18
また、単位を落としそう。
夜、寮の部屋で考え込んだ。
なんの成果もなく、帰国するなんて……。
マーティスさんへの思い。届けたいのに……。
大きな刺激があれば、感情が芽生える。
そんな都合のいい出来なんて……。
また明日考えよう。
眠ってしまった。
なんか……苦しい。
悪夢? 獣に追いかけられる夢。
ん?
煙?
臭いが???
目を覚ますと、どたばたと物音がする。
とんとんとドアを叩く音。
完全に目が覚めていない。
とんとんと音がする。うるさいくらい。
ドアを開けると、すごい煙が……。
はっ!!
「火事です。逃げて」
入居者の女性はそう言って、他の部屋に向かった。
とりあえず、服を着替えると、タオルだけ持って部屋を飛び出した。
ここは三階。
下からも煙が上がってくる。
持ってきたタオルを口にあてた。
みんな逃げたようだけど。
2階からも火が出ていた。
なんとか1階まで下りた。
あれ?!
人が倒れている。
煙が充満していた。
私は、タオルで口をおさえ、低姿勢で近づいた。
息はある。助けないと。
「誰かいますか?」
レスキュー隊が来た。
「こっちです」
一人のレスキュー隊が、火の中を潜って助けに来てくれた。
「この人を先に」
「あなたは?」
「私は一人で走れますから、はやく、この人を」
レスキュー隊は負傷者を背中に担いで、出口に向かった。
私も……。
はっ!
タオルに火がついた。
慌てて、振り払う。
その時、柱が倒れてきた。
「おーーーい」
レスキュー隊が大声で叫ぶ。
「行ってください」
私も叫んだ。
火のまわりがはやい。周囲に燃え移り……。
火の海となった。
こんなところで……これが運命だなんて……。
熱い……。
大きな音がした。
人の影?
マーティスさん?
レスキュー隊のマーティスさんだった。
「大丈夫かーー」
意外にしっかりした声。
「ここよ。でも、来ないで、もう無理」
「諦めるな」
怒られた。いつもの彼じゃない。
炎の向こう、姿が見えてきた。
「無理しないで、あなたまで死んでしまう」
「俺は……俺は、君を助ける」
力強い声。これがあのマーティスさん?
感情を失った国民の声?
「絶対に助けるからぁーーー」
マーティスさん、蘇った?
気を失いかけている。
「しっかり、負けちゃだめだ」
駆け寄るマーティスさん、その温もりを感じながら……倒れ込んだ。
病院で目を覚ました私。
レモーネさんとカノック先生の顔が見られた。
「よかった。無事で」
「私は……」
「彼が助け出してくれたんだ」
と、カノック先生。
その後ろに、サフラ先生とマーティスさんが立っていた。
「マーティスさん」
「命がけの救出だったらしい」
「どうしても助けたかった。君のことを……」
そう言って笑った。
「初めて見た、マーティスさんの笑顔」
「心を取り戻したみたいよ」
「サフラ先生、私がマーティスさんの心を?」
サフラ先生とマーティスさん、一緒に私の顔を見て頷いた。