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異変

 その時、運営委員の一人がテントに現れた。

「なにがなにが〜」

 焦る竜司とリアティオスに対し、善人が朗らかに笑って答えた。

「さっき怪我した子を案内してきたからリアティオスを褒めてたんですよ。やったねって」

 ねえ?と同意を求めるように背後を振り返る。竜司は愛想笑いを浮かべて何度も頷いた。

「ええ、本当かい?やっぱり君のペットは賢いねえ。そのうちテレビから取材が来るかもしれないねえ」

「あはは、そういえばのど自慢大会はどうでした?」

 さりげなく話題を変えると、そうそう!と食いついてきた。

「いや〜今年ののど自慢大会はレベルが高くてさあ。ついつい運営のこと忘れて見惚れてたよ。

 あ、そうだった。そろそろビンゴゲームの景品を会場に持って行ってもらいたいんだけど、二人ともビンゴゲームの準備終わった?」

「はい、準備できてます。持っていきますね」

 竜司と善人はゲームの景品が入った段ボールを持ち上げると、事務所のテントを出て十メートルほど先のステージに運んだ。

 ステージ上ではまだのど自慢大会が行われている。先ほどの運営委員が言った通り、確かにレベルが高い。

「あ、原さんや」

 竜司の言葉に視線をやると、ステージ前に設置された観客席に原がいた。膝にはティアラを乗せ、ビールを片手に座っている。前回の騒ぎで救急車を呼んでくれた商店街の人々にも原はお礼をして回った。その際に善人と同じく本屋の店主と知り合いになり、善人をアルバイトに誘いにアパートを訪れた際、『いい気分転換になるだろうから』と祭りに誘ったのだ。

「なんや、話に聞いとったより楽しそうやん」

 人見知り気味の原に対し、本屋の店主は面倒見がいい性格をしているのだろう。善人を含め、お化け屋敷と称されているボロアパートの住人のことを心配してくれているようで、町の人と関わらせようと熱心に祭りに誘っていた。

『ビール一杯タダにしてあげるから!』

 どうやらその言葉が効いたようだ。原の手に握られている缶のラベルを見ながら善人は頷いた。

「本当だ。良かったよ」

 ステージの裏に景品や道具を運び入れ、運営委員が善人と竜司にビンゴゲームの打ち合わせをしていた時だった。

「なんか、向こう騒がしくないですか?」

 怪訝そうな竜司の言葉に、進行表を見つめていた善人は顔を上げた。運営委員と竜司は声の先――先ほどまで自分たちがいた事務所のテントを見ていた。

「なんか、人だかりができてない?」

「なんや、なんかあったんかな?」

 善人と竜司が顔を見合わせていると、騒ぎが徐々に広がっていき、のど自慢大会の観客席からも困惑した声があがった。それに焦ったのは運営委員だった。

「まずい、ちょっと二人とも事務所の方に行ってみてくれない?こっちはなんとか収めるから!」

 言うが早いか運営委員はそう言ってステージに上がって行った。行動の早さに呆気に呆気にとられた二人だったが、急いで事務所テントまで戻る。

やはり人だかりができている。「すみません、すみません」と人をかき分けてテントの中に入ると、

「え、どうしたのこれ!?」

そこにはリアティオスと、怯えたように泣いている子どもがいた。しかも一人ではなく五人いて、年齢もまちまちだ。

「なんや、喧嘩でもしたんか?」

一番小柄で幼い子どもにリアティオスが擦り寄ると、リアティオスを抱きしめて泣きじゃくり始めた。

「私もわからないんです。急に悲鳴が聞こえて、声がした方に向かったらあちらから皆さん血相を変えて駆けてこられまして……」

悲鳴を聞いたのはリアティオスだけではなかった。周辺にいた人々も何事かと様子を見に来た。しかし子ども達はパニックに陥っており話が到底できる状況になく、どうしていいのかわからなかったのでひとまず事務所のテントまで連れてきたらしい。

「皆、どうしたんだい?怪我した?」

善人が優しく問うたが、幼い子は泣いて、年長の子も血の気を失った顔をして黙り込んでいる。

事情がわからず途方に暮れそうになったとき、足元から明るい声がした。

「私にお任せください!」

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