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大罪人の平和

「俺にとっての平和はお互いの首筋に剣を当てた状態の事を言う」

「………………は?」


 女帝は理解できないと言う感じで声を漏らした。

 最初から理解できるとは思っていないのでこれだけ言えばいいだろう。


「それじゃまた次の――」

「待て待て!!もう少し説明が欲しい!なぜ大概の剣を首筋に当てた状態が平和になる!?それのどこが平和だ!!」


 なんて聞いてきたので俺は軽く答える。


「どこって……お互いに殺せるぞって状態になれば膠着こうちゃく状態が続くだろ?お互いに戦争を起こす事が出来ない状況を作り出し、その状態の意地こそが平和だろ」

「どこが平和だ!!そんないつ命を失うか分からない状態で平和など言えるわけがないだろう!!」

「そんな平和な状態でも普通に命は散っていくぞ。別に命を失うのは戦争だけじゃないんだ。病気、事故、寿命。分かりやすいのはこの3つか?なんにせよ何もしなくたって寿命を迎えて死んでいくんだからどんな状況であろうとも関係だろ」

「そんな状況を平和だと私は認めない!!真の平和を実現するために我々ポラリスの騎士は、いや、ポラリスの民は!神に祈りを捧げ、真の平和を手にしようとしているのだぞ!!それを邪魔している大罪人や擁護する者達はやはり人ではない!!」

「いや、この考えを他の連中に話したことはないんだけどな……それにこれはあくまでも俺個人の見方だ。他の連中は俺のように思っていないし、同意なんてしてねぇぞ」


 俺がそう言うと女帝は少しだけ落ち着き、改めて確認するように聞く。


「何故、何故だ。なぜお前にとっての平和がそんなものになる」

「そりゃどんだけ文明が発達しようとも、俺達生物は結局生存競争を行わないと生きていけない存在だからだよ。俺はこの事実を決して変えられないと思っているし、変える気もない。この世の生物、獣だろうが魚だろうが、虫だろうが全ての生きていると言われる存在達は生存競争の中にいる。そんな中で人間だけがその枠から逃げ出せるとは思えない」

「何故そんな悲しい事を言う。人間同士が争わない未来はきっと訪れるはずだ。何故そう思えない」

「思えるわけないだろ。この世界だって人間と他の種族が争っている。確かにお前達にとって人間と他の人種、獣人やエルフ、ドワーフ、人魚、竜人は人間の枠組みではないのかもしれないが、俺から見れば少し形の違う人間だ。仮にお前たちの目標通り人類が人間だけになったとしても、今度は人間同士で殺し合うだけだ」

「そんなはずない。我々人間は殺し合ってなどいない!適当な事を言うな!!」

「ならお前から見れ俺は何に見える?獣人か?それとも竜人か?俺はお前達人間と戦っているぞ」

「そ、それはお前が罪を重ねるからだろ!聖域での事件も聞いている。なぜあの場にいる騎士たちを殺す必要があった!」

「邪魔だから。それだけ」


 俺の短い言葉に女帝は言葉を失った。


「俺はこんなことで言葉を飾ったりしないぞ。俺には俺の目標があるし、目的がある。俺にとってポラリスのやり方は気に入らないし、ぶっちゃけ滅ぼしたいと思ってる。俺とお前達は交わる事が出来ない」

「…………なぜそこまではっきりと言える」

「やり方だよ。お前達のやり方は神様に頼るってやり方だろ?俺は神様に頼りっぱなしなんてごめんだね。俺達は自分達の足で立てるし、考えて生きていける。それなのに神様に頼りっぱなしって言うのはどうもしっくりこない」

「本当にそれだけか?神の言葉を聞き、そのお心に沿って生きて行くことが不満なだけなのか?」

「不満だね。それじゃその神様が突然人間に対して見切りをつけて、あとは知りませんって行動をとらない保証はどこにある?もう俺達は神様に頼らないといけないくらい子供じゃない。文明を築き、言葉を作り、文字を作って発展し続けた。もう神に依存する必要はねぇだろ」


 神様を本気で信じている奴にこう言って通じるのかは全く分からない。

 だが神様に頼りっぱなしが気に入らないのは本音だ。

 それに神と言われる人種が存在しているのは知っている。

 そんな彼らを見ての感想は、人間とそう変わらないという事だ。


「神様がいる、その神様の宗教を信じたい。それに関しては自由にしろ。俺だって神頼みをしたことがないわけじゃない。お前の信じる神様を信じればいいさ。ただし俺はお前らの信じる神が嫌いだ」

「……何故そこまで言う。何故そこまで強く言える」

「……お前、今までどんな物食って生きてきた」

「?どんな物とは……」

「思いつく限りでいい。何食ってきた」

「それはもちろん教会で出されるパンとスープが中心だった。祭日の時には肉や魚も食べたし、冬の間は保存食のチーズを食べた。それからサラダも食べた。あとは……このような感じでいいのか?」

「ああそれでいい。普通はそうやって昔何を食っていたのか思い出せるもんだ。お前の親はどんな親だった」

「私の両親か?ポラリスに近い村の出身だ。今は私が出世したことで首都で祈りを捧げる日々を送っている。小さな畑をいじりながら元気にしている」

「そうだな。それが当たり前だ」

「……何が言いたい」

「勇者はそういった当たり前の記憶がなかった」

「……何?」

「これはあくまでも知り合いの予測も含まれているが、勇者は最低でも50年近くを光もないくらい牢屋の前でその牢屋に誰も近付かないようにずっと守り続けてきた。その間に親の顔も忘れ、食べた物は硬い黒パンとクズ野菜のスープだけ。冒険者ギルドの1番安いクズ野菜のスープを濃いって言ったんだぞ。あのろくな味付けもされていないクズ野菜のスープをだ」

「…………」

「正直その前まではポラリスなんてどうでもよかった。どれだけ成長していようとも、どれだけクズな国になっていようとも知ったこっちゃない。でもな、勇者はそんな家族の事をも忘れて、今までどんなものを食べてきたのかも忘れて、本当にただの象徴としてあのくらい牢屋の前にいたんだ。そんなお前達の宗教が正しいとは思えない」


 そうはっきり言うと女帝はそれ以上何かを求める事はなかった。

 それでも俺はもう少しだけ言いたい事があるので言う。


「俺にはいくつか分からない事がある。それは道徳と宗教がごっちゃになっているところだ。神様がやってはいけないと言ったからダメ?神様が良いと言ったからやって良い?なんだそれ。誰かに言われたからやるやらないじゃなくて、自分で感じて行動する物だろ。お前らは自分の考えを捨てて、ただ神様がそうしろと言われてそうしているだけなのなら、隷属の首を付けなくてお前らは何も変わらない。元々神様の奴隷だ」


 俺がそう言うと女帝は何か言おうとするが、言葉が見つからないのかすぐに口を閉じる。

 だから最後に俺は聞いてみる。


「お前はさ、世界平和ってどっちだと思う」

「……どっち?」

「ある2人の偉人が平和について語ったそうだ。片方は全員が武器を捨てる事で平和になるという考え。もう片方は今俺が言ったようにお互いに強力な武器を持つという考えだ。お前はどっちを選ぶ」

「無論全員が武器を捨てる方だ。そちらの方がいいに決まっている」

「そうかもな。で、武器ってのはどの範囲だ」

「範囲だと?」

「ああ。確かに人間基準だったら剣や槍、魔法なんかを捨てればそれでいいのかもしれない。でも獣人は?竜人達はどうだ?彼らは生まれた瞬間から人間よりも強力な牙と爪が生えている。そんな彼らの牙を全て抜くか?全ての指をへし折るか?体格差も筋力も違う。そんな違う俺達が全く同じようになるにはいったいどうすればいいと思う」


 俺の質問に女帝は考えるそぶりを見せる。

 そして口にする。


「彼らを……絶滅させてから武器を捨て、魔法を生活のためだけに使えばいい」

「なるほど。この世界の人種を人間だけにするっていう事か。別にお前達がどんな方法で平和だと思う世界にしていくのかはどうでもいいが、それ一体何百年かかるんだろうな」

「それは……」

「それにお前達にそこまでの力があるのか?ついこの前レナに全滅させられたばかりだと言うのに。レナに勝てるのなら希望くらいはあるけどな」


 圧倒的な実力差を見せつけられた後だからこの言葉は重くのしかかる。


「それにレナだけじゃない。他の種族達も殺すと言うのであれば必ず俺が敵になる。俺はレナより強いぞ。殺せるもんなら殺してみな」


 からかうように言うと女帝は黙った。

 そして最後にこれだけは言っておく。


「俺から見れば人間も、獣人も、ドワーフも、エルフも、人魚も、竜人も、みんな等しく人だ。言葉が通じ、意思疎通を図りながら一緒に歩いて行けると俺は思ってる」


 それだけ言ってから俺は再びブラックボックスを使用した。

 もう檻の中の様子は分からない。

 伝えたい事は全部伝えたつもりだ。

 さて、俺の言葉を聞いだ誰かさんはどう思っているんだろうか。

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