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早速、様子を見ていた淑女達のひそひそ話が始まる。
『あの娘はなに?』
『新しいお相手かしら?』
『品のないように見えますけれど』
『あのドレス、似合いませんわ』
『田舎の娘では?』
こういうケースではよくある下品な内容を上品に喋る声。
弁護士や医師の集まるパーティーでも似たことがあった。
結局、うらやましいのだ。
エルカディラ卿は、女の争いをどう思っているのだろうか?
「案内しよう」
と、そよ風に吹かれるように歩きだした。
その背中の後ろを歩きながら考えた。
この方は次期公爵、つまり公国を継ぐお方。
2世や3世といった後継者とは何度も交際している。
生まれながらにして、人より数段上の階層から登り始めるお坊ちゃま。
常に下には、自分を見上げる僕<しもべ>がいる。
プライドが高く活動的で、常に人々のまなざしに晒されている。
でも私は知っている。
完璧を重ね合わせたような200点満点の男性でも、一つだけ弱点がある。
心のどこかにピンホールほどの穴が空いている。
まさにそれは弱さ。
その穴の周辺だけは、鍛えられていない。
特に親の保護が厚く子供時代に負けを知らず育っている御曹司などは、逆境に対する抵抗力が弱い。そこが要するに心の弱さなのだ。
現世の経験では、有名タレントの2世、親族経営で発展した企業の2世、3世にはマザコンが多かった。
人前では仮面を被り、負け知らずの自分を保っている。
が、弱さを消すことができない。常にプレッシャーと戦っていれば、弱い自分を抑えられなくなる。
だから、心許す女の前では、甘えてきた。
そんな時、私は、疲れた彼のため、膝枕をして愚痴を聞いてあげた。
きっと彼は、母のような温もりで癒されただろう。
エルカディラ卿も男……きっと、弱さを受け止めてほしいはず。