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チケットもいただいて、家に帰った。
マグリットさんにも渡したら大喜び。新作のホワイトシチューパンを試食させてもらった。
マグリットさん、店を臨時休業にして観劇するって。
こんな趣味があったなんて。
当日、公演を楽しみに通学。足取りも軽い。
正門の前に、演劇舞台の看板があった。
図書室で調べものをして、ショップで差し入れを買った。
みんなに配れるよう、一個ずつ包装されているお菓子にした。
楽屋の前。扉の向こうから声がする。
ん?
なんか、騒がしくない?
私が楽屋に入るとなにやら、トラブルがあった様子。
「エミリア!!」
突然、アランが走り寄ってきた。
部員、監督もそろっていて、青ざめた顔をしているけど。
「彼女に頼もう」
「え!?」
アランの言っている意味が?
え!? ええええ~ 耳を疑う。
私が……無理、演技なんて……
「眠れる王女のシーンだけは外せない」
そう言われても……
パティーが病気で熱を出し、病院で治療を受けているらしい。
「パティーならきっと言う。エミリアにやってほしいって」
アラン、そんな瞳で見つめないで。
「寝ているだけだから」
「他のシーンは変更できるけど、そこだけは外せない」
みんなの視線が痛い。訴えかけている。切実さに負けそう。
でも、キスシーンってなかったかな?
「ね、寝ている演技だけでいいの?」
自信なさそうな私の声。
「うん」
「簡単に説明しておこう」
と監督、他のメンバーにも指示を出す。
急に慌ただしく動き出した。
監督からの説明を聞いて、演技内容を頭に詰め込んだ。
口づけのシーンは外して、瞼にキスという変更。それでもドキドキのシーンだけど。
引き受けたからには、迷惑はかけられない。
楽屋でパティーが着るはずだったレスカ王女の衣装。
な、なんか、お姫様になった気分。
いや、浮かれている場合ではない。簡単な演技でも失敗は許されない。
開場の時間。
人気の舞台なので、客席はいっぱい。
幕が上がり、伝説の竜・アロンガランのセリフから始まった。
順調に進行していく。
ランスロットが仲間と出会うシーンから冒険シーンに変わる。
出番前から心臓の高鳴り、緊張する。
戦闘シーン、獣神、魔法使いが暴れまくる。
プロジェクターの魔法効果が迫力満点で。
舞台の袖にいた私、肩を軽く叩かれた。
「もうすぐだね」
ランスロットの衣装でアランが立っている。
アランに見つめられたら、少し緊張がほぐれた。
一度幕が下り、私は、宮殿の一室で寝かされている。
幕が上がる。
レスカ王女、再生のシーンが始まろうとしていた。
監督の説明では、ランスロットがレスカ王女の瞼にキスをする。
そして、王女を目覚めさせるというシナリオ。
ランスロットのセリフに熱がこもる。
「僕は祈り続ける、君の心に届くまで」
ランスロット、いえ、アランの唇が近づく。私の瞼に……
そして……
はっ!
え?!!
この感触!!!
私の唇に触れた。アランの唇……
瞼じゃない!!
高鳴る鼓動に、演技さえ忘れそう。
アランは、私、エミリアにキスをした。
「起きて」
小さな声。
私は、ゆっくりと目を開けた。
近い、近すぎるほどのアランとの距離。その視線が重なって……
わっ!!
お姫様抱っこ? これは筋書き通りだけど。
ランスロットの仲間が集まり、拍手で祝福。
私も、本心から笑顔になってしまった。
ラストシーン。私は、ただ立っていただけど。
宝鳥・ビリアントックの卵を手に入れ、虹色に光るレスミンの泉に浸した瞬間、
願いの叶う宝石に変わる。
満員の客席、大きな拍手で幕は下りた。