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大学の教室にティモワール教授と受講生が集まった。
みんなテーマモデルとの仮想デートをして、プレゼントを用意している。
この場所でプレゼントを渡し、エライドに、現地語で『ありがとう』の『スアルゴック』と言わせたら試験に合格、単位を修得。
モデルのエライドが登場した。
仕事中のため作業着で来るかと思いきや、私がプレゼントした洋服を着てきてくれた。
私は確信した。
「では、一人ずつプレゼントを渡して」
教授の言葉で最終試験が始まった。
まず、一人の学生が箱を持って、モデルの前に立つ。
「お誕生日おめでとう」
そう言って箱を開けて見せた。
中身は置時計だった。
それを手にしたエライド、少しだけ沈黙した。
どうだろう?
ただの時計だなんて。
私なら、貴金属を使用した腕時計をプレゼントするのに……。
『スアルゴック』
え!!
「やったぁー」
学生は大喜び。
あれでもいいんだ。
安物置時計なのに……?
なんでも喜ぶのでは?
相手の立場を引く評価してしまった。
次の学生は?
さらに小さな箱を持っていた。
ゆっくり箱を開けた。
ん!?
それは腕時計だった。
機械式の安い腕時計。
まさか?
と思ったけれど。
『スアルゴック』
合格につながる一言。
やっぱり、金額は関係ない。
貧しい青年、必需品ならなんでも喜ぶ。
私は、洋服に似合う帽子と眼鏡。
その洋服も私がプレゼンとしたもの。
イケる……またも確信した。
私の番になった。
エライドに帽子をプレゼントした。
この世界のブランド品。とても似合うと思う。
ニコリと笑ってくれた。完璧だ。
そして、眼鏡を渡した。レンズは、グリーンのカラー色。透明よりおしゃれだと思った。
「かけてみて」
ん?
エライドは少しためらいを見せた。
「どうぞ」
エライドは眼鏡をかけた。
スタイリッシュな好青年ができあがった。
私は俯き加減で、言葉を待った。
エライドは頭を下げた。
それって現世の会釈なんだけど。
どうして???
残りの予算を全部使って、高価なものを選んだのに?
ただ、佇んでいた私。
信じられない、勝利を確信していただけに、落胆は大きい!!
次の学生は、胸元に吊り下げる時計をプレゼントした。
なんでみんな時計なの?
合格・不合格が確定した。
合格したのは時計をプレゼントした学生。
な、なんで???
「納得いきません」
教授に詰め寄った。
教授は、もう一度エライドの職場に私を連れてきた。
そこで、解説してくれた。
エライドは残りの仕事を夕方まで終わらせなければならなかった。
集めたゴミを焼却炉に入れている。
時々、窓から外を見ていた。
ここには時計がなかった。
「彼は、窓の外の光で時間を計っていたんだ」
気がつかなかった。でも、そんなこと、他の学生は知っていたの?
この世界の人が知っていたのなら反則なのでは?
「初めは誰も時計を必要としているとは知らなかった」
「だったらなんで? 時計のプレゼントがあんなに? おかしいじゃない」
「瞳を見たんだ」
「え?!」
「あれを見てごらん」
教授に言われ、休憩中のエライドを見た。
彼女と見つめ合っている。
仲のいいカップルに思えるけど。
彼女はエライドにタオルを渡し、エライドは彼女に水を渡した。
「二人は瞳で会話をしているんだ」
「瞳で?」
「アマンディラ国の種族には瞳で会話をする人々がいる。互いの瞳に気持ちが映るんだ」
「だったらあの二人は、恋人同士で見つめ合っているわけじゃなくて」
「瞳にタオルや水を映して会話をしているだけなんだ」
見つめ合っていたわけじゃないの?
「君は、エライドの瞳をじっと見つめたことは?」
なかった。
彼女もいるし、試験のためのモデルだったから……。
いえ、それだけじゃなくて。
「君は彼が好みのタイプではなかったから、見つめ合うこともなかった」
教授に指摘されてしまった。
瞳に時計が映っていたなんて……。
エライドはこちらを見て、また作業を始めた。
「合格した学生は授業だとしても、しっかり彼を恋人だと思って接した。そして、安い時計をプレゼントし、残りを家族への送金にあてたようだ」
教授は歩き出した。
教室に戻ると、教授は温かいティーをいれてくれた。
あらためて私は不合格……私は好かれていると思い、それならと高価なプレゼントを渡したのに……。
「あなたの住んでいた世界では、好きな人からなら、なにをもらっても嬉しいものかもしれないけど、この世界では……」
単位は修得できなかったけど、教授の講義は、私を次の恋愛にステップアップさせるものだった。
でもやっぱり悔しい。
恋愛指数が高いと自負していた私が、この世界では連敗とは。
家に戻った私は、食堂でレゼッタさんの焼きたてのピザを食べながら思った。
今度こそ単位をとる。