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あなたの優しさ

「善人さんはご兄弟の方と仲がよろしくないのでしょうか?」

 あの出来事があってから数日後、善人が一日不在で、食事の世話として竜司が訪れていた。

 先日の母親と妹の来訪以来、どこか善人の様子がおかしい気がした。リアティオスには相変わらず優しいのだが、どこか元気がない気がする。

 気になって仕方なかったが、流石に本人に直接聞くのは躊躇われた。

 そう思い、善人がいないこのタイミングで竜司に尋ねた。先日の出来事を知らない竜司は質問に眉を寄せた。

「なんで?」

「先日、お母様と妹さんとおっしゃる方が来られたのですが、その……妹さんの態度が少し……」

 言いながら自分があまりにも無神経なことを聞いている気がして、段々と尻すぼみになっていく。

 しかし竜司はそれだけで納得したらしい。

「あ〜……」

 顔を顰めた後、自分の頭をガシガシとかいた。

「あそこはなあ……。ちょっと複雑やねんな」

「そうなんですか……」

 ううん、と唸った後、決心したように顔を引き締めてリアティオスに顔を近づけた。

 何事か、と身構えると、竜司は声をひそめて言った。

「あいつに父親のことは聞くなよ」

「えっ?お父上?」

「しっ!声が大きい!」

 口元に人差し指を当てて注意してくる。視線は壁越しの原を見ている。リアティオスの言葉は善人と竜司以外には動物の鳴き声にしか聞こえないのだが、大人しく頷いた。

「あいつの父親な、ほんまに血繋がってんのか不思議なくらい性格が真逆やねん。いや、反面教師にして育ったからあんなお人よしになったんか?とりあえずな、あの父親はほんま……友達の親のこと悪く言うのはあかんねんけど、でも……あいつはほんまクズやねん」

「クズ……」

 竜司は重々しく頷いた。

「クズのせいであそこの家族は去年めちゃくちゃになってな、特に善人はすごい苦労してん」

「そうなんですか」

「そんで善人も苦労したんやけど、花凛ちゃんはまだ小学生やってなあ、すっごい傷ついたと思う。

 善人も花凛ちゃんもお母さんも悪くないねん。クズ以外誰も悪くないねんけどなあ……」

 竜司はため息をついた。どうやら昨年何か出来事があり、それが原因であのような微妙な距離感になっているようだ。

「わかりました。教えていただきありがとうございます。善人さんの前でお父様のお話は絶対にしないようにします」

「気を使わせてしもて申し訳ないけど、ありがとうな」

「いえいえ。それにしても善人さん遅いですね」

「ああ、今日はあいつ夜勤やねん。俺はもうすぐ帰るけど、あいつが帰ってくるのは明け方頃やと思うからそれまで留守番よろしくな」

「ヤキン?」

「夜も働いてるってこと」

「え、あの骨董品屋さん、夜もやっているのですか?」

 リアティオスが驚いた声を出すと、竜司が手を横に振った。

「ああ、ちゃうちゃう!あいつな、バイト掛け持ちしとんねん。……ってこれじゃわからんか。お金が必要でな、骨董品屋以外でも働いとんよ」

「そうなんですか……」

 家ではそのような弱音も吐かないし弱っている姿も見せることはなかった。しかし、リアティオスが思っていたよりも善人は苦労していた。

 その後、竜司が言った通りに善人は明け方に帰ってきた。ドアがゆっくりと開く音で目が覚め、リアティオスは顔をあげた。

「……お帰りなさい」

「あ、ごめん、起こした?」

 声をひそめて善人が謝る。手探りで近づいてくる気配がした。

 ごん、と音がした後、小さく「痛っ」と呟きが聞こえた。

「電気つけて構いませんよ?」

「そう?ありがとう」

 善人が空中で手を動かし、蛍光灯の紐を見つけたらしい。カチッと音がしてチカチカ数回瞬いた後に室内が明るくなった。

 緩慢な動きで部屋の隅に畳んでいた敷布団を伸ばし、善人はゴロン、とそこに寝転んだ。

「はあ、疲れた」

 声に疲労が滲んでいる。

「お疲れ様です。……肉球もみます?」

 リアティオスの提案に、ふ、と小さく笑った。

「お言葉に甘えて触らせてもらおうかな」

 善人の手のひらの上に肉球を乗せてやる。

「どうぞどうぞ。存分に癒されてください」

「ありがとうございます」

 リアティオスの提案に存分に乗っかることにしたらしい、肉球を揉み始めた。

「ああ〜。肉球って何でこんなに気持ちいいんだろう」

 しばらく無心に触っていたが、満足したらしい。

「ありがとう、だいぶ癒された」

 体を起こしてリアティオスに礼を言う。

「どういたしまして」

 そこで言うか迷って、意を決して言った。

「私は今は獣の姿。働きに出ることも家事を行うこともできず世話されるばかりで迷惑をかけている状態ですが、それでも、何かお力になれることはありますか?」

 いきなりの言葉だったので、善人はキョトンとした後、優しく微笑んだ。

「すごく嬉しい。でも迷惑だなんて思ったことはないよ」

「そうですか?よく食べるだけの穀潰しでは?」

「あはは、自分で言うんだ」

 美人はリアティオスの頭を撫でた。リアティオスは大人しくされるがままになる。

「アニマルセラピーって本当に効果あるんだね……」

「あにまるせらぴーとは何ですか?」

「こうやって動物を撫でたりして癒されたりすること……かな?」

「撫でるだけでそんな効果ありますか?」

「あるよ。あるある。……う〜ん、動物扱いしているみたいで心苦しいんだけど、たまにこうやって撫でさせてもらえない?」

「全然構いませんよ?」

「ほんと?やった」

「これぐらい、いくらでもどうぞ」

 その言葉に善人も遠慮がなくなり、最初は片手だったのに両手でワシワシと撫で始めた。

 ちらっと善人を見ると、帰ってきた時の疲れた様子から、いくらか元気を取り戻しているようだ。

「善人さん」

「うん?」

 リアティオスの真剣な声音に、善人は撫でる手を止めた。リアティオスは自分の今の気持ちを伝えた。

「私は善人さんと竜司さんに救われました。あなた方には本当に感謝しています。

 もし世界中が善人さん達の敵に回ったとしても、私は最後までお二人の味方であることを誓います。

 お二人を脅かす存在がいましたら私が全力で叩きのめしますので、お心を乱す者がいたらいつでもおっしゃってください」

「はは、物騒だな」

 リアティオスの勇者らしからぬ過激な発言に、善人は思わず吹き出した。

「……でも、うん。ありがとう」

 善人の心からの感謝に、リアティオスは黙って頷いた。

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