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カレリアさんのペットショップに来た。

耳の大きな小動物に癒される。

「ごめんなさいね。危険な思いをさせて」

カレリアさんの心遣い。以前は心と脳がつながっていなかったなんて信じられないほど、表情も明るい。

この国で、私も同じような人と出会えれば恋ができる。そう信じたい。


「これからレスキュー隊の事務所に行くの?」

「ええ、お礼をしたくて」

キャンキャンと吠える動物。カレリアさんが餌を与えると大人しくなった。

「お礼の品はなにがいいですか?」

と、訊いてみた。

「忙しい仕事だから、短い時間で食べられるクッキーとか」

「わかりました」


私は、洋菓子店でお菓子を買い、レスキュー隊事務所を訪れた。


隊長のアランさんは微笑みで迎えてくれた。

異国からの派遣隊員は普通に話せる。みんな男性。

ただ、恩人のマーティスさんは、不機嫌そうで。

今日は、緊急通報はないようで、事務所は穏やかだ。

「私、お茶入れます」


「大学に通っているんだ」

「授業でこちらに」

「ブリュワーズに戻るのかい?」

「はい」

「ずっといてほしい」

家族のような雰囲気だった。

若い男性もいて、誰かと恋ができたら?

でも、この国の男性からラブレターをもらうことがミッションだから。



唯一の国民はマーティスさん、私には全然興味がなさそう。

黙ってお茶を口にしている。

「お茶いかがですか?」

私はポットを持って近寄った。

マーティスさん、カップを差し出した。

その時、

「熱っ」

「ごめんなさい」

お茶を手にかけてしまった。

慌てて、タオルで手を拭こうと……。

手が触れた。

マーティスさん、無表情。

「大丈夫でした?」

マーティスさんは黙って頷いた。

「この前は助けていただいて」

頷くだけのマーティスさん。

「なにかお礼を」

沈黙。

だめだ。


「食事にでも誘ってみたら?」

アランさんが私に言った。

「仕事は一生懸命な男だからね。ただ、それだけではかわいそうだから」

「異国の女子とデートなんて」

「うらやましい」

「行って来いよ」

他の隊員も後押し。

デートが決まった。



エルメゾン大学でカノック先生と話した。

「いいチャンスじゃないか。この国の男性との恋愛ができるかも?」

期待はしたいけど、接し方がまだわからない。

山登りでも感じたようなイライラがまた沸き起こるかも?



サフラ先生にも相談してみた。

「スキンシップもありかも?」

って、男性の体に触れるのは?

「以前の私なら、初デートで腕を組むなんてこともあったけど」

「それでいいんじゃない」

でも……。

「ありのままで……」

「ありのまま……」

「自分の思うように、接してみたら?」

う~ 悩む。



待ち合わせ場所は、大学の正門。

なんでここ?

サフラ先生が物陰で見ている。


「いきましょうか?」

私から歩き始めた。

サフラ先生、笑顔でVサイン。


遊歩道を歩いた。柔らかな日差し、緑の並木道。

思いのままに……。

腕を組んでみた。

無表情だけど、嫌がる様子もなかった。

「仕事、大変?」

「うん」

脳はしっかりしているから、こういう会話はできそうだ。

「辛いことってないの?」

「別に……ありのまま生きているだけだから」

「将来の計画とかは?」

「死ぬまで生きる……それだけ」

なんか寂しい。

この人も研究施設で生まれたんだろうな、親の愛情とか関係なく。

横顔を見た。ハンサムなのに……。

「怒ったり、笑ったり、しないの?」

「わからない」

「悲しくて、泣いたりとか」

「わからない。意味はわかるけど、どういうものかは感じたことがない」

少し、悲しくなってきた。

「人を好きになって、幸せを感じるとかないのかな?」

マーティスさん、黙ってしまった。

少し悲しくなってきた。

心がないなんて……。

ロボットじゃない。

「目から水が……泣いている」

と、マーティスさんに見つめられた。

瞳はこんなに綺麗なのに……。


「心ってここにあるのよ」

って、心臓の辺りを触った。

泣いている顔を、その胸に押し付けた。

心臓の鼓動がする。

生きているじゃない。だったら、感じてよ。もっと、たくさんのことを……。


不思議な現象?

マーティスさんは、私の肩を抱いてくれた。


その後も会話は音の連動にしかならず、心を開くことはできなかったけど。

ショッピングや公園、食事をして別れた。


サフラ先生に報告した。

「時間がかかるけど、少しずつ脳と心の間にパイプができるかも?」

でも、この国にいられる時間はあとわずか。

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