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噴水が光を反射して、色鮮やかに輝きを散らしていた。
「キレイ」
瞳に光を当てるようにして、明るく喜びを表現してみる。
まずは、“キレイ”・“かわいい”が好きな女をアピールして、相手の懐に滑らかに滑り込む。男性は違和感なく、女性を受け入れる。
案の定、エルカディラ卿は親しみを込めた瞳を私に返した。
「水晶の粒子が水流に混ざってカラフルに反射しているんだ」
「こんなにキラキラと輝く噴水は初めてです」
瞳を潤ませた。これも男を虜にする私のテクニック。
「殿下、お飲み物を」
サービス係がカクテルグラスを持ってきた。
なんの指示もなく動くスタッフもよく教育されている。
「ドレスの色に合わせたカクテルはどうかな?」
エルカディラ卿は、パープルにベリー系の実を添えたカクテルを手渡してくれた。
「ありがとうございます」
唇が紫をにじませる。
「おいしい」
エルカディラ卿は、南国の海を連想させるエメラルドグリーンのカクテルを口に運ぶ。
バイオリンの音色が聞こえてきた。
会場での演奏が、ここまで聴こえてくる。
高貴な男性との始まりは、いつもムードを引き寄せる。経済力の高さで演出も変わるもの。
大人の時間が過ぎていく。
紳士にふるまうことで、恋に導くのが男のとる行動だ。
でも、男には二面性がある。
子供好きに見えて、実は家庭を顧みないとか。
実体験だけでなく、先輩からのアドバイスを基礎として、私の恋愛指数280はできあがったのだ。
初めは紳士にふるまっていても、いつかは仮面が剥がれる。
弱さを見せる。支えが欲しいとねだる。子供のように……。
でも、それがチャンスでもある
希望をかなえてあげれば、、高級な食事も、買い物も、高貴な美男子と過ごすことができる。
ここで、心をつかみたいと思った。
エルカディラ卿にも心にピンホールがあるはず。そこを攻め込む。
「なんでも話してください」
と、私は言った。
「え?」
急ぎすぎたかな?
いえ、チャンスは一度だけかもしれない。
公国後継者のハートを射止めるワンチャンス。
頂点に立つ男性の弱いところに食い込む。
「愛するお母様のような存在で、お傍に寄り添いたいと」
「ん?」
という顔をした。
かじ取りを誤ったかも?
引き返せなかった。
下心を読まれたら、男性の気持ちは冷め、心は引き潮のように遠ざかる。
駆け引きなんかではないことを伝えなければ。
このまま相手を、母性で包み込む。それが一番。
私の勘に間違いはないはず。
会社の跡取り、いわゆる2世は常に業績不振を恐れている。
社員の家族の生計を背負い、時に重みに押しつぶされそうになることも。
タレント2世は、常に親の名前がつきまとう。
コネではないかと陰口を言われ、歌も演技も親と比べられる。
CM好感度を気にし、視聴率への影響に悩まされている。
そんな男達は呪縛からの解放を求め、暖かな母のもとに帰りたいと思っている。
実際、子供のように甘えてきた。
「現実に悩み、未来に不安を抱えておられるのなら、私に遠慮なく甘えてください」
私は、エルカディラ卿の手を握って、瞳を見つめた。