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勇者と女帝

 ちょっと休憩感覚でユウに対人戦を叩きこんでいる間に拷問も行いながらユウの戦闘力が向上しているか確認している。

 まぁ奴隷メイド5人に殺されるつもりで襲わせ続けてきたので、それなりに向上している。

 案外殺される気になれば何でもできるのかもしれない。


「ほらユウ。死ぬ気でやれ、やれば出来る」

「この生活いつまで続くの!?」


 ユウはそう言いながらもなんだかんだで適応していっている。

 出来れば寝込みを襲わせたり、突然の暗殺などにも適応できるようにしていきたい。

 安全地帯だと思い込んでいるところでの襲撃は非常に防ぎにくい。

 むしろ安全だと思い込む時点で危険と言えなくもないが、それを最初から行えと言うのは酷だ。

 それに人間らしくしたいと思ったのは俺だ。俺の責任と言える。

 正直そんな風に育てると言うのであればであったばかりの状態の方がよっぽど都合がいい。

 だから暗殺に対応できるようにするっというのが正しい表現かもしれない。


「ほいそこまで。下がりな」


 メイド達に命令するとメイド達はすぐに俺の後ろで整列する。

 ユウは肩で息をしながらもすぐに呼吸が落ち着いた。


「ずいぶん対応できるようなったじゃないか」

「出来ないと本当に死ぬからやるしかないでしょ!多分何回か死んでると思うんだけど」

「そんな感じでやらせたからな。それよりもユウ。ちょっと付き合ってくれ」

「ん?なに?」


 そうユウを連れて行ったのは女帝がいる檻だ。

 最初こそ俺の魔法のせいで何もない檻の前で何をするのかと言う表情をしていたが、人が現れたことでさらに困惑する。


「ナナシ。この人は?」

「こいつはポラリスからお前を連れ戻しに来た侵入者だ。女帝と言う立場でポラリス上層部の人間みたいだ」


 俺がそう説明していると女帝がユウに視線を向けた。

 現在の女帝は最初に出会った頃よりもふっくらしている。

 こんな檻の中じゃろくに動くことは出来ないし、肉ばかり食わされているのだから自然な事だろう。

 だが飯に変な物を突っ込んではいないので俺から見れば健康的になったと俺は思う。

 女帝はユウに向かってポラリス式の最敬礼をしながら言った。


「恐れながら、我が名はコウネリウス・シュラク。ポラリス上層部、『切り札(カード)』の1人でございます。ご拝謁させていただき、ありがとうございます」

「え、えっと……こ、こんにちわ。シュラクさん」

「さんなどと勿体ない。呼び捨てにしてください」

「わ、分かった」


 ユウは困惑しながらも俺に視線を送って助けを求めてくる。

 俺は視線で好きにやれと顎で指す。


「んん。それじゃシュラク。どうして私に会いに来たの?」

「はい。勇者様は我がポラリスの至高の方、長い時間我が国を守ってきた敬意を払うべき方であり、今後も我らの未来にかかわる大切なお方を連れて帰るよう法王猊下の命を受け参りました」

「私を連れ戻してどうするの」

「詳しくは聞いておりません。ただ最終儀式、世界が完全な物にする際に行う儀式で勇者様のご協力が必須であると法王猊下はおっしゃっておりました」

「最終儀式……それはいつ行うの?」

「時期に関しては聞いておりません。ただ全ての準備が整い次第すぐに行うとのことです」


 最終儀式ね。

 本物の善の神を閉じ込めていた奴が行おうとしている儀式だ。どうせろくなもんじゃない。

 それにしても俺は無自覚にその最終儀式を邪魔していたようだ。

 ユウを取り戻すという事はユウの代役を行えそうな者は現在存在しないという事。

 勇者という称号を持っているものが必要なのか、それとも美徳スキルか、それとも俺が気が付いていない何かをユウが持っているのか、まだ分からない。

 これからはその最終儀式って奴にも気にしていくしかないか。


「最終儀式をした場合何がどうなるの?」

「法王猊下の神託によれば、我らの神が降臨し、世界を絶対の善に染め上げ、我らは幸福に生きる事が出来るとおっしゃっております」

「……それってどんな幸福?」

「それは分かりません。ですが神がもたらす幸福です。きっと美しい未来でしょう」


 ポラリス式の最敬礼は顔を下にしているので表情は見えないが、おそらく幸せな未来を想像して酔っているだろう。

 そしてユウは続けて聞く。


「それって獣人の人達も含まれるの?」

「え?」


 女帝は顔を上げてはいないが本当に予想外っという感情がよく伝わってくる一言だった。

 どうして勇者が獣人の事を気にかけるのだろう。そんな風に言っているように聞こえた。


「教えて。獣人の人達も含まれるの」

「含まれていないと思われます」

「どうして」

「ポラリスの教義では人とは人類の事。それ以外の種族は人ではなく獣だと教えられております」

「それは獣人さん達の事だけじゃなくてエルフも、ドワーフも、人魚も、ドラゴン達もそうなの」

「はい」


 話している間にユウが不機嫌になっている事を感じているのだろう。

 静かに女帝から汗が流れ落ちた。

 そんな女帝に対してユウはしゃがんですぐ近くで女帝によく聞こえるように言った。


「私は彼らの事の私と同じ人だと考えている。だからあなた達の目的に協力することは出来ない」


 はっきりとそう言った。

 頭を下げたまま女帝はユウに対して震えながら聞く。


「それは……何故」

「私はナナシと一緒に旅をした。その間にいろんな人種の人達に会ってきたけど、みんな私と、人間とそう変わらなかった。知性を持ち、理性を持ち、心を持つ私達人間と変わらない。喜び、悲しみ、楽しみ、怒る。そんなみんなの事を私は大好きだよ。だから、人間だけの世界を私は作る気はない。だから私はポラリスに戻らない」


 はっきりとユウはそう言った。

 しかし女帝は諦めない。


「しかし絶対正義を示すには勇者様のお力が必要なのです。本物の勇者が」


 本物?

 その言葉に俺は引っかかった。


 確かにこの世界では勇者と言う称号が珍しい事になっている理由を俺は勘違いしていたらしい。

 その理由は300年前と違い国が1つしかないからだ。

 300年前は各国に必ず1人は勇者がいた。

 勇者に選ばれる理由や条件は国によって違ったが、1つの国に必ず1人はいた。

 その理由は国の力を見せつけるためだ。


 大抵の国では勇者とは最強の称号。

 称号では『〇〇国の勇者』と言う称号で表示されていた。

 それは国に認められた勇者と言う意味であり、国がその者を認めなくなったら消滅、ふさわしいと思った者に改めて与えられる何のバフもない、本当にただの称号だ。

 俺はその勇者と言う称号を持った人間がいないのはてっきり国が1つしかない、つまりユウ以外勇者と認められていないからいないのだとばかり思っていた。

 国によっては勝手に勇者を名乗ることを禁じていた国もあるほどなので、厳しいポラリスはそれが徹底されているのだとばかり考えていた。


 しかし女帝の言う本物の勇者と言うのがもっと特別な意味だとすれば、考え直す必要がある。


「それって本当に私じゃないとダメなの?私以外に勇者になりたい人なんていくらでもいるでしょ」

「いません。勇者様こそが本物の勇者!!法王猊下のお言葉によれば、ユウ様以外認めることは出来ないとのお言葉もいただいております!!代わりが務まるのであれば連れてか入れなど命令は下されないはずです!!」

「どれだけ言われても私はポラリスに戻るつもりはないよ。ナナシもどうしたの?この人と私を会わせて何がしたかったの?」

「なに、ちょっとこいつには伝言を頼みたくてな。もういいぞ、女帝」


 俺がそう言うと最敬礼の形を解き、ただそこに座った。

 ため息をつきながら「やっぱりか」っと言葉をこぼした。

 そして確認するように言う。


「おい。貴様の取引は終わったぞ。自由にしろ」

「それは無理。お前の身柄はあくまでも獣人の国が権利を持っている。これからシリウスとレナに話して刑を軽くしてやるよ」

「ち。やはり勇者様は貴様に毒されてしまったようだな。我が部下も隷属させ、好き勝手させているんだろ」

「ああ。毎日お前の大好きな勇者様を殺せと命じて襲わせてる」

「な!?」

「まぁ木剣でやってるから相当うまくやらないと死なないけどな。それにユウは防御得意だし」

「貴様!!本当に善の神から罰を与えられるぞ!!」

「知ったこっちゃねぇよ。元々人間しか認めない神なんぞクソくらえだ」


 俺と女帝が話しているのを意外そうに見るのがユウ。

 元々計画していたことではあるがそこまで意外そうにするとは思わなかった。

 そして俺は檻のカギを開けながら言う。


「お前を自由にする権利は持っていないが、檻の外に出す権利と見張り付きである程度自由にできる権利はもらってる。俺の部屋で食っちゃ寝するんだな」

「ふん」


 女帝は鼻を鳴らしてから檻を出た。

 一応俺の隷属は効果が出ているので肉体的には支配できている。

 しかしスキルと言うのは非常に厄介でこうして完全に支配できていない状態だといつか耐性を身に付けてしまう可能性がある。

 だからまぁできればぶっ殺しておく方が安全なのだが……生かしておいた方が色々得だと思うんだよな。

 ユウとの話に出ていたポラリス上層部、『切り札(カード)』なんて一度も聞いたことがない。


 戸惑いながらユウは俺に聞く。


「えっと、これからどうするの?」

「部屋で改めて話を聞く。全く。本当に面倒な相手だ。『怠惰』は」


 俺は女帝の手首についている白い腕輪を見ながら言った。

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