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ラピュアス大学とも交流のあるエルメゾン大学、私も不定期の講義に参加の権利があった。


レモーネさんの夫で、講師のカノック先生を訪れた。

よかったら、講義を受けてください。

優しく誘われた。

カノック先生は、心体分離学という聞きなれない学科の専門だった。

「私のために、この国の歴史から説明してくれた」

特別な授業なので、留学している異国の生徒ばかりだった。

それほど、この国の国民性は不可思議なのだ。


いくつかの説があり研究段階だが、元々原住民が住んでいた場所に、隕石の落下で放射線が飛び散った時からの異常だという研究結果が報告されているらしい。


その遺伝を引き継ぐ国民は、脳はしっかりしているけど、心がない状態だという。


え~

心がない人と恋愛……なんて……。

自分のミッションが頭をよぎった。


一時期絶滅の危機にさらされた国だったが、他国の支援を受けながら、観光で国を維持している。


今、子供は病院ではなく、研究室で生まれるという。

体外受精みたいな?

学生は熱心に講義を聞いていた。

クローンでないことが救いではある。


講義が終わり、カノック先生と学生食堂に来た。

ここで働く人も無愛想。

でも、国の歴史を聞いたので、こちらから素直に『ありがとう』が言える。


「お水いかがですか?」

従業員の心遣い。

「この方は出稼ぎの?」

「いえ、私はバランティアの人間です」

「大学では、カウンセリングの研究もしていて、彼女のように内面に変化がみえる人も出始めているんだ」

う~ん、なかなか大変そう。

この国の人と恋愛……さすが、試験の課題となるわけだ。


恋愛に進むには、カウンセリングの研究にも触れる必要がありそう。


カウンセリングセンターを訪れた。


女性カウンセラーのサフラ先生に会った。

私は自分を知ってもらうため、大学同士の交流から、この国に来た理由まで説明した。

「この国の男性との恋愛はとても難しいわね」

「かといって、このまま帰るわけにも」

「ポイントは心を開くこと」

「人と人との信頼関係ですか?」

「もう一つ、刺激」

「刺激ですか?」

「遺伝的に脳と心がつながらないことが原因だという説があるの」

「つながらないってことは……」

「つまり潜在的に心がないということではない」


「心はあるけれど、脳との交信ができずに、感情が表にでないとか?」

「まだ研究段階だけど、強い刺激で脳から心になにかの伝達があれば、感情が生まれるかも」

その後も、色々と話ができて、一つの目標ができた。

まずは、出会いが大切。この国の人と知り合うことから始めようと思う。


サフラ先生は、一組のカップルを紹介してくれた。


ペットショップで働くカレリアさん。夫は看護師だという。

この国には病院が少ない。現地の人は医師になりにくいからだという。

病気の時は、異国からの派遣医療スタッフが活躍している。


カレリアさんは現地の人で、元々感情が薄い方だった。

薄いというのは、ペットショップにいたため、若干他の人より感情があった。

とはいっても、やはり心と脳とのつながりは無いに等しかった。


「今は、会話もしっかりしているし、表情も豊か」

なぜ? 訊いてみた。

ある日、異国から仕入れたペットで病気に感染し生死を彷徨うことがあったのだという。

「そんな時、今の夫、看護師のワイマールが手を握ってくれて」

懐かしそうに思い出を話すカレリアさん。

「はっきりした記憶はないけど、とても温かな言葉を耳元で」

「素敵、きっとカレリアさんのことを……」

「意識を取り戻せた時、私には感情があった」

「そういうこともあるんですね」

サフラ先生の言っていた刺激というものなのかな?

夫のワイマールさんにも会いたくなった。


「今度山へ行く時、ご一緒します?」

「山登りですか?」

「ええ、夫とは時々野生動物の探求に山へ」



レモーネさんと街のショップに来た。

登山に必要な用具を買いに来た。

リュック、衣類……ここの店員も不愛想。

商品を黙って袋に詰めて会計。

レモーネさんは、その内慣れるというけれど、やはり違和感がある。

買い物を済ませて食事。お店に入った。


仲のよさそうなカップルもいるけど。

観光客のよう。

バランティア国民との恋愛なんて、できるのかと、また単位を落としそうで不安。

それでも夜は訪れ、朝日にも会える。


カレリアさんと登山に来た。

山の入口に集合。

ワイマールさんも一緒だ。

ハイキングの気分。

案内係のジョアンさん。

鳩を連れているけど。

「なにかあった時の鳩、なにか?」

ジョアンさん、棘のある言い方。

「伝書鳩なんだ。連絡用に」

ワイマールさんが優しく言ってくれた。


カレリアさんとワイマールさん、とても仲が良く、うらやましいくらい。

私は、ジョアンさんの背中について歩くだけ。 

会話ができず、イライラ。


珍しい鳥を発見した。

シャッターチャンス。

「音を立てるとすぐ逃げる」

ジョアンさんの言う通り、鳥は羽ばたいた。

もう少し言い方っていうものが……と思っても仕方がない。


お昼ご飯。

カレリアさんとワイマールさん、ハイキング気分で子供のようにはしゃいでいる。


私は……つまんない。

ついに愚痴がでてしまいそう。

黙々とサンドイッチを食べるジョアンさんの横で、ため息。

来るんじゃなかった。


リスに似た小動物。

「追いかけてもいい?」

ジョアンさん、勝手にという顔。

事情はわかっているけど、さすがに我慢の限界。この国の人って……・

「先に行きます」

動物は、こっちを見て瞬きしている。

なに? かわいい……。

「追いかけるな!!」

と言われたけど、無視した。


どこまでも逃げる動物。

捕まえたい。

「追いかけることに夢中になりすぎてしまった」


キャャャーーー

気がついた時は遅かった。


崖から落ちてしまった。


痛い。

リュックの紐が枝に引っ掛かり助かった。

ぶら下がっている。危険な状態には変わりないけど。


その時、鳩が飛んだ。

ジョアンさんの伝書鳩?



「大丈夫?」

カレリアさんとワイマールさんが上から叫んでいる。


動くと枝が折れそうで……。

真下は崖なのに……。


伝書鳩のお蔭?

レスキュー隊が来た。

事前の情報では、旅行者の事故が多いので、訓練されたレスキュー隊が待機していると聞いてはいた。



一人の隊員がロープで下りてきた。

無言……この国の人だ。

でも、この人が私の体にロープを巻き付け、上から別の隊員が引っ張り上げてくれた。


助かった。

「ありがとう」

お礼を言った。

「無事でよかった」

隊長は、アランさん。

「ありがとう」

下まで来てくれた隊員にも頭を下げた。


「仕事だから」

淡泊なセリフ。

「彼はこの国の隊員だから、マーティスと言います」

と説明する隊長は異国の人らしい。

マーティスさんか……やっぱり、こんな時でも感情を見せない。

普通、人を助けたらもっと喜びの表情とかあるはずなのに。


じっと顔を見てしまった。

瞳はとても綺麗だった。

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