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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第一章 僕は姉さんと関わりたくない
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4.アイビーは迷子になる

――はぐれたら、仮設舞台の前で待ち合わせ――


 クローにそう言われていたけれど、ステージを前にして僕は途方に暮れていた。

 舞台の周りに大勢の人が集まってきてしまったのだ。

 屋台の男が言っていた《ミャーマの一座》とやらの観客なのだろう。

 僕の背丈では、人混みに埋もれてしまって、何も見えない。

 結局、人をかき分けステージから離れる事にした。


(店のおじさんが言ってた通り、人気の一座なんだな)


 どうにかしてクローと合流しなくちゃならない。大きくため息をついた時だった。


 ツンツンと袖を引っ張られ、僕は後ろを振り返った。


「……あ、えっと……なにかな?」


 そこにいたのは、僕より少し背の高い女の子だった。

 赤茶のおさげを三つ編みにたらし、その先っぽには、服と同じ色の赤いリボンが結ばれている。

 ヒラヒラと短いフリルのスカートに、なんとなくドギマギしてしまう。


(いやいや、僕だって今は、女の子の格好してるんだ)


 なるべく平常心で接しようと、笑顔を浮かべる僕に、彼女は小さい声でささやいた。


「……どうして?」


 僕はギクリとして女の子を見返す。


(まさか、変装がバレた……?)


 動揺を悟られないように、僕は平静を装う。


「……何が……かな?」

「どうして帰るの?」

「……え?」

「観ていかないの?」

「あ……えっと、ミャーマの一座の事?」


 無言で頷く彼女に、僕は胸を撫で下ろした。


「最前列にいたくせに、帰る人、初めて見た」


 どうやら僕は相当悪目立ちをしていたようだ。

 頭をかきながら、必死に事情を説明する。


「えっと実は、ぼ……わたし、あそこの舞台を待ち合わせ場所にしてたんだけど、人がたくさん集まって来ちゃったから、待っていても、会えそうにないなって思ってさ」

「……迷子?」

「違う! ちょっとはぐれただけだよ!」


 思わずムキになってしまった。咳払いをして、気を取り直す。


「姉さんと買い物に来たんだけど、はぐれちゃって。どこで待っていればいいか悩んでいた所なんだ」


 赤毛の少女は、無表情のまま、じっと僕の顔を見つめた後、小さい声で「名前は?」と尋ねてきた。


「えっと……ビー……だよ」

「ココ」

「え?」


 彼女は相変わらず表情を変えないまま「わたし、ココ」と告げる。

 どうやらココというのが彼女の名前のようだ。


(ん? どこかで聞いたような……)


「ビー、お腹すいてる?」


 ココは僕の顔を覗き込むように聞いてきた。


「言われてみれば……」


 その瞬間、まるで相槌を打つかのように僕のお腹が大きな音を立てた。

 赤面する僕の手を、ココがグイと引っ張る。


「ついて来て」

「え? どこへ?」

「タダで食べれる場所」


 そう言って彼女は僕の手を引いて、人混みをどんどんとかき分けていく。

 物怖じした様子もなく屋台脇の入り組んだ道を進み、時には店の裏を通る。

 辿り着いたのは、大きなテントの前だった。


「ただいま」


 入り口をバサリとかき上げて、中へ入って行くココ。

 一緒に中に入った僕は、そこで思わず顔をしかめた。


(な……なんだ、この匂い)


 中は、独特なスパイスの匂いが充満していた。

 出どころは、テントの真ん中に鎮座している大きな鍋だろう。グツグツと音を立てている。

 鍋をゆっくりとかき混ぜている人影が、ユラユラと立ち上る湯気の向こうから顔を上げてこちらを見た。


「おかえり〜って、あら? ココ、お友達連れて来たの?」


 そこにいたのは、なんとも妙な格好をした年齢不詳の人物だった。

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