13
私は、またこの国を訪れた。今回はホテルに宿泊する。
建国記念のセレモニーがあり、ホテルは客でいっぱいだった。
大通りの周辺に人が集まる。
有力者たちのパレードが始まった。
貴族風の方々が馬車から手を振っている。
私も手を振ってみた。
その馬車の一つに、見覚えのある顔があった。
アーゼルトが馬車に乗っている。
その時、後ろから声をかけられた。
「お帰り、また会えたね」
振り向いた。
え!!
レスキュート男爵だった。
「どういう?」
頭が混乱してきた。
「あの方が、本物のレスキュート男爵なんですよ」
えっ!
一瞬時間が止まった。
え!! つまり入れ替わっていた?
もう一度、馬車の男性を見た。
アーゼルト、いや、本物のレスキュート男爵が、こちらに手を振っている。
「最初に申し上げたはずです、男爵はトリック男爵だと」
ということは、私がいただいたキスは、結局、男爵の唇ではなく、執事のキスだったってこと。
「お城にいた時、エミリア様の本当の心は、執事のアーゼルトを求めていたと思います」
確かに、アーゼルトの肌に触れることも多くて、怖かった時も助けてくれたり、
気持ちはアーゼルトに流れていた。
もっと、素直になれていたら……。
あの時、試験の合格なんて考えず、アーゼルトを選んでいたら……私の手には本物の男爵のキスが残ったのかもしれない。
試験の結果が出た今となっては、本物の男爵との関係もなくなった。
ホテルでゆっくり、頭の中を整理しよう。
そして、家に帰った。
大学に登校する。
また、単位が取れなかった。
私は、大学のキャンパスを歩いていた。
スケートボードの音がする。
振り向いた。
あの男性……。
「どう、異国の恋愛体験は?」
声をかけてきた。
ナンパ男だ。
笑っている。
「僕は、テリウス」
「あっ、白い鳩」
私は、校舎の上空を指さした。
上を向くテリウス。
ささっとその場を離れた。
名前は、テリウスか……ダメ、知らない男は……振り払った。忘れよう。