異変4
なぜか原の代わりに礼を言う。当の原はそんな配慮がされていたとはつゆ知らず、子どもに囲まれながらどのように自分がバケモノを倒すか竜司を代わりにして実演していた。
「いいかい!これがアキレス腱固め!そしてこれが、キャメルクラッチ1」
「いたたたたたたたたたたた!!!!ギブギブギブギブ!!!」
おおーっと子供達が関心した声を出す。
「待って待って原さんちょっとまっあいたたたたたたたた!た、助けてくれ〜!!」
「おおー。見てください善人さん。原さんすごいですよ」
「わあ、本当だ。何かの経験者なのかな?」
「関心しとらんと助けろや!」
そうやって騒ぎを起こしつつ、商店街を抜けお化けアパートこと、善人達が住むボロアパートへと帰宅を始めたのだった。
そして道中ずっと原に絡まれ続けているのだ。
「だから原さんがお化けなわけないじゃないですか。そもそも、原さんはお祭りに行っててアパートにいなかったじゃないですか」
「じゃあアンタ達かい?」
「善人もコイツもお祭りに行ってましたよ」
竜司がリアティオスを指さす。相変わらず竜司は滅多にリアティオスの名を言わない。
「原さんも善人もお祭りに行っとったんやから無人のはずでしょう?」
「じゃあ何を見たっていうの?」
「それを調べにアパートに戻ってるんですよ」
根気強い善人と竜司の何度目かの説明でようやく理解したらしい。原は「なるほど」と頷いた。
「わかった!」
「わかってくれましたか……!」
ようやく理解してくれたのか、と安堵を大きく含んだ声が出た。その善人に原は何度も大きく頷く。大きすぎてもはやヘッドバンギングのレベルだ。その衝撃でふらつきながら、原は高らかに言った。
「つまり……泥棒だよ!」
「え?」
予想の斜め上の回答に、思わず呆けた声が出た。しかし対照的に原は自信があるようだ。人差し指を突き出した。
「泥棒が、前からうちのボロアパートを狙ってたんだよ。二階は近藤さんのコレクションが保管されてるでしょ?それに目をつけたんだよ」
「近藤さんのコレクションを……」
「あんだけあるんだから、ほとんどがガラクタだとしてもいくつかは値打ちものがあるんじゃない?」
それにさ、と原は続けた。
「私、わかったよ。この間の私の怪我、やっぱり考えれば考えるほど納得いかなくて。足元が滑った記憶もないし、なんで倒れたかどうしてもわからないんだからやっぱり後ろから殴られたんだと思う。あの時の不審者、もしかして泥棒が下見に来てたんじゃない?それで田中君の部屋に侵入しそうになったのを見られたから私を口封じに殺そうとしたんだ」
原の推理に反応したのは竜司だった。険しい表情をして、「なるほど……」と呟いた。
「なんか、そう言われるとその可能性が高い気がしてきました。何より今の今まで幽霊もバケモンも出てないのに、商店街のお祭りで人気がなくなった途端に現れるなんて、怪しいにも程がある」
「でしょ!?」
味方が現れて原は嬉しそうだ。竜司に人差し指を向けて同意の意を表すかのように何度も振っている。
「だったら急いで戻るよ!犯人が逃げる!」
そう言うと原は駆け出した。まだ足元が多少ふらついているが、酔っ払いとは思えない速さだ。
「あ、ちょっとちょっと、原さん待って!」
慌てて追いかけると、原はアパートの手前で止まっていた。
「ちょお、原さん足はや……」
「大丈夫ですか?お酒飲んでたから気分とか悪くなってません?」
しかし原はそれには答えず、視線をアパートに向けたままだ。
「原さん?」
原が黙ったまま自分の視線の先を指差した。つられて二人と一匹はその先に視線を送る。と、
「え!?」
二階の部屋にぼんやりとした灯りが見えた。しかし二階は原の言った通り近藤のコレクションルームだ。
「やっぱり泥棒だね!見てなパイルドライバー喰らわせてやる!」
「禁止技ですやん!危ないからダメですって!」
鼻息荒く突っ込もうとする原を竜司が背後から羽交締めにする。が、足を思いっきり踏みつけられ悲鳴を上げた。
その間に原はアパートに向かって走り、善人が急いで追いかけた。
リアティオスも追いかけようとするが足を抱えて悶絶する竜司の前で立ち止まる。
「あの……回復魔法かけましょうか?」
「ぐっ……俺のことはいいから、原さんを止めてくれ……。あと怪しい奴も捕まえて……」
「……わかりました!」
リアティオスは頷くと原と善人を追いかけた。