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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第一章 僕は姉さんと関わりたくない
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6.アイビーは賢人と出会う

「本当にごめんなさい!」


 僕は勢いよく頭を下げた。


「まさか、おじさんがそんな凄い方だとは思わなくって。ぱっと見、変な格好だなーとは思ったんですけど」

「ビー」

「ん? なにココ?」

「余計に失礼だから」


 ココに静かにたしなめられた。


「いいのいいの。あたし別に世間で言われているような凄い人間ってわけでもないしね」


 緋色の賢人ミャーマはパタパタと手を振った後「た、だ、ね?」と僕の方にズイと顔を寄せた。


「ビーちゃん? あたし、中身は傷つきやすい乙女なの」

「おとめ」

「そう。魂が乙女なの」

「たましい」

「むいむい。だから『おじさん』は、やめよっか」

「……はい」

「うん。お利口ね」


 とんでもない圧を感じ、僕は素直に頷いた。

 その様子にミャーマはにっこりと微笑んでみせる。


(……『むいむい』ってなんだ?)


「それにしても、ビーちゃんはその年齢で随分と舌が肥えてるのね。一体何者かしら?」

「えっと……その、姉が料理にうるさいので、自然と……」


 どう誤魔化したらいいかわからず、適当な嘘をついてしまった。

 すると、すかさずミャーマが質問を重ねる。


「あら、お姉さんがいるの?」

「はい、えっと、歳の離れた姉が……」

「はぐれたらしい」と横からココが口を挟む。

「あら、なるほど」


 ミャーマは手をポンと叩いた。


「つまり、迷子なのね」

「違います! ちょっと見失っただけです!」

「そっかそっかぁ。迷子なのね」


 ミャーマは僕の抗議に耳を貸さず、食器を片付けて鍋の火を消した。


「人探しだったら、いい店があるわ。ティオーラの店へ連れてってあげる」

「いえ、あの、大丈夫ですので――」


 ティオーラの店というのが、どんな所かわからないけれど、知らない人に甘えるわけにもいかない。


「うーん。でも君、放っておくと悪い人に騙されてしまいそうで心配」


 ミャーマの言葉に、僕はムッとして「そんな事ないですよ、大丈夫です」と言い返す。

 けれど、彼は引き下がらなかった。


「こんな見るからに怪しい格好をしたあたしに『連れとはぐれた』なんて正直に教えちゃうなんて、絶対危ないわ」


 そう言われてしまうとぐうの音も出ない。


(自分が怪しい自覚はあるんだ……)


「変な人について行って、人買いに売られちゃうのがオチよ。ね? 悪い事言わないから」


 とは言っても、ミャーマについて行っていいのだろうか。

 それこそ『変な人について行く』事にならないだろうか。


「じゃ、行きましょうか」


 断りきれないまま、彼に連れられて外へ出る。


 ココはテントに残るらしく、ヒラヒラと手を振って僕達を見送ってくれた。

 相変わらずの無表情だったけど、一応、心配してくれているようだ。


 ミャーマは「むーいむい」と謎の言葉を鼻歌のように口ずさんでいる。


(すごい人らしいけど、気取ったり偉そうにしてないんだな)


「ミャーマ様……料理人とか雇わないんですか?」


 遠慮がちに提案してみると「あはは」とミャーマは苦笑いを浮かべた。


「ビーちゃんにはボロクソ言われちゃったけどね。あたしが下手なりに料理を研究してるのにはわけがあるのよ」


 そう言うミャーマの黒い瞳は、どこか遠い所を見ているようだった。


「どうしてもね、故郷の料理をもう一度食べたいのよ」

「故郷の料理……ですか?」

「そうなの。ここのご飯が口に合わないわけじゃないのよ? ただね……ふるさとの味をもう一度食べたくて、なんとか再現できないか研究中なのよ」


 あの異様なシチュー料理が故郷の味にどれほど近いかわからないけれど、ずいぶんと変わった郷土料理なのだろう。


「あたしの故郷では『誰が作っても絶対に失敗しない料理』って言われてたんだけどねぇ」

「え? それを失敗したんですか?」


 どうやったら絶対失敗しない料理とやらをあんな暴力的に仕上げられるんだろう。


 そういえば、父さんもよく言っていた。

『絶対』などという言葉ほど信用出来ないものはない、と。


「ま、目下努力中よ。あの料理を再現できるような食材を探しているんだけどね。なかなかピンと来る物がなくて」

「ミャーマ様は故郷には帰らないんですか?」

「むーいむい。色々あってね。帰るのは難しいみたい」


 彼が悲しげに微笑むので、僕はそれ以上聞くのをやめた。


 道中、ミャーマは様々な物語を僕に語ってくれた。

 やはりどこへ行っても黄金の勇者アキレアの伝説が一番人気らしく、ミャーマは僕の知らない物語もたくさん知っていた。

 彼の語る物語を僕は夢中で聞いた。


 しばらく歩いていると、ミャーマは突然立ち止まり「さて、着いたわ」と言った。


「……え?」

「ここよ、ティオーラの店」


 僕は大いに面食らった。ミャーマは『店』と呼んだけれど、そこは木製のテーブルと椅子があるだけだった。

 銀髪の女性が一人ぼんやりと座っている。


「あの、ここは何の店ですか?」

「ここ? 占いの店」


 ミャーマはにっこりと笑って言った。


「ビーちゃんのお姉様の行方、占いで探してもらいましょ」

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