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「あ、ありがとう」
エルカディラ卿は、戸惑っていた。
そして、立ち上がった。
「建物の中に戻ろうか」
私達が会場に入ると、淑女の面々が集まってきた。
「わたくしのお相手も」
「いえ、わたくしのお相手を」
段々、私はこの集団から離されていった。
音のない世界だ。私にとってこの会場は……。そう落胆して佇んだ。
すでに私の居場所はなくなっていた。
私の住む部屋は、レンガ造りの建物の一室だった。
1階は、マグリットさんという若い女性店主が営むパン屋さん。2階は大家のレゼッタ夫妻の自宅と食堂になっている。
周囲は商店街のようで食料品のほか、ブティックや玩具店なども立ち並ぶ。
焼きたてのパンの香りが香ばしく香ってくる。
建物の前に車が停車している。産業革命時代の様式の車に、運転手が待機している。
来客は、ルイス・キャッスル。
「あれからエルカディラ卿からのお誘いはないようですね」
ルイス・キャッスルの言葉が、ぐさりと胸に刺さる。
「アプローチに失敗したようね」
「この世界に来たばかりで、まだおわかりになられていないことも多いと思います」
「異世界といえども、男は男、表面的には男をたて、裏で甘えさせる。常套手段だったのに」
「宮殿で育ったエルカディラ卿はなに不自由なく成長されました。成人しても宮殿での生活でお困りごとなどありません」
「なにが間違っていたのかな?」
「そのような男性は、刺激を求めています」
「刺激!?」
「下品な意味ではなく、知らない世界を知りたいとか。経験のないことをしてみたいとか」
「そっちのほう?」
悩みなんてなく、心は平穏、ゆえに刺激がほしかった……なんて。
「それゆえに、異世界の淑女との出会いには興味をお持ちだったのです」
親の後を継ぐ男性は苦悩を抱えている。だから癒しを……その作戦が裏目にでてしまった。期待にそえなかったということか。
「恋愛って、奥が深い」
「大学に行かれては、いかがですか?」
「なんの話?」
「異世界・ブリアントパーズには、恋愛専門の授業を行う大学があるのです」
また勉強……小さなため息。
「このままですと、これからご紹介する若き国王や王子との恋愛も先が見えないのでは?」
私ならきっと素敵な男性との恋愛に巡り合えると言って連れてきたくせに……。
でも、確かに少し自信を失いかけている。
「異世界の推薦枠がございまして、よろしければここから通えるラピュアス大学などは」
国王、王子との恋愛を楽しみたいのなら、この世界の恋愛を知っておいたほうが成功の確率は高いかも?
「わかりました。お願いします」