか店のお客さんが引き取って欲しいと持ってきてくれたりして色々増えちゃったんだ。呪具っていうのも当たらずとも遠からずって感じかな。

 もしかしたら君の探し物も置いてあるかも。何でも好きに見てもいいよ」

「ありがとうございます……」

 目を奪われて半ば呆然としながら礼を言う。

「僕も田中君も下で仕事してるから、何かあったらいつでも呼んでね」

 無意識で近藤の言葉に頷き、リアティオスはハッとした。先ほどからうっかり反応してしまったが大丈夫だったのだろうか。恐る恐る近藤の顔を見ると、予想に反してキラキラとした眼差しでこちらを見ていた。目が合うと嬉しそうに笑って頭を撫で、善人に向かって興奮気味に言った。

「かわいいなあ。本当に言葉がわかるんだね!すごいよこの子」

「そうなんですよ、リアティオスはすごく賢いんですよ。ねえ?」

 善人も笑顔で相槌を打ち、リアティオスに話を振ってきた。どうやら近藤には動物のふりをしなくていいらしい。そういえば家に住まわせてもいいか問い合わせた時に「本当は人間」と正直に説明していた事を思い出した。どこまで本気に捉えてくれたのかはわからないと思っていたが、どうやら全て信じてくれていたらしい。

「ええ〜、いいなあいいなあ。ねえ、田中くんの家に居られなくなったらうちにおいでよ。エアコンあり部屋、三食昼寝つきで無償提供するから」

「ちょっと、近藤さん。誘惑はやめてくださいよ」

 近藤は軽快に笑うと、伸びをして立ち上がった。

「あはは、ごめんごめん。まあ、いつでも力になるのは嘘じゃないからね。二人とも、困ったことがあったらいつでも言ってね。

 さあ、田中くん、降りようか。今日は鑑定の相談が一件入ってるから、いらっしゃったら奥の座敷にお通しして」

「はい。じゃあリアティオス。また後で」

 そう言って善人と近藤は一階へ降りていった。

 リアティオスは二人を見送った後、部屋を振り返った。

「さて、私も始めましょうか」

 と、言っても品が多すぎる。所狭しと置かれているうえに、自分より背が高い棚に置かれたものは見ることができない。リアティオスは目視で確認することを諦め、魔力を使うことにした。

 魔力探知は、その名の通り魔力を探知するためにある魔法だ。魔力にも特徴があり、特に魔法を使用した後の残滓には魔法使用者の特徴がかなり出る。魔法に精通した者が使用した場合、自分の使用した魔法の残滓なのか、他者のものなのかがわかるだけでなく、相手の魔法の弱点もわかる。元の世界にいた時のリアティオスは魔力に敏感で、この魔法を使用をせずとも探知ができるほどだった。

 しかし狸の姿になったのが原因か、それとも魔力枯渇が原因なのかはわからないが以前のような精度での探知ができなくなっていた。

 残っている魔力は少ない。無駄にならないよう、集中するために目を閉じる。魔力を慎重に解放して探知の魔法を使った。

 目を閉じて暗くなった視界の中で魔力を探す。しかしなかなか上手くいかない。今まで魔力探知でこんなに苦戦したことはなかった。

 一体どれだけ時間が経ったのか、何も見つからずにただ自分の魔力だけが削られていくのを感じ、焦りが生まれてくる。

 迷った末に、リアティオスは覚悟して解放する魔力を一段階上げた。無駄骨かもしれないという不安は大きかったが、しかしそれ以上に何も見つけられないという恐怖の方が大きかった。

 そうして魔力探知を再開した時だった。

 細く切れそうだが魔力の気配を感じた。精度が悪すぎて気配しか感じられず、全てが曖昧だ。だが自分の力とは違う気がする。

 目を開ける。どっと疲労感が襲ってくる。しかしそれどころではない。

 魔力を感じた。間違いない。この場所に魔力を帯びた『何か』がある。

「大丈夫?」

 声をかけられハッとした。善人がしゃがんでこちらを見ていた。

「あれ、お仕事は?」

「休憩がてら様子を見に来たんだ。すごい集中してたね」

「聖剣を探すのに熱中してしまっていました」

「何か手がかりは見つかった?」

「いえ――……」

 言ってしまおうかと思ったが、まだ確証が持てない。善人に言ったら我が事のように喜んでくれるだろうが、『かもしれない』で彼を振り回すのは気が引けた。魔力の気配を感じた事を報告するのは一旦控えることにした。

 ふう、とため息をついたリアティオスを見て、善人は明るい声を出した。

「近藤さんのコレクションは多いからね。焦らずにいこう。今から僕休憩なんだ。リアティオスも一緒に休もう。お水飲む?」

「はい、あの、少し外の空気を吸ってもいいですか?集中しすぎて少し疲れてしまって」

「全く構わないよ。鑑定のお客さんもさっき帰られたし。じゃあ一階に降りようか」

「ありがとうございます」

 善人とリアティオスは立ち上がると部屋を出た。先ほど上がってきた階段を降り、座敷に入った。

 その時、リアティオスの鼻がひくりと動いた。

 狸はどうやら嗅覚が優れているらしい。近藤とも、善人とも、そして店とも違う臭いを感じとった。先ほどまで来客があったというが、ここで接客していたようだ。しかし残り香ではなく臭いが強い。気がつくとリアティオスは床をふんふんと嗅いでいた。

「リアティオス?どうしたの?」

「いえ、何か、なんだかすごく気になる臭いがして……」

 そう言いつつ鼻を動かすことがやめられない。その様子を見て善人はリアティオスの目線に合わせるようにしゃがみ込んだ。

「一体何が――……あ!」

 善人が何かを見つけ、手を伸ばした。

「もしかしてこれ?」

 善人が手にしていたのは革製の黒い手帳だった。

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