捕まりました
さらに翌日、みんなで街でぶらぶらしていると突然この国の騎士達を俺達の事を取り囲んだ。
「ん?何か用か?」
のんきに確認してみると人魚の騎士は槍をこちらに向けながら言う。
「貴様を王女殺人未遂で逮捕する!!」
「…………は?」
全く身に覚えのない。
殺すくらいなら犯して孕ますわ。
勿体ない。
「なんで俺がそんなことしなきゃならんの?」
「それを聞きたいのはこちらだ!!とにかくともに来てもらう!」
「え~……仕方ないからいいよ」
「え、行くの!?」
意外そうにユウが言った。
まぁ意外かと思うがこういうのは素直に従っておいた方がいい。
何より情報を手に入れるいいチャンスでもある。
なのでおとなしく一度捕まった。
「白猫の世話頼むな。あと今日の晩飯置いといてくれよ」
「分かったけど……1日で終わるものなの?」
当然そんなわけないのだが、やろうと思えばいくらでも抜け出す方法はある。
なのでちょっとだけお世話になるだけだ。
俺はおとなしく捕まるとそのまま監獄まで連れていかれた。
監獄はこの都市を出てしばらく先にある場所にあった。
監獄は深海に造られており、監獄の外は常に暗い。明るいのは監獄の中だけで囚人を逃がさないために廊下などは煌々と電気が点いている。
まっすぐ監獄まで送られるとはなかなかの扱いだ。
檻に入れられたらまずは質問から始まる。
それで予定通りに進めば手荒な事にはならないが、予定通りに進まなければ質問から尋問へ、それでも言わなければ拷問に変わる。
なので捕まえた今日に関しては質問だけで終わるはずだ。
「君の名前は……ナナシか。観光で来ていると聞いているが間違いないかな?」
「その通りです。と言うかこの国の王女?女王?の顔も名前も知らないんだけど」
「…………それはそれで問題だが、それならなぜ女王を殺そうとした」
「俺じゃないって。大体いつ殺されそうになったんだ」
「知らないとは言わせないぞ」
「本当に知らないって。いつ死んだの?」
「死んでない!」
「よく分かんねぇけど俺が殺すとしたら確実に殺すぞ。髪の毛1本も残さず確実に殺す。どうせこの町から出れば魚がいるし、サメのエサにするのも悪くないかもな」
俺がそう話すと目の前の騎士は舌打ちをしてから言う。
「……本当に殺そうとしていないんだな」
「興味ねぇよ。殺す理由がなければ殺してくれと頼まれたこともない」
そう言い続けると騎士はため息をつきながら言った。
「犯行は昨日の深夜3時ごろ。人魚ではない事は確認できている。そのためこの首都にいる人魚以外の種族を調べた。分かっている事は大柄な男性だけだが、調べれば君に過去の条件に当てはまらなかった」
「その情報は正しいのか?寝ぼけた女王様のお話だけだったら根拠薄いぞ」
「現在も調べているが最もこの国で信用できる調査方法だ。間違いない」
間違いないと言い切れるだけの自信はあるわけか。
それにこちらにアリバイはほぼない。
「そして君は深夜3時頃何をしていた」
「寝てたよ。一緒に白い猫の獣人がいたがお前らは信じないだろ」
「あの近くにいた白い猫の獣人か。仲間ならお前の事をかばうだろう」
「あいつはそんな事を言うとは思えないが、あいつも結局寝てたんだ。アリバイとしては弱いな」
先に言っておくことでこちらには嘘を言うつもりはないと言っておく。
結局アリバイは0だが、嘘は言ってないアピール。
俺に質問してくる騎士は冷静だが、後ろにいる若そうな騎士は決めつけているような言い方をする。
「ならこいつが犯人でいいでしょ先輩。姫様が間違えるとは思えません」
「だがあれはあくまでも――」
「いいえ、姫様の言葉は絶対です。姫様が犯人と言ったのならこいつが――」
のんきにおしゃべりをしているので、俺は目の前の騎士からペンを奪い和解騎士の頬をわざとかすめながら投げると血を流す。
和解騎士は自分の頬に触れて血が流れている事をようやく知った。
そんな若い騎士に向かって俺ははっきりと言う。
「言ったろ。本当にそのお姫様を殺す気なら失敗しないってな」
「貴様!地上の猿の分際で!!」
「止めろ!実力差は今ので分かっただろ。確かにこの男が襲ってきていた場合姫様も死んでいたはずだ」
「ま、この間王様が死んだってのは新聞で見た。だからこれ以上王族が殺されることを避けたいのは分かるが俺じゃない。その王様を殺した奴はもう捕まったのかよ」
目の前の騎士に視線を移してから聞く。
若い方は無視。もうどうでもいいわ。
「……まだだ。容疑者は見つかったが完璧なアリバイがある」
「ほう。俺よりはマシみたいだな。と言うか最近この都市物騒なんだろ?心当たりないのかよ」
「おそらく貧民街の連中だと予想はしているが証拠がない。この都市で王族には向かおうと考えているのはそいつらくらいだ」
「貧民街?」
「都市の西側にある寂れた町に住む連中だ。理由があるとすればそこに住む者達だ」
俺達が今ホテルで泊まってる所か。
貧民どころかスラムで家と呼ばれる場所はろくにないというのに。
「そいつらに恨みを買っている事は分かった。なら追い出すなりすればいいだろ」
気に入らない事を表情に出さず話を続ける。
そして俺が思っていたことを聞くと騎士は首を横に振りながら言う。
「それは分からない。なぜ今もあの場所が残っているのか、それ以前にいつから貧民街があるのか分からない。あそこにいるのは人魚達の中でもろくに生きられない者達ばかりいる。君のように都市から追い出すべきだと考える者もいるが、王族は決してそうしなかった。だから我々も分からない」
「ふぅん。そうか」
どういうことだ。
王族が原因であの町は廃れていったというのに王族は追い出そうとしない?
ただ単にあの町に住む連中が衰弱していくのを見て楽しむクズなのか、それとも王族に何らかの考えがあって放置しているのか、全く分からない。
流石に国の黒い部分を他国の者であるレナとかに話しているとは思えないし、情報を引き出すにはもっと知ってそうな誰かに会う必要があるか。
なんて考えていると騎士は俺からの質問はもうないと考えたのか話を進める。
「だが君に容疑がかかっているのは事実。これから3日間檻の中にいてもらう」
「え~、3日も?」
「その間調べ白だと判断されれば釈放、黒だと判断されれば極刑を受けてもらう」
「ちなみに極刑って何されるんだ」
「死刑だ」
「お~こわ。死にたくないからちゃんと調べてくれよ、騎士さん」
そう言った後俺は牢屋に入れられた。
牢屋の中は非常に簡素でベッドとトイレしかない。
だが捕まったからと言ってスキルや魔法が使えない訳ではない。
俺はあらかじめ用意していた俺そっくりの人形、俺のクローンを取り出してベッドの上に転がした。
クローンと言ってもネクストのように高性能ではなく、本当にただの生きている人形のような物でスキルがないのは当然であり、自分で動く事もない。
さて、これを置いて行けばとりあえず牢屋に俺がいないと騒がれることはないだろう。
俺は転移してみんなの元に帰るのだった。