人助け
「ひとまずは善人と一緒に行動したらええんちゃうか?」
問題点を指摘したのは竜司だったが、解決策を提案したのも竜司だった。
「善人さんと……?」
リアティオスが善人を見る。善人もきょとんとした顔をしている。
「一緒に行動するのは全然かまわないけど……」
なんで?
その疑問が顔に出ていたのだろう。竜司は善人を指さした。
「こいつは【超】がつくお人好しや。お前も見たことあるやろ?困っとる人を見つける嗅覚は鋭いで」
リアティオスは先日のアルバイト先までの道中を思い出した。確かに善人は困っている人を見つけては助けに行っていた。人助けで立ち止まった数はあの時だけでも片手で足りないほどだった。
「確かに、言われてみれば善人さんはそういう方を見つける能力があるかのようでした」
「いやいや、そんな大げさだよ」
「大げさちゃうねん。自覚ないみたいやけどな善人、ほんまにすごいんやで。お前が困っている人を引き寄せてるみたいなんよ」
竜司の言葉に、リアティオスが何度も頷く。それを見て善人も「そうなのかなあ」と頬をかいた。
「二人がそういうなら……。でも、役に立てなかったらごめんね」
「大丈夫。自信持っていいぞ。リアティオス、しっかり善人について行けよ」
「わかりました!」
リアティオスが元気よく返事をし、善人は苦笑した。
「責任重大だなあ」
「そういえば人助けってどれぐらいやったらいいの?」
リアティオスはううん、と頭を捻った。
「回数というよりは、感謝の度合いで回復量が違いました。今回の原さんの救出での魔力回復量はこの今までで一番大きかったです」
「そうなんだ。因みに今回のでどれぐらい魔力は回復したの?」
「そうですね……。回復量としては五分の一ぐらいだったかと思います。怪我をしていたのですぐに回復魔法を使ってしまって今は十分の一ほどになっていますが……」
「そうか、今回ので五分の一か……」
「ちょお待て、あれだけ頑張ったのにそんだけしか回復せんの?瀕死の原さんを野犬の群れから救いつつ人を呼んだんやろ?」
「すみません、野犬の群れは脚色しました」
「脚色しとんのかい」
「そういえばさっき川に落ちたって言ってなかった?」
「ああ、川に落ちた子供を助けに飛び込んだって……」
「すみません、そこは創作しました」
竜司は呆れた顔をした。
「お前……脚本家の才能があるぞ……」
※※※
原が病院からアパートに戻ってきたのは翌々日のことだった。
騒がせてしまった詫び、と菓子折りを持ってきた。
「そんな、わざわざいいですのに。それより大丈夫ですか?救急車で運ばれたって聞きましたけど……」
「頭をうってたから念のための検査入院したけど、なんともなかったって」
本当は結構な重症だったのだが、リアティオスの回復魔法のおかげで巨大なたんこぶができただけで済んだのだ。
善人は原の答えにホッと胸をなでおろした。
「本当に良かったです。ご無理せずに、何かあったら言ってくださいね」
「ありがとう。ここ、警察も来たんだってね?近藤さんにも連絡が行ったみたいで、一日だけの入院だったのにお見舞いにきて果物置いてったわ」
原はそういって手提げていた果物籠を揺らした。中には立派なメロンまで入っている。善人は感心した。
「近藤さん、流石は大家ですね。仕事が早い」
「というか、なんで転んだのかしきりに聞きたがってたのよ。オカルト系かってね。検査で立て込んでる時に来て根掘り葉掘り聞くもんだから看護師さんに怒られてたわ」
「あはは……。近藤さんらしいですね」
そのシーンが簡単に想像できて善人は苦笑した。
原は籠からリンゴを取り出すと、善人に差し出した。
「これ、君のペットにあげて」
「え、いいんですか?悪いですよ、菓子折りまで貰ってるのに」
「この子が人を呼んでくれたおかげで助かったの。菓子折りは君に、リンゴはこの子に」
原は善人の足元を見た。つられて善人も視線を下げる。リアティオスがキラキラとした目でリンゴを凝視していた。
「ありがとうございます。でしたらありがたく頂戴しますね。リアティオスもお礼言って」
リアティオスはいそいそと原の足元に向かい、体を擦り寄らせている。
「ありがとうございます!ありがとうございます!あのような立派なリンゴをいただけるなんて……。どうぞ、思う存分に撫でてください!あにまるせらぴーです!」
「撫でてほしいそうです」
原が恐る恐るリアティオスの頭に触れる。そっと撫で、顔をほころばせた。
「助けてくれてありがとうね」
「いえいえいえいえ!そんなそんなそんな!」
タヌキは尻尾で感情を表現せず、感情がわかりにくい。善人にだけわかるハイテンションな様子を代弁した。
「とても喜んでます」
「そうなんだ」
ひとしきり撫でて満足したのか、原は立ち上がった。善人を見て逡巡した後、意を決したような表情をした。
「私も頭打ったからか記憶が曖昧なんだけど、君の部屋の前に誰か来てたのよ」
「えっ」
「私もそんなジロジロとは見てないからどんな人だったのか全然わかんないんだけど――なんか変な音が聞こえた気がして玄関を開けたら、君の部屋の前に誰かいて、ドアノブを触ってたの。
お友達かと思ってそのまま通り過ぎたんだけど、すれ違いざまに言われたわ」
見られた。
「その後から記憶がないのよ」