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護衛開始

 正面から来ることはないだろうとは言ったが、何度かそれっぽい奴が襲ってきた。

 どこぞの暗殺者なのか天井から襲ってきたり、食い物に毒を突っ込んでいたりと様々な手段で殺しに来る。

 もちろん全部俺達と女王様を守る護衛やら何やらも活躍したわけだが、ある程度予知スキルで分かっていたのか女王だけは堂々としていた。

 その事は近衛騎士にも伝えられていたらしく、見方によっては作業的に確認していたようにも見える。

 まぁそれでも想定外な襲われ方をしたのかちょっと対応が遅れていた時は俺達が対応した。


 こういっては何だが女王様の予知スキルは相当頼られているらしい。

 使いこなせていれば未来予知と変わらない訳だし、特に何のリスクもなく使えているとは思えない。

 それでもまぁ最悪の事態を回避できているのであればそれでいいのかもしれないが。


 なんて護衛をしながら今日の夜。

 女王様はお休みになられるというのでユウ達に護衛を任せて俺は休もうとしたら女王様からラブコールがあった。

 まぁ本当はただ呼び出されただけだけど。


「呼んだか」


 俺がそう言いながら寝室に入ると女王様は穏やかな表情をしながら俺に微笑んだ。


「ナナシさん。今夜の護衛をお願いしたいのです」

「俺が?こういうのって女同士の方が安心できるんじゃないか?俺がお前の事を襲う可能性だってあるだろ」

「その程度でしたら問題ありません。死ぬよりはマシですから」


 ……ずいぶん実感のこもった言い方をするじゃないか。

 これは親しい誰かが死んだから、とかではなく本当に自分が死にかけたことのある者の言い方だ。

 俺は勝手にベッドの端に座ってから聞く。


「実感こもりすぎじゃね?」

「まだ本当に死んではいませんが、死の体験は何度もしてきましたから」

「周りに守られて生きてきた奴の言葉には聞こえねぇな」

「ええ。こればっかりは誰にもどうする事もできませんから。電気を消していただいてもよろしいですか」

「おう」


 言われるがままに電気を消してから再びベッドの端に座る。

 一応この部屋はユウの結界によって守られている。

 ぶっちゃけ動く必要がないのであれば、こうやって引きこもっていればいいのだ。

 なのにこの女王様は当たり前のように戴冠式を行おうとしている。

 何故そんなことをするのか、俺にはさっぱり分からない。

 事件が終わるまでおとなしくしていればいいのに。


「少し眠るまで話を聞いていただいてもよろしいですか」

「どうぞ」

「それでは少しだけ。私には幼少の頃からこの予知のスキルが存在しました。しかし予知と言っても好きな未来を占うものではなく、強制的に起こる未来の不幸を知る事が出来る。と言ってほうが正しいものです。そしてそれを回避する事が出来るのも知っています」

「それが今の状況か」

「はい。私の未来は様々な方法で殺されてきました。食べ物の中に毒が入っていたり、遠くから魔法で打ち抜かれたり、賊が騎士に紛れて殺しに来たりです」

「それ今日防げた奴か」

「はい。本来はそのどれかで死んでいたはずなんですよ。でもどうしても回避できない、あえて言うなら確定した死の未来が明日です」


 明日の戴冠式で女王様は確実に死ぬか。

 確かに予知がなければ何度も死んでいたという事実からそう考えるのが自然だ。

 なるほど。

 女王様がスキルに依存してスキルに支配されていると感じたのはそういう事か。


「で、なんで俺を巻き込んだ。明日確実に死ぬんだろ」

「いえ、最も可能性の高い未来と言うだけで回避することは出来ます。それは毒物が混入していると判明している食べ物を回避できたことで証明できているかと」

「確かに。他の死因も確定した未来だとしたらとっくに死んでるか」

「ですから私は明日の死を回避するためにあなたに依頼を出したのです」

「正直怖くなかったのか。と言うか一度は俺のパチモンを追い返すなり出来たんだろ?」

「その代わりに多くの騎士を失いました。私が死ぬかもしれないところは見る事が出来ましたが、どれくらいの被害が生むのかは分かりませんでした。なので多くの者が私のために亡くなってしまいました。なので私は生き残らなければならないのです」

「生き残る覚悟はあるみたいだな。そういう強い女は俺結構好みだよ。報酬にお前の事抱いてもいい?」

「構いません。あなたは私の事をスキルに支配されていると言いましたが、スキルに支配されていない方は存在するのでしょうか?」

「それってどういう事だ?」


 よく分からなかったので聞き返す。

 女王様は俺の目をまっすぐ見ながら言う。


「私は生まれながらスキルを持って生まれました。もちろんこのスキルを使いこなせるように幼少より訓練を重ね、ようやく今のように様々な未来の可能性を確認する事が出来ました。生まれながら持っているスキルは我々にとって呼吸するのと変わらないのではないかと思っているのですが、あなたにとっては違うのですか?」


 ああ。

 なんとなく言いたいことが分かった気がする。


 当然ではあるが俺にとってこの世界は元ゲームだ。

 元の世界ではスキルなんてわかりやすい才能のような物を視認する事は当然できなかったし、成長して何かを得られたのかどうかの確認もできない。

 だからこの世界では当然であるスキルと言う才能を最初から持っている側の気持ちが分かっていなかった。


 スキルとはゲーム内限定の力で本当はそんな力ない。

 それが当然だったほんの少し前までの状態とは全く違う。

 おそらく女王から見て俺のスキルは最初から身に付けていたものだと勘違いしているんだろう。


「そうだな、俺にとっては違う。スキルは努力して手に入れた物ばかりだからな」

「そうなのですか?」

「ああ。少しずつ手に入れて、それを成長させて今のスキルになったんだ。だから最初からスキルを持っている奴の気持ちは分からん」

「……そういう方もいるのですね。私はまだまだ世間知らずのようです」

「そうかもな。とりあえず今日は寝ろ。戴冠式の日に女王様が寝不足でクマ作ってたら化粧する人も大変だ」

「では眠るまでもう少し話をしたいのですが……」

「……1つだけな」


 やはり女王と言う立場になってもまだ子供のようだ。

 仕方がないのでもう少しだけはなしに付き合う。


「それでは1つだけ。地上は明るいですか?」

「そりゃ色々だよ。太陽が出ていれば明るいし、雨が降ってれば暗い」

「太陽を直接見たことはありますか?」

「地上の人間だって直接太陽を見ちゃいけねぇよ。目が潰れちまう」

「私は……この都市から出たことがありません。太陽を見上げるのはいつもこの深い海の底から、地上はどれくらい明るいのか気になります」

「そうか。明日そのお前にとって最後の日を叩き潰して見に行けばいい」

「そうですね。まずは明日、私の事を守ってくださいね」

「おう」


 そう話している間に女王様は寝た。

 まだまだ幼いが、急に両親が死んで大変ってのはまぁ想像に難しくない。

 でも俺にできる事なんてないし、悪党らしく連れ去ってみるか?

 いや、そんなこと俺にとって何の意味もない。

 俺が何か特別視している訳でもないし、ペット感覚で連れすつもりもない。

 ぶっちゃけ戦えない奴は邪魔だ。

 戦えない奴を連れまわすほどの余裕はない。


 余計な事は考えず、俺は護衛としての仕事する。

 ユウの結界に守られているのだから今夜は安全だろう。

 俺は部屋の扉を開けて、ユウと結界越しに顔を合わせるとユウは一瞬だけ結界を解除、すぐに張りなおした。

 今の一瞬で潜り込まれた様子はない。


「新女王様どうだった?」

「予知の魔法も万能ではない、それとやっぱり子供らしいところは残ってたって感じかな」

「それにしてもやっぱり意外。お金が欲しいのは分かるけど依頼を受けるなんて。てっきりこういう時盗めばいい、奪えばいいっていうとばっかり思ってた」

「俺だってさすがに相手は選ぶっての。やるとすればポラリスだ」

「そのポラリスに対する執着心は何なの?やっぱり殺された恨み?」

「それに関しては全くと言っていいほどない。だが、現在のポラリスのやり方が気に入らないのも事実だ。世界征服のつもりなのかもしれないが、ポラリスにいる連中のほとんどがクソ神の言いなりになっているだけであいつらの意思で動いているわけじゃない。人間が人間のためにやったのならそれは時代の流れかもしれないが、神が干渉しているのなら別だ。気に入らない」

「どうしてそんなに気に入らないの?同じ神様のアストライアさんとか、悪の神様、そして本物の善の神様にはそんな感情向けてないのに」

「あくまでも俺にとっての神様だが、神様ってのは見守ってればいいんだよ。それだけでいい」


 俺にとっての神様と言うのはただぶつけようのない怒りや愚痴をこぼせる誰かでいい。

 元々俺から見れば神様が人間と同じ世界にいること自体がおかしい。

 神様は見えず、聞こえず、感じ取る事が出来ない存在だと思ってる。

 それが堂々と人間の前に出てああしろこうしろと言うのはなんか違う。


 ただ見守ってくれている程度でいいのだ。

 なんとなく見守ってくれているかもしれない、くらいでいいのだ。


 それが俺にとっての神様。

 愚痴りたいときに黙って話を聞いてくれるような、目に見えない存在でいい。


「でも目の前に居たらやっぱり安心できると思うけど?」

「その辺は人の感覚でいいだろ。俺にとっての神様論を押し付けるつもりはない。俺、無宗教だから」

「無宗教の人がそんなに神様について真面目に考えるかな……?」

「ところでユウってこの結界張りながら寝れたよな」

「うん。1度展開すれば解除するまでこのまんまだから」

「ならお前も寝ておけ。明日が本番だ」

「分かった。それじゃお休み」

「お休み。それと女王様が起きる前には起きるんだぞ。寝坊して解除できません、戴冠式に遅刻しましたなんてなったら信用問題になる」

「分かったー!」


 振り向かずに仮眠室に向かうユウを見て、本当に感情が出るようになったなと思う。

 さて、明日は来るのかな?俺の偽物君は。

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