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エライドが働くごみ焼却場にきた。
他にも他国からの労働者が働いている。
女性も……。
リヤカーで校内のごみが運ばれてくる。
仕分けをする係。
燃えるごみが焼却炉に運ばれ、燃やしていくのがエライドの仕事だった。
時々、窓の外を見ているエライド。
青い空と日の光が見える。なんの飾りもない壁に囲まれた空間で、外を見るのが唯一の安らぎなのかもしれない。
そばにいても熱さを感じる。
少し離れた。
まじめな性格は読み取れる。
この人にも、裏の顔があるのだろうか?
他の受講生もじっと仕事ぶりを観察している。みんな目的は同じ、この講座の単位を修得すること。
「この仕事を一日なんども続けています」
一段落したのか、エライドは焼却炉から離れた。
汗がびっしょりだ。試験のモデルでなければ、言葉を交わすこともなかった……そんなふうに思ってしまう。
少し離れて見ていた。
喉の渇きを感じた。
そんな時、エライドにタオルを差し出す女性がいた。
恋人がいたの?
見つめ合っている。
瞳と瞳が重なる。
その時間が長い。
きっと、深い仲だ。
教室に戻った。
「どうでしたか? 仕事をしている彼の様子は」
「他国の労働者はみんな真面目で仕事熱心だと思います」
そんな当たり前の感想を言う学生もいる。
恋愛とは関係ないのに。
「では、彼をもっと知るため、一人ずつデートに誘いましょう」
教授の課題だった。
『ありがとう』の言葉で試験に合格。
難しい試験とは思わない。資金ももらっているし、このお金で彼を喜ばせればいいんだ。
夕飯を食べて、ベッドに横になった。
デートの計画を練る。
今までの男性とは違い、デートの値段を不安に思うこともないだろう。
経済力のある男性なら、こちらが演出する価格によっては恥をかく場合がある。
でも、貧しい出稼ぎ労働者、中級のデートプランでもお得に感じるだろう。
しかも、彼女がいるなら、女を武器にしては逆効果。
最終試験のためのプレゼント資金を差し引いて、残りの軍資金で思いっきり贅沢な時間を演出したら。
決戦の日、現地語で『ありがとう』の『スアルゴック』を言わせて単位を取る。
その作戦でいこう。
鏡の前に映る自分。
洋服にも気をつかってみる。
見た目でも周囲がうらやましく思える女でいたら、男は優越感に浸れる。
髪型を整え、メイクもデートバージョンにする。
本物の恋に発展することはないとわかっているから、気持ちはフラットな気分で。
「お待たせ」
エライドとの待ち合わせ、彼の希望で時計塔の下だった。
エライドは、時計をじっと見つめていた。
少し遅れたかな? 時間に正確な人なんだと思う。
「待った?」
「いえ」
エライドは微笑んだ。
見た目は、やはり粗末な服を着ている。
まずは、ここからね。
「いこう」
私は、エライドの手を握った。
洋服店に来た。
男性のコーナーで試着してみる。
タレントの衣装係の気分で、服を選んでみた。
予算の範囲、これでどう?
エライドは恥ずかしそうにしていた。
スタイリッシュにきめたことで、きっと彼の中で何かが弾けたはず。
次は食事ね。
相手は貧しいし青年、どこまでも定番コースでいくつもり。
飲食は当然、デートにふさわしいおしゃれな場所で。
異世界でもカフェはあった。
パンのような主食のある世界、スープや果物、デザートもある。しかもこの国は大陸で一番裕福なのだから。
各国から自慢の食材が運ばれてくる。
よって、市場もにぎやかだ。
軽めの飲食で、会話を交わそう。テーブルに向かい合って座った。
「あなたの国って?」
エライドは緊張からなのか? どちらかというと物静かだった。
彼女がいても、別の女性は苦手なのかもしれない。
正面に座られることが苦手な男性もいる。
むしろ、隣で肌が触れ合う距離のほうが……そんな男性もいた。
私は、彼の隣に座った。
「国には母と幼い兄弟がいます」
少しだけ話してくれた。
この国で働いて仕送りをいているとか。
彼にとって、こんなチャンスはないかもしれない。私は、贅沢をさせてあげたいと思った。
プレゼントの予算を差し引いて、あとは美味しいものを食べさせてあげようと考えた。
早めのディナーは、ホテルのレストランにした。
メインの肉料理からデザートまで、しっかり食べてくれた。会話は少なったけど……。
一日が過ぎようとしている。
「ありがとう」
ブリュワーズ王国の言葉で言われた。
彼にとっての本当のありがとうは、プレゼントを渡した時。
私たちは夕日を見ながら別れた。
一人だけのショッピング。
この世界に来て、まだ友達はいない。
大学では、みんなライバルみたいで。
現世でも、裏表で付き合っていたような。
本当は、私にとって、もっとも大切なこととはなにか?
そのために、異世界に導かれたのでは?
今は、試験のことを考えよう。
私の生活費は、コーディネーターが所属するエージェントから出費されている。
ブティックにはこの世界のデザイナーのブランドがおしゃれに並ぶ。
バッグを手にした。
「いかがですか?」
店員が笑顔で接してくるのは、現世でも同じ。
「短い時間の会話が、楽しみの一つでもある」
買ってしまった。ブランド品のバッグ。
その足で、エライドへの誕生日プレゼントを探しに行く。
デートで分かったこと。彼がとてもシンプルな生活をしていること。
彼女もきっとお給料は高くない。
やっぱり憧れるよね。贅沢を実感すること。
私は、残りの資金を使って、贅沢なプレゼントを考えた。
有名ブランドの帽子と眼鏡のセット。
デートでプレゼントした洋服とのコーディネートで、ハイセンスに決まる。
試験が終われば彼女とのデートでも使えるし、きっと喜ぶはず。