ポラリスからの侵入者
「う~……やっと着いた~」
「本当にやっと着いたね……」
1週間船に乗っていたのでそれなりに疲労もたまっている様子のユウ。
ネクストに関しては船から降りた瞬間深呼吸をして森の空気を肺に一杯取り込んでいる。
積み荷を運び出すポーラ嬢ちゃん達を迎えに来たのはシリウスだった。
「ナナシ殿、姉上。お帰りなさいませ。意外なお客人もおるようですな」
「おうシリウス。元気か。若い連中はどうだ」
「ほほ、ナナシ殿が帰ってくると聞いて大騒ぎでしたぞ。しかしそれでも獣人、しごきに耐えるくらいの頑丈さはありますわい」
「そうか。ならさっそく腑抜けた連中を殴りに行ってくるか」
「その前にお話があります。よろしいでしょうか」
「何だよ。何かあったか」
「はい。どうぞこちらに」
そう言われるがままに俺とレナはシリウスとともに近くの小屋に行く。
そこは商談をするための部屋のようで出入り口には親衛隊が出入り口を守っている。
いったい何の悪だくみだろうと思っているとシリウスは重そうに口を開いた。
「ポラリスの者達がこの森にいます」
その言葉にレナはキレ、俺は意外だと思いながら口を開く。
「あいつらがなんでこの森に来た。本格的に獣人を皆殺しにしようとしているのか」
「いえ、それはあり得ない人数ですじゃ。ポラリスの女騎士が6人。これで我が国を本気で攻め落とすつもりなのであればなめているという他ありませぬ」
「確かに随分なめてるな。まぁ俺が出る幕も無いようだけど」
すぐ隣で切れているレナを見ながら言うと、レナはシリウスに言う。
「シリウス。あなたはそれでもこの国の重鎮ですか。なぜ侵入してきたと分かっているのであればなぜ殺さないのです」
「姉上、しかし相手はポラリス。敵対していますがもう少し泳がせて何が目的なのか知りたいのです」
「くだらない。圧倒的な武力を持っていればそのような事を考える事もないのだと亡き父上も言っておられたでしょ。あれはただの害獣。あなたが殺さないというのであれば私が殺してきます」
「待ってくだされ!奴らがわざわざこうしてやってきたことには必ず意味がある。その意味を知らずにただ殺すのはあまりも勿体ない。もちろんこちらも何もしていない訳ではありませぬ。奴らには監視を送り、24時間見張っております」
「その目的がもし群れの殺害だったらどうするつもりです。我々は少ないからこそ皆が群れであり続けなければならない。大を生かすために小を見殺しにしてはいけない。何としても全員で生き残る道を探る。これが初代国王様のお言葉を忘れたか!」
「群れを守るために必要な事なのです!少しでも多くの情報を手に入れ、幼い者達を守るための糧にするのです!!」
なんかお国規模の姉弟喧嘩が始まりそうだけど、耳が痛くなるので俺は手を叩いて止めた。
「はいはい。2人とも一応年寄りなんだからあまりキレすぎるな。脳みその血管切れちまうぞ」
「しかしナナシ様!国を守るためには敵を排除する事こそ必要でしょう!!」
「それだけでは足りぬ!なぜポラリスの人間がわざわざここまで来たのか知る必要があるとは思いませぬか!!」
「2人とも話はよく分かる。2人の意見をどちらも俺は尊重する。そしてそういうときのための俺だろ?」
「どういう事でしょう」
「お教え願えますか」
「こういう時こそチートスキルを持った俺の出番って事。まずはレナ、お前はその6人を半殺しにして俺の前に連れてこい。隷属させて何しにこの国に来たのか吐かせる。そのあと殺せばいいだろ」
「…………あ」
「シリウスはそれでいいか?」
「儂は敵の目的を知る事が出来るのであれば方法は問いませぬ」
「そんじゃレナ、好きなタイミングで連れてこい」
「では今すぐに」
そう言ってレナは部屋を出て行った。
俺の隷属で情報を吐き出させるのは簡単だ。
レナを完全制御しているとシリウスはほっとしたような表情を見せる。
「やはりナナシ殿がいる話が早くて助かります」
「別に、耳が痛かっただけだ。それに俺だからこそできる事っているし、この国じゃ情報を引き出すってのはまだ難しいみたいだな」
「ええまぁ。正確に言うと姉上のように殺してしまえ、と言う者が圧倒的に多いのが理由ですが」
「お前がどのように国を守ってきたのかよく分かる話し方だったよ。本当に頑張ってきたのな」
「考えるよりも手が先に出るこの国ではこれくらいの事をしなければならなかっただけですじゃい」
シリウスは爺さんらしいというか、苦労して年を取った雰囲気を出しながら言った。
俺達は外に出てレナの帰りを待とうと思っていると、すでに5人半殺しの状態で転がっていた。
こりゃすぐに最後の1人も来るなと思っていると、巨大な狼状態のレナが最後の1人を咥えて現れる。
全員抵抗したのか、手足が折れていたりかなりの出血をしている。
特に最後に連れてきた女は両腕両足の骨が砕けていた。
最後に連れてきた女が最も重症で本当に話を聞き出すつもりがあるのかどうか不思議に思う。
まぁレナにとってはただの侵入者であり、殺されても文句を言わせないだろうが。
「シリウス。これでいいでしょ」
「これでもやり過ぎじゃと思うだが……」
「元々ただの侵入者。生かしているだけありがたいと思いなさい」
最後に連れてきた女の頭を踏みつけながらレナは言った。
その言葉はシリウスと言うよりも踏みつけている女に言っている。
女は四肢を折られてもまだ戦う気力があるのはすごいと思うが、弱ければそれまでだ。
俺はまず女に隷属の首輪をかけて準備完了。
何のために来たのか聞く。
「正直に答えろ。何しに来た」
俺が女に聞くと、意外とすぐには口を開かず答えまいと歯を食いしばっている。
「あれ?意外と耐えるな」
「耐えられるものなのですか?」
「一応な。隷属の首輪も一応魔道具だから魔法耐性が高ければ一応効きにくいってことはあるけど、滅多にいないな。どんなスキル構成しているんだ?」
気になったのでちょっと『嫉妬』を使って変身。
女の部下と思われる連中は驚いていたが、女は驚いているように見えなかったのでおそらく俺の事を知っているのだろう。
そしてそのスキル構成に驚いた。
「マジか……ほとんど極振りじゃん」
「どんなスキル構成だったのですか?」
「状態異常耐性と近接戦闘に特化した感じだ。ある意味レナと似てるかもしれない」
名前 コウネリウス・シュラク
レベル 74
称号 女帝 聖拳 法王の護衛
スキル 拳闘士 光魔法 決闘 物理異常耐性 精神異常無効 魔導 英雄覇気 魔力探知 魔眼(空間)
「物理異常耐性が無効になっていればそれなりに良かったな。あと珍しいのは魔眼の空間系を持っている事だな」
「魔眼持ちは確かに珍しいですね。空間系は……どのような効果だったでしょうか?」
「魔眼の空間系は自身と相手の行動がスローモーションに見えるって魔眼だ。魔眼内のランクとしては低い方だが汎用性が高い。遠目とかの補助機能もあるし、意外と便利だぞ」
「でも使用者のスピードが上がるわけではないのですね」
「どちらかと言うと回避のためのスキルって感じだから……」
「あの、結局尋問の方はどうするおつもりか?」
おっと、シリウスに突っ込まれるまでこのままスキル談義を続けるところだった。
「まぁとりあえず、この精神異常無効の影響で隷属によって無理やり口を割る事が出来ないって感じだな。そうなれば……普通に拷問でいいんじゃない?」
「それなら私が行います」
「殺すなよ」
「分かっています。シリウス、場所を用意しなさい」
「はぁ。殺さないように儂が見張っておきます」
「あ~うん。とりあえず頑張り過ぎないようにな」
レナは頑張りすぎて殺さないように、シリウスは頑張って過労で倒れないようにしてほしい。
ちなみに残りの5人は隷属できたのでシリウスに知っている情報すべてを話すように命令した。
今は殺さず人質として女から情報を引き出す道具にするつもりだ。
さて、どんな話が聞けるかな。