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バイト先

 そんな事がありつつ、気がつけば一週間が経っていた。数日寝込んでいたリアティオスも元気になった。しかしやはり魔力は回復していない。

「体調はどう?もうしんどいところはないかな?」

 朝ごはんを食べながら、善人が尋ねた。

「はい!おかげさまで体調もすっかりよくなりました!これも善人さん達のおかげです」

 リアティオスも口いっぱいに頬張りながら元気よく答えた。食べているのはドッグフードだ。

 狸という動物の特徴なのか、リアティオスは回復するにつれて異常な食欲を見せ始めた。

 最初は茹でたささみや野菜を与えていたのだが、田中家のエンゲル係数が急上昇してあっという間に家計を圧迫した。

 元気になったのはいいことなのだが、借金があり常に金欠状態の善人にとってかなりの打撃となった。

 元人間のリアティオスにドッグフードを食べさせるのは心苦しかったが、しかしこのままでは家計が破綻してしまう。

 リアティオスに事情を説明した時、善人に反してリアティオスはあっさりとしたものだった。

『全く構いません。元の世界で厄災を討伐しに行く旅中では食料が足りずに虫も食べましたし泥水もすすりました。それに比べたらこのドッグフードなるものは非常に美味です。ご馳走と言ってもいい』

『そ、そうなんだ……』

 当時の会話を思い出して善人はしみじみとした。勇者というものは思ったよりも過酷な仕事のようだ。

「物思いに耽ってどうしたんですか?食欲がないんでしたらそちらのソーセージ食べてあげますけど……」

 そんなことを思われているとは知らないリアティオスが、心配そうに話しかけてきた。だが心配そうなのは声だけで、その視線は善人の朝食に釘付けだ。よく見ると口元から涎が垂れている。善人はそっと手で壁を作った。

「食欲も出てきてよかったよ」

 ジトっと見つめると、いたずらがバレたかのようにリアティオスはぺろっと舌を出した。

 朝食後、食器を洗い終わった善人にリアティオスは言った。

「今日から聖剣探しを始めようかと思います。善人さんが外出されている間、私も外に出て周辺を探してみようと思うのですが、いいでしょうか?」

 それを聞いて、善人は「あ!」と思い出したかのように声を上げた。

「それなんだけど、体調が良くなったら案内したいところがあったんだ。よければだけど、今日ついて来てもらっていいかな?」

 善人の言葉に、リアティオスは不思議に思いながら頷いた。

 早速家を出た一人と一匹は残暑の残る道を歩いた。

「ここから歩いて十五分くらいの場所なんだ。ついでに近所の案内もしながら行くよ」

「わかりました。よろしくお願いします」

 頭を下げて善人の斜め後ろを歩く。

「こっちの左の道の先には商店街があるんだ。人通りが多いから、行く時は気をつけてね」

「わかりました」

「狸はちょっと珍しいから、誰かに見つかると騒ぎになるかも」

「そうなんですか、気をつけます」

 最初は順調だった。善人の近所の道がどこに繋がっているのかや、注意すべき点を説明してくれる。うんうんと頷いていたのだが――……。

「ありがとうお兄ちゃん」

「いえいえ」

 家から十五分。最初にそう説明を受けたはずだが、十五分経っても到着していない。

 少し離れた場所からお礼を言われている善人を眺める。先ほどから何度も見た光景だ。困った人がいると気づくと、善人は迷わずに近寄って行った。道に迷った外国人、重い荷物を持った老人、今は自転車のチェーンが外れて途方に暮れていた子どもを助け終わったところだ。

 何度も振り返って手を振ってくる子どもに優しく振り返すと、善人はリアティオスに手を合わせて謝った。

「待たせちゃってごめん」

「いえ、大丈夫です」

 そう言いながら、竜司が善人に言った「お人好し」という言葉を思い出していた。確かに善人は「お人好し」だ。

「もう一つ謝りたいんだけど、ちょっと時間がギリギリになっちゃった。少し急いでいい?」

「それは全く構いませんが、どこに行かれるおつもりなのですか?」

 その質問に、善人は一瞬キョトンとした後、気づいたように目を見開いた。

「もしかして僕、行き先言ってない?」

「申し上げにくいのですが、はい」

「うわあ、ごめんよ」

 善人は心底申し訳なさそうに眉を下げると、気を取り直したように言った。

「案内したいのは、僕のバイト先だよ」

「バイトサキ?」

「うん、僕が働いているところ。

 聖剣探しの手がかりになりそうなところなんだ。もうすぐ着くよ」

 善人のバイト先である骨董品店は、大通りから一本外れた道沿いに建っていた。

 古民家をリノベーションしており趣があるのだが、いかんせん人通りの少ない道沿いのため、知る人ぞ知る店の状態となっている。

「ここだよ」

 善人が飾りガラスとなっている横開きの扉を開けた。

 壁際には棚が設置されており、価値の高そうな陶器が飾られている。

 静かでどこかひんやりとした雰囲気だと感想を抱いていると、店の奥にある襖が開き、和装の男が出てきた。

「いらっしゃーい……。あ、田中くん」

「おはようございます、近藤さん」

「おはよう。おや、この子が例の子かい?」

「はい。わがままを聞いてくださってありがとうございます」

「あはは、いいよいいよ。」

 体格がよく、威圧感があるが、見た目に反して話し方は穏やかだ。善人と少し話をしているかと思ったら、リアティオスに気がついて目の前にしゃがみ込んだ。

「こんにちは。初めまして」

 動物の姿のリアティオスに微笑みながら挨拶をした。笑うと雰囲気が一気に柔らかくなる。

「リアティオス、この方は近藤さん。ここの骨董品の店主さんで、僕達の家の大家さんもしているんだ」

「ご紹介に預かりました、近藤です」

 獣の姿である自分をマンションに住まわせるのも許可してくれただけでなく、こうして店に入れてくれたのだ。かなり心は広い人物のようだ。

「田中くんから聞いてるよ。聖剣を探しているんだってね?

 何か手掛かりになるかもしれないから、僕のコレクションを見せて欲しいってお願いされたんだ。

 色々あるから、もしかしたら探し物が見つかるかも。田中くん、案内してあげて」

「はい」

 善人がリアティオスに「こっちだよ」と声をかけた。

 近藤が出てきた店の奥は座敷になっていて、その奥には二階へ上がる階段がある。足を拭かれ座敷に上がると、そのまま二階へ案内された。

「ここは近藤さんの趣味の部屋なんだ」

 そう言って善人が襖を開け、視界に飛び込んできた光景にリアティオスは目を丸くした。

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