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キャンパスを歩いていた。
恋愛大学だけあって、クラブ活動もテニスや卓球、陸上など、男女で楽しめる運動部や音楽など、常に異性を意識した風景があちらこちらに。
そろそろ友達が欲しい気分。
ポンと肩を軽く叩かれた。
この男は、友達にしたくない。
テリウスだ。
「どう、海の見える公園までドライブでも」
「遠慮しておく。車のタイヤが外れて海に落ちたら、メイクが崩れる」
「海鮮ビュッフェで有名なレストランもあるのに」
海鮮?
いやいや、私は首を横に振った。
「テリー」
と、女性の声。
「アニー」
「一緒に帰ろうよ」
『テリー』と『アニー』って、恋人?
「こちらは?」
アニーは私を気にしている。
「ただの通りすがりです」
「違うって、お友達」
テリウスが私の腕をつかんでくる。
ちょっと……私は離れようとした。
アニーは、テリウスの腕を握り自分のほうに引き寄せた。
「約束は?」
「ん?」
「時間がないの、ここで」
アニーは、テリウスの頬に唇を近づけた。
約束ってなに? 頬にキス? ここで?
「イチャイチャするなら、ご勝手に」
腹が立ってきた。
「違うんだ。これは、スタンプラリーーのテーマで」
テリウスは一度アニーと距離を離した。
私は二人と向かい合った。
「スタンプラリー?」
「知らないの?」
と、アニーは、バッグからカバー付きの手帳型スタンプブックを見せた。
ブックを開くと、サインとスタンプが一つ押してある。
「なにそれ?」
「関係者のサインと教授のサイン、そしてスタンプ」
「つまり、教授の課題をクリアしたらその証明にサインをもらって、企画課窓口でスタンプを押してもらう」
と、テリウスが説明した。
なんか、興味が湧いてきた。
「そうするとどうなるの?」
「スタンプ10個集めると、単位がもらえるというわけ」
なんか面白そう。そんな企画があるならはやく言ってよ。
「課題も一般講座と比べたらそれほど難しくない」
「その代わり、期限内に10個という条件付きだけどね」
「それで、頬にキスを?」
「そう、これも課題の一つ、スタンプのため」
アニーは、またテリウスに頬に唇を近づけた。
「おい、どこに?」
テリウスは遠ざかる私に叫んだ。
「企画課にいってくる」
私の足は、館内に向かっている。
この企画、絶対クリアする。燃えてきた。
私のステップは軽かった。
スタンプブックを手に入れた。
これからスタンプラリーが始まる。
教授の一日講座を受講し、課題をクリアしたらサインをもらい、企画課でスタンプを押してもらう。
スタンプ10個集めると単位を一つ取得という異世界大学ならではの課程。
順番は決まられていないので、まずは、カズホマー教授の講座を受講。
偶然から始まる恋の行方。
その確率と、恋愛までに至るためのプロセス。
講座をきいて、最後にスタンプ取得のための課題をもらった。
偶然を装った出会いをきっかけに一日デート。
相手にテーマモデルになってもらったことを話し、サインをもらうというミッション。
恋愛大学の生徒なら大学のシステムを熟知しているので、後で課題のためだと知らせてもトラブルにはならない。
もちろん、そのまま本当に交際が始まるなんてこともあるらしいけど。
私は、大学内のストアで、男性用のハンカチを買った。
古典的すぎる? と思ったけど、偶然から始まる出会いといったらこれかな?
廊下を歩いている。行き交う生徒。
すでにカップルの雰囲気たっぷりの男女もいるけど、なにかのミッションなのかもしれない。
とにかく、相手を探さないと。
一日デートするわけだから、誰でもいいといわけには。
長身の男子が向かってくる。
この人にアプローチ。
ハンカチを握った。
すれ違って、ハンカチを落とす。
「あの~」
落としました? というところなのに。
「マーク」
と、別の男子の声。
「お待たせ」
と、友達同士で歩いてしまった。
失敗した。私はハンカチを拾った。ちょっと情けない。
今度こそ。
色黒の男子。
タイプとはやや離れているけれど。
もうそこにきている。
すれ違って、ハンカチを落とした。
言葉を発しようとした時。
「落としたよ」
別の手がハンカチを拾った。
ゲェ!!
テルウス!!
「落としたよ」
って、なんで邪魔するのよ。
「なんで、ここにいるのよ」
テリウスからハンカチを奪い取った。
「なんでって、たまたま」
「拾わなくてよかったのに」
「それ男性用の」
「うるさい。邪魔するな」
と、私は歩き出した。
「拾ってあげたのに」
背中から聞こえたけど、無視した。
カフェで、一休み。
スタンプラリーの課題なので、難しくはないはずだけど。
なかなか、簡単に10個のスタンプを集められるわけでもなさそう。
もう一度、挑戦。
立ち上がった。
広場では、学生オーケストラの演奏。
恋愛大学といえども、こんなシーンもあるんだ。
漂う音符を、しばし堪能。
また、歩き出した。
花壇の横を歩いていると、前方から短髪・清潔そうな男子が……。
あんな男子が、テーマモデルならいいのに。
試してみようか?
ハンカチを……。
あれ?
歩きながら、ハンカチを探した。
偶然の出会いを演出する小道具、どこやった?
見つからない。
間に合わない。
行き過ぎた。
タイプだったのにぃ~
仕方ない。不審に思われてもいやなので、振り返らず歩いた。
「これ、君の」
ん?
「落とさなかった?」
私?
振り返った。
男子は、ボールペンを拾ったみたい。
そんなの落ちていた?
「落としたよ」
「いえ、私のじゃあないけど」
「そう、どうしたらいい?」
そう言われても……。
「窓口に落とし物として届けたら?」
「窓口?」
え? 知らないの?
まぁいいか。
「行きましょうか? 一緒に」
どうも、見えない力に背中を押されているようだけど……。
「ありがとう」
って、笑顔がステキ……このまま流されよう。
結局、職員に落とし物を届けた。
「時間があったら、お茶でも」
って、なるようね、この展開。
ティールームには、学生がいっぱい。
窓際に二人で座った。
「入学して間もないから、校内のことわからなくて」
「私もまだ入学したばかり、なかなか単位が取れなくて」
「僕は、スタンプラリーの企画に参加してみた」
「え? 偶然」
私たちは、スタンプブックを見せ合った。
お互い、スタンプは一つもなく、カズホマー教授のミッションに挑戦中。
「こんな偶然って!!」
「偶然の出会いから始まる恋の行方、僕たちの命かも?」
「一日デートで、スタンプ一個だから、よかったら」
「デートしよう」
なんと交渉成立。
「僕は、サミーウィリス……サミーと呼んで」
「私は、エミューズ・マリア・アントローフ……エミリア」