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私は、異世界に転移した。
『異世界・ブリアントパーズは、コバルト、エメラルドグリーンの海に様々な海洋生物、色鮮やかな草花が咲き乱れる草原、緑豊かな山々、自然に囲まれ、大陸も個性あふれる国家が存在します』
『体制も共和国から王国、立憲君主制など様々で戦争を好まない指導者が国を治めています』
『特に国民からの信頼が厚い指導者の面々は、ご家族も容姿端麗、尊敬される人格者が多い』
『そんな家柄の男性は、国内だけでなく、次元を超えた恋愛対象を求めています』
『この世で、恋愛に物足りなさを感じたあなた様なら、きっと異世界ブリアントパーズの高貴な男性をも虜にできるのでは?』
……なんて、私の恋愛心をくすぐり、プライドを抱いて、乗り込んだ異世界だった。
私は、エミューズ・マリア・アントローフという名前で、この世界にデビューすることとなった。
ルイス・キャッスルは、私をエミリアと呼び、次元を超えた恋を楽しみなさいと導いた。
その真の目的がなんであったのか?
とにかく、現世ではお目にかかれない国王や王子、皇太子との出会いに胸を弾ませていたのだが……。
最初に紹介されたのが、ディレゾン公国の宮殿。
エルカディラ卿のお相手だった。
出会いの前に、一つだけ大事な情報を得ていた。
エルカディラ卿のお母様が亡くなられていること……。
男性との恋愛では、欠かせない情報なのだ。
庭の中央に噴水のある大きな宮殿。
庭の手入れは完璧で、花びらが、赤・黄・青の三色の珍しいランが咲いていた。
異世界の蝶は、羽ばたく度に香水の香りがした。
パーティー会場。
会場の広さに驚いたけれど、さらにサービス係の多さと言ったら、料理を運ぶ者、カクテルをトレーに載せて歩く者、あえて出会いの仲介役をつとめる者もいた。
もちろん来場者に紛れて警備スタッフもいる。
私は、事前に用意されたドレスを着て、異世界のエミリアとして参加している。
レッドパープルとピンク色をアレンジしたドレス、気高さにピュアを散りばめたようで、とても気に入ってしまった。
鏡に映った私は、陸にあがったマーメイド……そう呼ばれたいと思った。
「エミリア様、よろしいでしょうか?」
女性スタッフの声。耳が大きく、癖のあるまき髪……その容姿は、他部族の出稼ぎ労働者のようだった。
そして会場入り。
異世界からの招待客は私だけでないらしく、微妙に姿形の違う人達が集っている。大陸の別の国からの来訪者も含まれているが、この世界の住人ではない匂いを醸し出す客もいるようだ。
案内役のルシードの後ろを歩く。
公爵が、カクテルグラスを手に、高貴な方々との語らいに笑みを見せていた。
公爵のそばには次の夫人と噂されるイメルダ嬢の姿。最初の夫人を亡くされた後、あるパーティーで彼女のピアノ演奏を聴き、距離が近づいたとされている。
私が夢見た上流階級のパーティー。
現世では、財閥の主催の集いは参加したけど、私の満足できるものではなかった。
料理もお酒も、参加者の衣服も、狭い世界で豪華さを競い合う程度。
自国の国力低下を知った。
やっぱり、アメリカの大富豪やアラブの石油王を目標にしていた私。
いえ、それ以上の……たとえば、かつて贅を尽くしたという中国皇帝の晩餐のような……。
今、私のいる空間こそが、山頂への最短ルートかもしれない。
ルシードが、ご子息のエルカディラ卿に合わせてくれた。
髪からも、唇からも艶を感じる美男子。頬が白く照明の光を映してきれいだった。
第一印象は?
大丈夫……悪くなさそう。
「異世界の女性は初めてではないが、違った雰囲気が」
エルカディラ卿は、私の顔をじっと見つめて言った。
「お会いできて光栄です」
「ここからはお二人で」
ルシードは礼をすると、静かにその場を離れた。