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辺境のシンデレラはドレスよりも叙勲を望む

シンデレラのお話に疑問を持つ女の子の話。

昔むかし、あるところに不幸な貴族の女の子がいました。女の子は毎日、突然やってきた継母とその娘にいじめられていました。

ある日、お城でのパーティーに連れて行ってもらえなかった女の子は、魔法使いの協力でパーティーに参加、王子様と恋に落ちました。

パーティーでの落とし物をきっかけに再会した王子様と女の子は結婚して幸せに暮らしました。



―――――――これがこの国で一番有名な物語。

だが、私はこの話が嫌いだ。





私は、シャンディ・エール。

物語のモデルとなったらしいこの王国で、エール辺境伯代理をしている。しかも、物語と同じように母を早くに亡くしたうえ、後妻の女が連れ子付きで押しかけてきた。


だからこそ、この物語に物申したい。何故わざわざ不幸を背負うのかと。貴族のほとんどは邸宅を王都と領地それぞれに持っているものである。王都にしか家がない下位貴族なら、上位貴族の家に行儀見習いに行く方法だってある。要するに、いじめられるならその環境からさっさと離れるべきだと思うのだ。


ちなみに私は社交が苦手だし、義姉のサンドバッグになる趣味もなかったので、辺境の屋敷で領民とともに過ごしている。妹いびりする気満々だった義姉は不満そうだったが、義母は支持してくれた。その結果、義母が社交、私が領地管理、父は王都の公務と私への領主教育という役割分担ができた。


状況が変わったのは昨年父が亡くなった頃だ。王都にいる二人の浪費が目立つようになったのだ。義姉がもとより浪費家だったが、義母もまた父を亡くした心の隙間を埋めようとしたらしい。私は節約のため、再就職先を手配した上で、使用人を必要最低限に抑え、屋敷裏にある森に定期的に湧く魔物を自ら討伐した報酬を補填することで、領民へ余分に税金を取ることなく遣り繰りした。



そんなある日、一通の手紙が私の将来を変えることになる。


それは義母からの手紙で、近日王都で武闘会が開かれて、優勝者には多額の報酬がもらえるとあった。何故筆跡が義姉の汚い字のものなのか気になったが、もし本当に開催されるならぜひ参加したい。一番の相棒は弓だが、父と特訓した体術もできる方だ。お金があれば今年度の領民のお祭りもグレードアップできる。しかし、辺境から王都までは馬車で5日はかかる。早馬でも2日かかることを考えると、受付に間に合わないだろう。そうため息をついた時だった。




「呼ばれてとびでてよっこらしょい!そこのお困りのお嬢さん!私がお助けいたしましょい!」


目の前に急に謎の騒がしい女の子が現れた。

  はなしをきく

 ▶たたかう

  なかまにする

  にげる

「ちょっ、ちょおっっと待った!何その選択肢!ここは話を聞く一択でしょ!?何でファイティングポーズ!?私戦闘できないタイプの魔女なのよぅ。」

「いや、人の家の敷地に勝手に入ったらダメでしょ。そこらの幼子でも知っているし、この辺それなりに魔物出るし(昨日間引いたからしばらくは出ないが)。」

「はぁっ!?ここ魔物でんの!?なにそれ無理それもう帰りたい・・・。でも試験はクリアしたい…。ねぇお嬢さん、“舞踏会”出たいんでしょう?」

「ええ。でも“武闘会”の装備もまだ準備できてないからなぁ。」

「装備…?まぁいいか。私ミモザ!いま魔女昇格試験の真っ最中なの!“舞踏会”に行きたい女の子をサポートして幸せにするのが課題!ぜひあなたのお手伝いをさせて!」

「女の子のサポート…?“武闘会”って女子の大会なの?」

「…?“舞踏会”って女の子がメインでしょう?この国じゃお見合い会の側面があるし。」

「へっ!?“武闘会”って戦士同士の戦いのことでしょう?」

「はい!?7日後にあるのは王宮主催の王子の婚約者を決める“舞踏会”ですよう!私たちの課題は『様々な理由で舞踏会に行けない女の子を幸せにする』なのです。諦めモードなため息に呼応して転移される仕組みで、」

「王宮主催!?王都にいる貴族は参加必須の舞踏会じゃん!ドレスの用意もないし戦闘装備でなんて行ったらいい笑いものじゃん。あの義姉嫌がらせの為に手紙書いたのか!腹立たしい!」

「それじゃあ尚更私がドレスを用意しますよ!元々そのために来たんだし!ね!」

「いや、私社交はうんざりだし、結婚もまだしばらく勘弁なんだけど…」

「お願い!私昇格試験2回も落ちてて、今回がラストチャンスかもなの!一生半端者とか嫌なのよおぉぅ!!」

「わ、わかったよ…。で、どうするの?」

「やったー!!ありがとう!じゃあせっかくだし女の子の憧れの物語になぞらえて用意していこー!あの立派なかぼちゃ使っていい?」

「げっ…(あの物語嫌いなんだけど!)そのかぼちゃはお祭り用に育てたやつだから小ぶりのやつにして」

「了解!ホーカスポーカスぽーい!」  ぼふん

「…多分かぼちゃの馬車的なものを出そうとしてくれたんでしょうけど…あれ、りんごですよね?しかもなんかまがまがしいような…。」

「うげっ!(あれは前回の試験で必要だった毒リンゴじゃん!)いやぁ、見習いは人前で魔法使うことがないから緊張しちゃってアハハ…。とりあえずこれは私のポケットに入れといて…。次、馬用意しよう!ネズミの友達います?」

「いや、ねずみは友達じゃないし。先日領民と共用の備蓄倉庫を荒らしてたもんで、私のバディが全部退治しました。」

「えぇぇ…。じゃ、じゃあそのバディを馬にしよう!ホーカスポーカスぽーい。」  ぼふん

「…なんか馬車ひくにしてはいかつくない?1頭しかいないし。」

「犬1匹しかいないから頭数はしょうがない!あれ?でも、これって『赤兎馬』とかいう馬かも。速いし強いやつ…。つ、次はドレスだね!やっぱりドレスは今流行りのものがいいよね!ホーカスポーカスぽーい。」 ぼふん

「最先端の軽くて丈夫な防具ね。私の使っているものは父上のお古だから、自分のサイズぴったりなんてはじめてだわ。すごく動きやすくていいね!でも、なんかさっきから舞踏会に関係ないものばっかり出るね。もしかしてミモザ…ポンコツ魔女?」

「ち、違うもん!私のせいじゃなくて、今回の試練の魔法はあなたの心理状態に左右されるものなの!あなた誰かと戦う気!?」

「戦いたいというより…。あの物語が嫌い。あと、やっぱり舞踏会には行きたくない。義姉殴りたい。」

「え、」

「私さ、変だと思ってるの。男だとか女だとかで親に将来決められるの。父上は私に領主教育してくれたけど、たぶん内向きを私にやらせて武に強い婿取る予定だったんだと思うの。この地区は魔物も多いから武器の扱いも教わったけど、弓とか護身体術だけだし。でも、出来ることなら私自身が領主としてこの地を守っていきたい。たとえそれが苦難の道だろうと。」

「そっか…。ちなみに舞踏会で婿探すのと、魔物倒して名をあげるの、あなたはどちらが幸せ?」

「その2択なら魔物を倒したいな。」

「そうだよね。…よしっ!そのためのサポートさせていただきます!」

「えっ!?でもそれじゃミモザが試験に通らないじゃない!」

「いいのいいの!どのみち無理矢理に舞踏会出てもらってもあなたが幸せにならないんじゃ意味ないし!それだったらあなたの夢を手伝う方が、私は後悔しないもん。」

「…ありがとう。」

「いえいえ!じゃああなたの弓に狙ったところに当たりやすくなるまじないをかけて。矢は普通のものを何本かと、思いの強さで威力が変わる矢を一本つけとくね!あとおまけに鏡もつけちゃう。」

「え、何で鏡?」

「ふっふっふ。これはただの鏡じゃなくて、魔法の鏡!これに『くっくー』って話しかけると、質問に答えてくれるよ!それと、王都近くの森で最近強い魔物が出たらしいの。問題解決出来たら、王様に会えるだろうし、褒美としてあなたの願いかなえてくれるかも!」

「へぇ!ありがとう!ところで、王都の周りって森ばかりだと思うんだけど、どこにいけばいいかな?」

「そ、それは…私はうわさを聞いただけだし、そっそれこそ鏡に聞いてみたら?」

「なるほど(やっぱりポンコツかも)えっと『くっくー 最近王都に出る魔物について教えて』」

―はい。最近王都に現れる魔物は『ジェボーダンの獣』と呼ばれていますが、強いという情報以外詳細は不明です。ここから王都に向かって馬車で3日程の場所にある森で冒険者の消息不明が相次いでいることから、出没ポイントはここであると推測されます。その馬なら半日で行けるでしょう。





バディは本当に速かった。いつもなら宿に泊まりながらの行程を本当に半日でこなしてしまった。ただ、流石に魔法が切れたようで、今はいつもの姿に戻っている。


目的地の森は近くに町がなく、旅人の休憩所があるだけの人気のない場所だった。まだアフタヌーンティータイムのはずなのにうす暗くて不気味な雰囲気である。

でも辺境で魔物狩りをしている私にとっては逃げ出す程のものじゃない。慎重にかつ確実に前へ進むと、怪しげな塔を発見した。塔の周りはほどほどに開けていて、近くに水源もあったので、明るいうちに野営の準備を始めた。




すると、突然頭上から声をかけられた。

「おい、お前。何でこんなところに一人でいるんだ。早く出ていけ。」

顔をあげてみると、塔に一つだけある窓の側に何かいるようだ。

「わたしは、ジェボーダンの獣を倒すために来た者だ。申し訳ないが、ここに活動拠点を置かせてもらえないか?」

「ジェボーダンなんて名の魔物はこの森にはいない。この森は夜危険になるのだ。早く出ていけ。」

「夜危険ならなぜ貴方はこの森にいるんだ?」

「お前には関係ない。早く出ていけ。」

こちらの目的を説明したのに早く出ていけとしか言わない。姿の見えない何者かが、シャンディにはどうも気になった。


「わたしは地元で魔物狩りしているから、森歩きには慣れている。その上で貴方が夜危ないという理由が知りたい。」

「今はまだ日が沈んでいないから通常の魔物しかいないが、日が沈めば、恐ろしい強さの魔物が出るんだ。お前はおそらく勝てないだろう。」

「日が沈めば、か・・・。その塔の中は安全なのか?」

「安全ではないな。だから早く出ていけ。」

「ちなみに貴方はその魔物を見たことがあるのか?」

「あるともいえるし、ないともいえる。」

「なんだか要領を得ない話だな。貴方は何かを隠してないか?わたしはその魔物を倒したい。何か知っているのなら教えてほしい。」

「…一つ問いたい。なぜそこまでお前は魔物を倒すことに拘る。女なら安全なところで大人しくしているものじゃないのか。」

「わたしは、女だからといってその役割に縛られたくはない。未来を自分で切り開くためにはまず自分が動かねば!その一歩として、この森の魔物を倒し、国王陛下に謁見する機会が欲しいんだ。」

「そうか…、お前、いや貴女には自分の未来を自分でつかむための強い意志と力があるんだな。そういうことなら教えてやろう。魔物の正体はこの俺だ。元は人間だったが、姿を狼に変えられている。日が暮れると人を襲うようだ。」

「どういうことだ?なぜ自分のことなのに曖昧なんだ?」

「日が暮れると、なぜか意識がなくなるからだ。この呪いをかけた魔女曰く、夜は本能のままに動くらしい。覚えてはいないが、朝起きたら、この窓の下に争った跡があるのを見つけたことがある。」

「じゃあなぜ今はそこから動かないんだ?」

「この塔には夜まで内側から自力で出ることができない魔法がかかっているんだ。」

「内側からか…、ならば今わたしが下の扉を開ければ貴方は出られるんだな。」

「いいのか?今俺は人ではない姿だ。しかも貴女を見て襲い掛かるかもしれんぞ。」

「大丈夫だ。まだ日が沈む時間ではないし、こちらには頼もしいバディがいる。私も後れを取るつもりはないさ。」



塔に一つだけある扉はあっけなく開いた。変な音がした気もしたが、開いた直後、銀の狼が出てきたが、すぐ近くの茂みに隠れてしまった。わたしは短剣を構えつつ、その茂みに話しかけた。

「どうだ?まだ不安か?なぜそんな風に隠れたんだ。」

「いや、どうやら理性が本能に負けるようなことはなさそうだ。ただ、俺の姿は他人から見れば恐ろしいものだからな。必要外に怖がらせることもないだろう。それに俺は、惚れた相手には余計に怖がらせたくないんだ。」

「そうか、あなたは他人を気遣う優しさがあるんだな。そんなあなたに好かれるとは光栄だ。しかしちょっと頼みたいことがあるから出てきてほしい。そういえばまだ名を聞いていなかったし、名乗っていなかったな。わたしはシャンディ。辺境伯代理をしている。」

「わかった。俺はギムレット。この国の第二王子だ。」

シャンディが名乗ると、白銀の狼もといギムレットが茂みから出てきた。


「第二王子?確かこの国の王子はトニック殿下一人だったはず。」

「そうだな。王妃の子はトニックだけだ。俺は側室の子なんだ。」

「そんな貴きお方がなぜこのようなことに?」

「王妃メデスは魔女なんだ。どうやったか、あの女はいつの間にか王妃になり、側室に落した俺の母を毒殺し、俺に呪いをかけてここに閉じ込めた。」

「国王はそのことを知っているの?」

「知らないと思う。元々母は体が弱かったし、俺のことは後継争いにならないよう、貴族の養子にして隠したと説明すると言っていたからな。自分の子に王位を継がせて裏で実権を握るために俺が邪魔だったんだと。」

「なんてこと…。なら呪いを解いてそれを国王に聞いてもらわないと!」

「しかし、俺は呪いの正体は知っていても、解き方はわからんぞ。」

「それなら大丈夫。くっくー ギムレット殿下にかけられた呪いの詳細と解き方を教えて。」

そう言って、私は狼に鏡を向けた。

―はい。こちらの男性には、心が折れると完全に狼になる呪いと日が沈むと眠ってしまう呪いがかけられています。呪いをかけた相手を敗北させることが呪いを解くカギになります。

「えっ!?呪いが二つ?じゃあここで消えた人やケガした人は誰がやったの?」

―恐らく呪いをかけた者でしょう。心を病んだ王子を完全な狼にして存在を消すために。



「あらぁ?塔のロックが強制解除されたから来てみれば、お客さんかしら。」

突然背後から声がした。振り返ると、妖艶な雰囲気の美女が立っていた。王妃メデスだ。

「せっかくもう少しで呪いは完成しそうだったのに台無しじゃない。塔の目撃者もわざわざ消して、人が近づかないようにうわさも流したのに…。こうなったら、お前たちを消さねば。私の野望の為に。」


そういうと、メデスの姿が徐々に大きくなっていった。そして、禍々しい大蛇に変化した。わたしは咄嗟に持っていた短剣を大蛇めがけて投げた。思ったよりも固いうろこに阻まれて短剣は跳ね返ったが、運よく鼻先に当たったために大蛇はひるんだ。その間に私たちは茂みに隠れた。




「くっくー! あの化け物を倒したい!何かいい方法はないか!?」

―はい。あの魔物はバジリスク。大きい体で獲物を絞め殺すほか、あの目でにらんだ相手を石化させる能力があります。ただし、石化能力は己自身も対象になるので、反射率の高いわたしを盾に戦い、思いが反映される矢で刺せば、無力化することも可能でしょう。


「了解!あの女は殺さず、しっかりと罪を償ってもらおう。」

「ならば俺が奴の気をひこう。この姿なら素早いし、貴女の獲物が弓矢なら距離を取った方が狙いやすそうだ!鏡を貸してもらえるか。」


ギムレットは鏡を咥えると、メデスの周りを素早く走り回った。メデスも鏡に気づいて何とかギムレットを捕まえようとするが、なかなかうまくいかない。メデスの気がギムレットに向いている中、わたしは狙いを定め、矢に『魔女を元の姿に戻し、無力化するよう』思いを込めた。とうとうしびれを切らしたメデスがギムレットをにらみつけた瞬間、彼のもつ鏡はその攻撃をしっかり反射した。動かなくなったメデスに私は矢を放った。蛇の鎌首に刺さった矢はメデスをもとの姿に戻し、そのまま拘束した。



安全が確認できたところで、ギムレットの駆け寄ると、突然ギムレットが激しく光りだした。光はすぐ収まったが、そこにいたのは狼ではなく、鏡を持った銀髪の男性であった。


「もしかして、ギムレットか?呪いが解けたのか!?」

「ああ、そのようだ。ありがとう、貴女のおかげで元に戻れた。メデスのこともあるし、一度俺は城に戻ろうと思う。あなたもついてきてくれないか?きっと悪いようにはしないから。」



数日後、シャンディとギムレットが城につくと、ちょうどミモザが言っていた舞踏会が行われている最中だった。ギムレットが事前に連絡を入れてくれたおかげで、会場に入ることなく国王に会えることになった。応接室でギムレットから事の顛末を聞いた国王は頭を抱えた。


「側室がよく体調を崩しておったが、まさか王妃が暗躍しておったとは…。お前の存在もどこかの貴族に預けてあると言って子細を隠しておったのだ。後継争いの種にならんよう深く聞かなかったことを後悔しておる。」

「いえ、父上のそれは仕方ないかと。後継争いで国が傾くのはよくある歴史の一つ。それを避けたいと思うのは私も同じです。だが、メデスのやったことを私は許せない。」

「そうだな。しかし、今回のことを世間に公開はできぬ。最悪の場合国が荒れるだろう。メデスは魔封じの塔に幽閉ということになる。」

「はい。わかっております。メデスがこれ以上悪行をしなければいい。それにトニックは聡いと聞いております。私自身国政には向いておりませんので、それで構いません。」

「そうか…トニックはまぁうむ…。そなたには、苦労を掛けてすまんの。代わりに何か願いがあれば聞こう。」

そこで、ギムレットはこちらをちらりと見た。私がきょとんと視線の意味を考えていると、徐にギムレットは言い放った。

「それでは、今回の功労者であるシャンディ・エール嬢へ正式に辺境伯を継ぐ許可を。そして彼女の元へ私が婿入りすることを許していただければと。」

「女性伯だと?しかし我が国には前例がないぞ。お前が後継ではいけないのか?」

「私としては今回の件、女性の意見がなかなか通らない今の状況が起こしたのではとも思っているのです。それに、彼女は前辺境伯が亡くなった後からの実績がある。よそ者の私が継ぐよりもきっといい結果になると思います。」

「そうなのか。シャンディ・エール嬢、何かあれば発言を許そう。」

話が予想外の方向に進み、びっくりしているうちに、国王に話をふられ、わたしは焦った。

「は、はい!わ、私の望みは領地の発展と国の繁栄です。あの、そ、その伯爵位をいただけるとは望外の喜びに御座います!」

「そうか、前エール伯には何かと世話になったからの。そなたともよき関係でいたい。では、これから叙任式の段取りを立てなくてはの。」




「よかったの?王位を継がなくて。」

わたしが聞くとギムレットはすっきりした顔をして答えた。

「いいんだよ。俺はサポート向きだから、トップなんて無理。それよりもシャンディ・エール嬢の夢がかなう方が、嬉しい。もちろん、婿入りは王には進言したが、あなたが嫌なら無理強いはしない。」

「そっか…。その、実はとても嬉しかった。私の目標を笑わず応援してくれて。そんな貴方だからこそ、一緒にいたい。燃えるような想いではないけれど、わたしはギムレットをお慕いしています。」


「ありがとう!燃える想いよりもお互いを思いやれたらその方が素敵だ。改めて、シャンディ、私と結婚してほしい。」

「はい!こちらこそよろしくお願い致します。」




それから後、わたしは正式にエール辺境伯となった。そして、ギムレットとともに辺境の地を交易の要として発展させた。その分、領主として忙しいわたしは必要外に王都には行っていない。ギムレットはたまに王都でトニック殿下の手伝いをしている。王太子となったトニック殿下は、政務能力が高いらしく、王都に目立つ混乱はない。しかし、件のパーティーで羽目を外し過ぎたらしく、妃選びは難航しているらしい。


魔女ミモザは、わたしの件で無事合格したらしい。正式に辺境伯を継いだ時、お祝いに『自動で掃除する箒』をもらったが、掃除するたびに何かを壊すので、ギムレットがいた塔に置いている。





こうして、夢をかなえたシャンディは、一番の味方ギムレットとお互い支えあい、仲睦まじく、幸せに暮らしましたとさ。


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