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からかわれているのだろうか?

異国から来た女を、弄んで楽しむ……悪趣味!!


でも、怒れない。自分の意思でここに来たのだし、結局は単位を取るためだから。


男爵と庭園を歩いた。綺麗な花で彩られている。

蝶が、花から花へ蜜を求めて飛び回っていた。


男爵の少し後ろを歩いた。

遊びとはいえ、精神への負担が大きいのは確か。

少し不機嫌になってしまった。

「昨夜は眠れた?」

男爵の言葉。

「ええ」

作り笑いしかできない。

「怒っている?」

「いえ」

男爵は私の顔を覗き込んだ。

「疲れる? 僕といると……」

「そんなことは……」

見つめられて、こんな質問に、きっと、私の顔は戸惑っているはず。


「君は遊び好きの僕より、アーゼルトが気になるのでは?」

これもトリック???


言葉が出ない。


「アーゼルトに気が向いているのではと思ってね」


それは……。

「短い時間の中で、アーゼールとも……」

「え?!」

「アーゼルトの気持ちを確かめたことは?」


私は首を横に振った。


「ここからは君が決めることだ。僕とアーゼールとどちらを選ぶのか」


どうしよう~男爵が嘘を言っていないとしたら、二人を愛し、愛されるされていることに?


「これから来客があるので今日はこれで」

と言って、薔薇に似た異国の花を私にくれた。



ティールームにいた。

試験のためにテーマモデルとの恋愛を体験しに来たつもり。

本当の愛……偽りの愛……その狭間に迷い込んだ感じで……。

いつしか、予想外の展開になるとは……。


私の本当の気持ちって??


ぼんやりしてしまった。

「マロンケーキでもいかがですか?」

アーゼルトがそばにきて、膝をついた。

斜め下から見つめられてしまう。瞳に映る私……。

近距離は初めてではないのに、意識してしまう。

テーブルには、すでにフルーツケーキがのっている。

「いえ、こちらで十分」

「かしこまりました」

アーゼルトは立ち上がった。



一人の部屋。窓から見える月。

ギンロウの鳴き声がする。

今は、気にならなくなった。

私はどうしたらいいのだろう?

男爵のキスをもらうために来たのに。

単位取得を目指すなら、二股の恋なんてするべきじゃない。


でも、何度も障害にあって、アーゼルトに助けてもらった。

私の好きは……本当は……。



もう、帰国の期限が迫っている。


私が告白をしなければ、男爵は手にキスをしないだろう。

試験で訪れたと知っていても、男爵にはプライドがあるはず。

私の合格のためだけに、情けでキスをするとは思えないし、私だって、それを望んでいいのか……。


気になる男性がいても、目的のためなら、他の男性に愛を告げる。

現世の私なら、もう少し気楽に考えて行動していただろうけど。

異世界の空気に染まって、私にも変化があるみたいで……。

どうしよう……迷う……。


サラサと二人、朝日を浴びた。

テーブルには、二人分の朝食が用意されている。

昨日、アーゼルトに許可をもらって用意させたものだった。

「これは?」

サラサは不思議に思っている。

「座って」

「でも……」

「最後の晩餐……いえ、ただの朝食だから、気軽に……一緒に食べて」

サラサは、テーブルに座った。

ティーのほのかな煙と香り。とろけるバターの風味……焼きたての玉子料理。

「今までありがとう。色々お世話になったから、これはお礼のつもり」

「エミリア様……」

サラサの瞳は美しく潤んでいた。



城の正門では、車が停車している。

アーゼルトと運転手が雑談を交わしている。

使用人が私の荷物を運んで来た。


私は、上階からその様子を眺めた後、自分の手の甲を見た。肉眼ではわからないが、薬剤が塗り込まれている。

一度、目を閉じた。

心を落ち着かせて、庭園で待つ男爵のもとに向かった。



噴水が溢れ、小さく虹を作る。

「お世話になりました。とても楽しい毎日でした」

「有意義でしたか?」

「はい、びっくりすることも多くて」


「それで、二人の男性とつながる糸、君の心はどちらの糸を切るのか、引き寄せるのか?」

「悩みがないと言ったら噓になりますが……やはり、私の心は、レスキュート男爵を求めています」

「いいのかい? 僕を選んでも」

「この経験が疑似恋愛ではなく、運命の出会いであったらなら、私は男爵のもとに残ったでしょう」

深く瞳が重なる瞬間だった。

「では僕を好きになってくれたお礼に」

男爵は、私の手の甲にキスをしてくれた。



「エミリア様、お元気で」

使用人たちが一斉に手を振ってくれた。

ありがとう、みんな……。


駅に向かう車内、アーゼルトはずっと黙っていた。


そして、汽車に乗る時だけ、

「お元気で」

「ありがとう」

会話を交わした。



窓から見る景色が移り変わる。

なぜだろう、涙がでた。

アーゼルト……目と閉じると、その顔が浮かんだ。

ごめんなさい。私は……嘘を……かもしれない。



大学に戻った私は、ジュリアーニ教授に結果を報告した。


研究室で、手の甲に光線を当てると、キスマークが浮き出る。

テーマモデルのキスをゲットで、合格、単位取得の流れだ。

検査や照合に時間がかかるので、結果は郵送で送られることになった。



部屋で待つ私。久しぶりに大家のレゼッタさん料理を食べられた。


大学から郵送で結果が送られてきた。

封筒を開けた。

今回は自信がある。合格だ。


の、はずが???


え!?


なに???


通知書の文字を見て驚いた。

“不合格”……って、まさか???



私は大学に向かった。

キャンバスを全速で走った。


ジュリアーニ教授に通知書を差し出して詰め寄る。

「不合格って、どういう?」

教授は冷静に言った。

「厳正に検査した結果、テーマモデルのキスではなかった」

そんな……レスキュート男爵のキスではなかったって。

確かに、男爵のキスをこの手にいただいたはず。


落ち込む私に、教授はトラットトラムの建国式があるので行ってみることをすすめた。

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