表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/37

21

大家のレゼッタさんの食堂で、朝ごはん。

「これからデート?」

「うん、洋服どうしようかと思って」

「迎えに来てくれるの? 彼氏は?」

「彼氏って言っても、一日限りだけどね。彼のアルバイト先、サミリアデパートで待ち合わせ、そこで販売促進の臨時スタッフをしているんだって」

「働きながら勉強って、偉いねぇ」

「テーマモデルだけど、いい人に出会ったって感じ。無事デートが終わればスタンプゲット」

「がんばってきな」

レゼッタさん、サラダを追加で出してくれた。



サミリアデパートの前。街では大きな百貨店の一つで、生活必需品から宝飾品まで品ぞろえは豊富。もちろん娯楽場も完備。


サミーは?


来た!!

「待った?」

「私も今来たばかり」

普通のデートの始まり方だ。


「中を案内するよ」

寄り添い歩いた。


レストランフロアー。

「昼食の時間になったら、ここで」

メニューも豊富。

「なに食べような?」

ケースの中の、料理サンプルを見てみた。

サミーは笑っている。

「なに?」

「だって、まだ昼食にははやいのに」

「そ、そうよね」

お互い声を出して笑った。


「遊べるスペースもあるよ」


子供広場。

三角や四角の大きなクッションや大きなボールが散らばっている。

駆け回る子供たち。少し離れて見守る親の姿。

なんか、自分の未来を思い浮かべた。

男性とは恋愛だけで時を過ごすものだと思っていた私、家庭とか感じさせる男性っていたかな? 記憶にない。

やはり、少しずつだけど、ちょっと、変わってきた自分がいる。

「子供好き?」

サミーに訊かれたけど、小さく頷くだけだった。

「サミーは?」

「好きだよ。ここのアルバイトでも子供たちと遊ぶ機会が多い」

「そうなんだ」

「向こうにダーツ場があるんだ」


壁にかけられたダーツの的。

現世にもダーツバーってあったな。

私のダートは、ボードの真ん中に刺さった。

「うまいじゃないか」

こういう遊びは得意。

「僕も」

と、サミーが準備を始めた時だった。

「サミー」

と、男性の声。

「ラマン!」

「紹介するよ。アルバイト仲間のラマン」

「こんにちは」

「ちょうどよかった。来てくれ」

と、かなり慌てている。

一大事のような……。


私たちはスタッフルームに来た。

「レノ主任、偶然サミーを見つけて」


レノ主任、若い女性リーダーのようだった。

「どうかしたんですか?」

「マノとケインが、急に熱をだして」

「休み?」

「ウイルスだと思う」

「あの二人交際しているから、一緒に感染したのね」

「それで、ワノンとアノンのキャラクターが出せなくなって困っていたのよ」

「ワノンとアノン?」

「マスコットキャラクター、あのポスターを見て」

私の質問に、サミーが答えた。

壁にポスターが貼られている。キャラクターは、どこかの惑星人で、男女をイメージしているよう。

「サミー代役を頼む」

「でも、今日は休みで」

「お願い」

レノ主任のすがるような目。

「でも、ワノンは僕が入るとして、アノンは?」


みんなの視線が私に注がれた。

え!!

まさか??

私???



どうしてこんなことに……溜め息。

私は広場にいた。

アノンの着ぐるみの中にいる。


オルガンの演奏。

子供たちが集まってきた。


こんなの初めてだ。

ウワッ!!

イテッ!!

後ろから少年に飛び蹴りを食らったみたい。


「こらぁ~よい子は、そんなことしたちゃだめだよ」

ワノンが叱ってくれた。中にはサミーが入っている。


オルガンの音楽に合わせてダンス。

適当だけど、ワノンにリードされて踊ってみた。

子供たち、喜んでいる。

子供と手をつないで踊った。


時間はあっという間に経過した。


楽しい時間もおしまい? かと思ったら。

なぜ?

『キッス』『キス』『キッス』のコール。

手を叩きながら、観衆の催促が続く。


恒例なの? ワノンとアノンのラストキス!

ワノンがこちらを見つめている。

近づいてきて、見つめ合った。

サミーの瞳が、こちらを見ている。


キャラクターのまま、口を寄せてキスをした。

ワァ~

ウオーーー

いろんな声が耳に届いた。


「いこうか」

サミーの声。

私たちは手を振りながら、去っていった。

子供たちの『バイバイ』の声が、気持ちよかった。


ロッカー室で着替えた。着ぐるみ脱いだら体が軽い。

でも運動にもなったし、子供たちも喜んでくれた。



レストランでサミーと食事。

食べたかったバスタと海鮮のフライ。

サミーは、シチューとパンのセット。

「変なデートになっちゃってごめん」

「楽しかった。普通のデートよりよかったかも」

「ラマンも主任も助かったって、ありがとう」

「おこずかいもいただいちゃって」

「着ぐるみのセンスあるよ」

私は苦笑い。



帰り道、私たちは公園のベンチに座った。

スタンプブックに書き込みをしている。

不正がないように、出会いから結末、過程や経緯などを記入しなければならない。内容に誤りがなければ関係者のサインをもらう。

私たちはブックを交換し合って、サインをした。

偶然から始まる出会い、そしてデート。課題はクリアしたはず。

「お別れだね」

サミーが言った。

そう、これはお互いがテーマモデルとなった、ミッションの一つ。

一日が終わろうとしている。明日からはただの他人。

少し寂しい。

「大学で会ったら、また食事でもしようよ」

サミーが言ってくれた。

「そうね、永遠の別れでもないし」

夕日がサミーの横顔をオレンジ色に染めている。

私……。

「それじゃあ」

サミーは立ち上がった。

「うん」

私は沈み夕日を眺めながら帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ