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『怠惰』への考察

 俺達が使わせてもらっている客室に女帝を招き、対面する形でソファーに座っていた。

 この場には俺とユウ以外のみんなも揃っており、それぞれ好きに過ごしながら話を聞く姿勢を作っている。

 ちなみに女帝は簡素な囚人用の服からメイド服に着替えさせている。


「この私が給仕する側の服を着る事になるとはな」

「それが敗者ってやつだ。勝者側の要求に断る権利すら与えられない。で、お前の状態はよく分かったか」

「ああ。口で言われてもよく分からなかったが、今はよく分かる気がする」

「……ねぇ。2人だけで分かった感じで言わないでよ。私達にも分かるように説明して」


 隣に座るユウはそう言いながら俺の肩をゆする。

 ちなみに俺の膝の上にはレナが狼の姿で唸り声をあげながら女帝を威嚇している。

 レナが勝手に女帝を襲わないようにするためだ。

 だが今女帝を殺すのはおそらく良くない。

 今後の活動にかかわる重要な情報を握っている。


「女帝。こいつらにも話していいな」

「好きにすればいい」


 女帝はそっけなくそう言いながら紅茶を飲むので俺は簡単に言う。


「この女帝もポラリスからすればただの駒の1人でしかなかったらしい。こいつには隷属されていた」

「隷属ってポラリスの上層部が?それに隷属ってナナシがしたんでしょ?」

「俺が隷属化させる前から隷属させられていたことが判明した」


 俺がそう言うとほんの少しだけ動揺が走った。

 1番反応したのはジラントだ。


「その女ポラリスの中でもかなりの上役なんでしょ?それを隷属化させるってまさかユウと同じように支配されていたって事?」

「それは違う。確かにユウも支配されていたが女帝の場合はもっと分かりやすいよ。女帝を隷属化させていたのはおそらく敵側の『怠惰』だ」


 大罪スキルの1つである『怠惰』の一言が出ると緊張が走る。

 ジラントはそのまま続けてと視線を送る。


「女帝。確認するがその腕輪は法王からもらったんだよな」

「その通りだ。私が『切り札(カード)』の一員になった際に法王猊下からいただいたものだ。肌身離さず身に付けていろと言われていた。それにその腕輪は確かに魔法が付与された素晴らしいアイテムだ」

「それが巧妙に隠されていたんだよ。おそらく腕輪そのものに付与されているのは隷属化だけ、そこから『怠惰』の所有者が知られないようにこっそり能力を引き上げていたんだろう。客観的に見ればただの汎用性の高い腕輪だが、よくもまぁこんな面倒な事をしたもんだ」


『怠惰』による能力向上効果は所有者の状態によって大きく変わる。

 改めて『怠惰』について説明すると行動によって効果が大きく変わるタイプのスキルだ。

 まず自分のステータスを半減する代わりに仲間、もしくは所有している奴隷のステータスを2倍にする効果がある。

 だがこれはあくまでも基本的な物であり、自身の状態を変化させるとさらに効果は変わる。


 基本的な状態さは先ほど言った自身のステータスを半減して仲間のステータスを2倍にするだが、様々な行動を他社に任せるとさらに効果は上がる。

 その代わり自分自身のステータスはどんどん下がり、最終的にどうなるのか実験したことがない。

 ただ理解できているのは食事や運動と言った生活に必須な行為すら他者に任せるほどに味方のステータスは上がる。

 それからこの『怠惰』をどれだけ長い時間使用しているのかによっても大きくステータスは変わっていく。

 俺は性に合わない事から長時間使ったことはないが、長時間使い続けた場合どうなるのか分からない。


 まぁ色々言ったが、簡単に言えば自身のステータスが低くなる代わりに隷属化している者達のステータスを上げると言う感じだ。


「まぁもっと面倒なことあるんだけど」

「もっと?『怠惰』の効果を聞く限り十分厄介なスキルだと思うんだけど」


 ユウがそう言った。

 だが『怠惰』の真骨頂と言う物がある。

 それこそが本当に厄介だと思っている点だ。


「ユウ。一応お前は俺によって隷属化されている、その事は前に話したな」

「うん。というか一応みんな隷属化されてるんだよね?」

「そうだ。そうする事で俺が管理しやすいんだよ。色々な」

「色々?それをポラリス側の『怠惰』が使用しているから面倒なの?」

「そうだ。俺が面倒だと思っている最大の点は、隷属化している存在との情報共有、そして洗脳だ」


 情報共有と言うと難しく感じるかもしれないが、簡単に言えば親機と子機だ。

 親機、『怠惰』使用者は隷属化されている存在、子機がどこで何をしているのかいつでも知る事が出来る。

 現代風に言うなら誰もが持っているスマホから誰がどこでどのような行動をしていたのか、という情報をいつでも取得、共有する事が出来る。

 だからこの会話も普通であれば女帝の耳と目から俺達に対する情報を常に入手する事が可能だ。


そして洗脳。

これに関しては俺も当たり前のように使っている。

その正体は隷属化させたときに使っている『命令』だ。

この命令は精神的にもかなり侵食しやすく、R18Gのゲームなどに出てくるような調教、拷問のような物を使わずに簡単に行える。

女帝のように『精神異常無効』の様な強力な体勢がない限りあらがう事すら出来ない。

これは今現在メイド達に自由意思を持たせず、生きた人形のように扱っているのがいい例だろう。


他にも使い方として思考を制限したり、誘導する事も可能だ。

もっと極端な使い方をすれば洗脳してポラリスの事を敵視するように仕向ける事も出来るし、何の知性もないただ殺すだけの獣に変えることだって可能だ。


そして敵側の『怠惰』から奪った際に感じたことが1つある。

それこそが思考を誘導されているような感覚。

おそらく命令は『ポラリスへの絶対の忠誠心』、それから『神の言葉は絶対』と言うところだろうか。

これはあくまでも女帝の反応を見てそう感じただけなので確かな事は言えない。

だが俺にとっての平和を話した際に女帝が武器を捨てる事だと言っておきながら、獣人達を殺すことで平和を得ようとしているのは大きな矛盾だと思う。

明らかにそこだけ女帝の意思に反しているように感じた。


「なんて言えばいいのかな……例えば俺が『怠惰』を使っている間ユウ達がどこで何をしていたのか、何を見て何を聞いていたのか全て分かるんだよ」

「え!?それじゃこの話も全部筒抜けってこと!!」

「普通ならそうなるな」

「普通ならって……それに洗脳まであるんでしょ?私達も実は洗脳されてたりする?」

「その辺は特にしてねぇよ。それに関してはこちらで自由に設定できるからな。でもユウの場合は最初だけ洗脳してたぞ。俺を殺さないように命令してた」

「あ~……してたんだ。まぁ確かに今思えばちょっと変かも。でもそれって対策の取りようがないよね?」

「あるぞ。無自覚でも隷属化されているのであれば誰かのだ。つまり――」

「あ!『強欲』で奪う事が出来る!!」

「正解」


 つまり俺は誰かから女帝の隷属権を奪った事になる。

 しかしこれにも問題がある。


「と言っても隷属が解けたという事は向こうにバレてる。リンクが切れたんだからな。一応女帝には最後幻覚で女帝を殺したっという幻覚を見せてから『強欲』で奪った訳だが……これで死んだと思わせる事が出来たかどうか分からん」

「それじゃ仲間にするの?」

「いやしない。ポラリスに送り返して俺達のスパイにする。情報を分捕らせる」

「そんなことできるの?」

「とりあえずやらせる。もう俺の命令に逆らえないし」


 具体的に欲しい情報は『切り札(カード)』と言われている存在達だ。

 必ず俺達の障害になるし、少しでも情報を手に入れておきたい。

 そして1番欲しいのはそんな連中の情報を握っている誰か。

 法王自身なのか、それとも近くにいる誰かなのか、全く分からないが、1人だけ心当たりがある。


 俺が怪しいと思っているのは『ハーミット』だ。

 愛の国で襲われたとき、ハーミット様に命令されたっというのが気になる。

 ポラリスの暗部なのならこういった情報収集、そして奴隷を所有していても違和感がないのではないかと思う。

 まぁ唯一そう思えるポラリスの上層部がそいつしか思いつかないってだけだが。


 まずは消去法で1番怪しい奴を見つける。

 あとは時間が勝手に怪しい奴を見つけてくれるだろう。

 俺達の邪魔をしてくるのは間違いないのだから。


「それじゃ無理矢理この人にやらせるの?」

「そうだ。女帝、報酬は本当に要らないのか?」

「要らん。私が求めているのは貴様の首だけだ」

「だから他の物で手を打ちませんかって交渉してるんだろうが。大抵のものは与えられるぞ」

「もとより私は法王様の隣で法王様の事をお守りする事が出来ればいいのだ。他に求める物は特にない」

「そんじゃあれはどうよ?確か俺の金庫にしまってる絵……題名なんだっけ?」

「『神と始まりの信者の晩餐』ね」

「そうそう、それそれ」


 ジラントが教えてくれた。

 その絵のタイトルに即座に反応したのは女帝だ。


「な!?あの絵画はおよそ300年前に何者かによって破壊されたと聞いているぞ!!」

「なんだそれ?盗み出しはしたが壊しちゃいないぞ」


 当たり前の事を言うと女帝は頭を抱え込んだ。

 そして頭痛に耐えながら話すように口を開く。


「他に盗み出した物はないか」

「他?他はそうだな……なんか宝石とかがいっぱいついた杖とか、よく分かんない金色のでっかい盃、固まった血みたいなのが入った小瓶とか?」

「ま、まさか……聖遺物ではないだろうな!?」

「あ~……どうだったっけな……古臭いもんばっかりコレクションしてたからよく分からん。あ、でも小瓶は書いてあったから覚えてるぞ」

「一体なんだ!?」

「確か『聖ドルミネズの血』って書いてあった気がする」


 俺がそう言うと女帝はぶっ倒れた。

 たかが血の入った小瓶がどうしたと言うのだろうか?

 そう思っているとお宝解説役のジラントが言う。


「『聖ドルミネズの血』はポラリスの歴代法王の1人だったはず。その血を入れた小瓶ならポラリスならかなりのお宝でしょうね」

「なんか特別な効果のあるアイテムなのか?」

「全然。ただ法王の1人だった男の血が入ってるだけのただのビン」


 なんだやっぱり大したものじゃなかったんじゃん。

 そう思いながら後ろにいる奴隷メイド達に女帝をベッドまで運ぶよう命令したのだった。

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