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夜の訪れ、やはり異国の地、一人の夜は淋しい。
ウォォ
「なに!!?」
鳴き声のような?
ウォォォォ 獣のような……。
結構、近くに感じる。
なんか、怖い……。
布団中に潜り込んだ。
キャァァー
突然、異国の獣が、部屋の中に!!
牙をむく獣。
ギャァァーー
もうだめ。
目を覚ました。
夢だった。
ウォォ
この鳴き声は本物だ。
もう一度、布団をかぶって眠った。
翌朝、快晴。
着替えのため、サラサが部屋に来た。
「よく眠れましたか?」
「なんか、動物のうめき声のような声が」
「ああ、それでしたら銀狼です」
やっぱり、狼なんだ。
「城の中では、放し飼いになっています」
「そ、そんな、噛みつかれたりとかしないの?」
「囲まれている場所にいますから、心配はないと思います」
「思いますって……」
気をつけるしかないか。相手はトリック男爵だもの。どんなマジック、トリックで歓迎されるのか……背筋がゾクッとした。
メイドが食事を用意している。
ホテルのルームサービスみたい。
じっとみてしまう。
「私は女性です」
笑っていた。
レスキュート男爵が場内を案内してくれた。
城の中に湖があるなんて、スケールが違う。
白鳥が浮かんでいた。
「昨夜はよく眠れましたか?」
「は、はい」
そう返事をしておいた。
時々すれ違う使用人。
笑顔で挨拶してくれる。男爵の人柄もわかる気がする。
このまま恋が芽生えるのかしら?
横顔を見た。
少し憂いを感じさせる。
「あの~?」
「ん?」
「男爵のご両親は?」
少しの時が流れた。
「すみません。なにから話したらいいのかと思って」
「父も母も亡くなっている。僕に、この城を残して」
話題を変えたほうが……。
「母は料理が上手でね。使用人と一緒によくシチューとか作ってくれた」
「素敵なお母様」
「そうだ!! 父と遊んだ秘密の場所があるんだ」
「秘密?」
「いこう!!」
男爵は私の手を握った。
初めての温もりとともに、私たちは歩き出した。
草木の中を通り抜けた。なんて広い敷地なんだろうと思う。
石でできた壁の前に来た。
入口になっていて、ほのかに明かりが見える。
「いこうか」
男爵は中に導いた。
石でできたトンネル。壁には松明がついていて明るくなっているけど、不気味だ。
どこへ?
男爵の背中についていくしかない。
「これは僕の祖父が父のために作った迷路なんだ」
「迷路?」
「そう子供が遊ぶための迷路」
ウォォォ
「なに!!」
「銀狼の声だよ。時々迷い込むんだ」
迷い込むって……大体、狼を放し飼いにするって、異世界の人は何を考えているのか。
しかし、途中道が分かれていて、迷子になったらと思うとゾクッとする。
「あそこが約束の地」
「約束の地?」
神棚のようなものがある。
「迷路といっても子供のために作ったから、ほぼまっすぐに歩いたら迷うこともないさ」
いえいえ、ここまで十分迷いそうだった。
神棚に宝箱が置いてある。
「これは?」
「開けてみて」
「いいんですか?」
「うん」
まさか、すごいお宝が……。
少しワクワクする。
箱を開けた。
光が反射して眩しい。
箱の蓋には鏡、そして中には水晶棒が入っていた。
「水晶ですか?」
男爵は、水晶棒を握った。
「ここには母と一緒に来ていたんだ。そして、僕が病気になると母がこの水晶棒を持って来てくれて僕に握らせた」
「どうなるんですか?」
「不思議なことにこの水晶は、病気を治す効果があるんだ」
私も触ってみた。
手に気が集まる感じ?
男爵から手渡され握ってみた。
段々、体が熱くなっていくような……その後のすっきり感はなに??
「魔法のような力で、僕の病気はすぐによくなった」
男爵は水晶棒を宝箱に仕舞った。
「思い出の多いこの場所だから、約束の地」
なんか、男性の無邪気な一面を見たような気がした。