魔力探知2
「――善人?大丈夫か?」
竜司の呼ぶ声に、ハッと現在に意識が戻った。
「ごめん、ボーッとしてた」
「しっかりしろ」
竜司に肩を小突かれていると、リアティオスがテントに現れた。
「あ、リアティオス」
「いやいや盛況ですね〜」
リアティオスは先日の一件以来、商店街では知られた存在となった。特に子どもには大人気で、噛まないし引っかかないから大人からの信頼も厚かった。
そのため、本日は迷子を発見したら事務所のテントに連れてくる役目を仰せつかっていた。
「テントに戻ってきたということは――……」
仕事を遂行しにきたようだ。泣いている子どもがリアティオスのリードを握っている。
「楽しいのはいいことですが、はしゃぎすぎて転んでしまったようです」
「ああ、本当だ」
膝小僧を擦りむいて血が出ている。竜司はパイプ椅子を引っ張り出し、善人は急いで救急箱をとりに行った。
「ほら、ここ座って。少し染みるかもしれないけど、我慢して」
その言葉を聞いて更に泣きじゃくり始めた子どもの膝にリアティオスが乗った。
「さあ、私を撫でてください。落ち着きますよ」
「怖かったらそいつギュッとしとき。大丈夫やから」
そう言うと、遠慮ない力加減で抱きしめてきた。
「あいたたたた」
「あ、ごめんもうちょっと優しくしてやってくれるかな?」
子どもは多少抱きしめる力を弱めたが、それでも顔は涙でびしょびしょに濡れ、転んだショックがまだ続いているのか、ヒッヒッと喉を引きつらせている。
「仕方ないですねえ……」
リアティオスはそう言うと子どもに痛み軽減の魔法をかけてやる。
怪我を治してしまったら大事だが、痛くなくなった『気がする』のはギリギリバレないだろう。
「どうですか?痛くなくなったでしょう?ショウドクエキも大丈夫ですよ」
「あ、リアティオスが痛いのを吹き飛ばしてくれたって。このお兄さんのところに痛いのが移ったみたいだよ」
善人が竜司を指差す。すると竜司は大袈裟に痛がるふりをした。
「ぐわああああ〜!」
「ほら、お兄さんに痛いの移ったからもう大丈夫だよ。痛くないだろう?」
隣で苦しみ出した竜司に驚き涙が止まる。渾身の演技を披露している竜司をまじまじと眺めている子どもは、善人の言葉に自分の足の怪我を思い出した。
「……痛くない」
「ほらね。この子が魔法を使ったんだよ」
善人がリアティオスを撫でる。膝の上で誇らしげに胸をそらしたリアティオスを見て、子どもはにふにゃりと笑った。
「ありがとお」
竜司がポケットがいっぱいになるほど飴を渡し、すっかり機嫌を直した子どもは三人に手を振ると元気よく駆け出して行った。
「また転ばないようにねー!」
そう言いながら手を振りかえしている善人の背後で、竜司がリアティオスに声をかけた。
「なあ、今のでどんぐらい魔力溜まった?」
「え?う〜ん、この肉球ぐらいでしょうか」
「そうか。じゃあ、さっきの痛みを飛ばす魔法でどれぐらい魔力使った?」
「そうですねえ……。この肉球ぐらいですかね」
竜司は呆れた声を出した。
「溜めたそばから使っとるやん」
「しょうがないですよお。竜司さん、タヌキの姿で人助けをすると言うのは至難の業なんですよ?」
「そりゃそうやろうけど……。ままならんもんやな」
「それでも少しずつは溜まってるよね?もう少し溜まったらもう一度魔力探知の魔法を使ってみようって話をしたんだ」
ね、とリアティオスに微笑みかける善人を見て、竜司は一瞬意味がわからないといった表情をして、
「あ、そういえば聖剣探しとんやったなぁ」
「え、竜司さんまさか忘れていたのですか!?」
「なんだかんだで忘れとったわ」
リアティオスは目を見開いた。タヌキの姿だがわかる。「信じられない」と言う気持ちを身体いっぱい表現している。
「こいつ……」
「二人とも仲良いなあ」
「どこがですか」
「どこがやねん」
一人と一匹の突っ込みを聞き流し、善人はニコニコと笑いながら救急箱を片付けた。
「前の魔力探知は近藤さんのお店でやったよね?あの後どこかでもした?」
リアティオスは首を横に振った。
「この姿が悪いのか、それとも魔力がないこの世界では条件が悪いのかはわからないのですが、あの時すごく苦労したんです。
元の世界での何倍も魔力を使って、やっとぼんやりと感じる程度でした。なのであれから魔力探知は使っていません。魔力をできるだけ溜めて、次は魔力を前回の倍は使う予定です。善人さん、また近藤さんのお店にお邪魔してもいいですか?」
「いいけど……って、もしかして、あのお店で何か見つけたの?」
リアティオスは頷いた。
「あそこで魔力探知を行った際、何かを感じました」
「もしかして、聖剣か!?」
「確証はありませんが……可能性はあります」
その言葉に竜司が歓声をあげた。
「やったやん!」