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人魚の首都

 準備を整えて他の人間達と共に人魚の首都に向かうための乗り物に乗る。

 そしておそらくだが……人魚の中にプレイヤーが絶対にいたなっという形をした乗り物が港に来た。


「どうかしたのナナシ?」

「……いや、何でもない」


 俺達を運ぶのはウミガメのような形をした乗り物で、甲羅の部分だけ透明なガラス張りのような感じで海の中から外を覗けるような作りになっている。

 まるで竜宮城に行く浦島太郎だな。


 そして俺達以外だとどいつもこいつも金を持っていますという服装で豪華なドレスやらスーツなどを着ている。

 それ以前に従者を連れていないのは俺達だけか。

 基本的に人魚の首都に行くのは自由だが、身元の証明と例の賄賂のせいで普通の人間は行かない。

 ぶっちゃけこの世界それほど娯楽が発展しているわけじゃないし、本当に街並みを見て回る程度のものしかないので遊園地などがあるわけではない。

 だから俺達のように本当にただの観光と言う奴はないないだろう。

 とりあえず賄賂の宝石が入った宝箱を渡してから乗り込む。


「で、なんでいるの?」

「商談だ。それに私がいる方が色々便利だと思うぞ」


 何故かポーラ嬢ちゃんもいる。


「商談って肉でも売りに行くのか?」

「いや、人材が欲しくてな。まぁ300年前とは違うという事だ」


 俺は首をかしげながらもウミガメ型の乗り物は動き始めた。

 このウミガメ型の乗り物の正体は潜水艦。ガラス張りに見えるが魔法によって水圧などから守られているので安全である。

 海の中から見る光景にユウは目をキラキラとさせ、ネクストは表情を変えないがじっと海を見ているのできっと興味を引いたのだろう。

 俺に関しては300年前にも見たことのある景色なので特に興味はない。

 そして白猫も興味なさそうしている。


「ジラント達は初めてじゃないのか?」


 同じく興味なさそうにしているドラゴン組に聞いてみるがあまり反応は良くない。


「まぁ何度か潜ったりしたからね~。知ってる光景だし」

「あまりこういった点では100年前と変わりませんから」

「私は主様と一緒に居るので特別感はありますよ。でも主様がいなかったらとくには」


 冷めてるなお前ら。

 まぁ俺もだけど。


 こんな感じで海の中を進むこと1時間。ファンタジー世界とは思えない海底都市がそこにはある。

 どちらかと言うとSFで海の中に都市がガラスの蓋をしているような感じでその中にはビルが建ち並ぶ。

 初めて見た時は得、ここでSF!?ってマジで驚いた。

 と言っても車のような物はなく、一部高速道路みたいな感じで他の小さな海底の町に行くためにホースみたいなのが生えているくらい。


 まぁ深海一歩手前みたいなところにあるから上を見上げれば明るいが基本的には暗い。

 そんな暗い所でビルの明かりは多分幻想的だろう。


 そんな首都にやってきた俺達。

 潜水艦から降りて最初にやるのは宿探し。

 お手頃の宿はあるかな?


「ここが人魚の首都か……思ってたより暗いね」

「安全性を考えて深海ギリギリのところに造られてるからな。明るいのも結構短い。すぐに暗くなるから基本的に人工的に作られた光の下で暮らしてることの方が多い」

「これって魔法?」

「いや、ただの電球。1番近い都市はリブラかな」

「へ~。それじゃここの光全部魔法じゃないんだ」

「だがさすがに正午ごろになれば明るいぞ。短いけど」

「ナナシ殿。私はこれから人材を手に入れに行く。宿泊先はここにしてもらってもいいか」

「ん?良い店なのか?」

「いい店と言うよりは私の関係者が店をやっている。悪いようにはしないだろう」

「分かった。ポーラ嬢ちゃんの分も入れておくか?」

「いや、事前に予約しているから私の名を出せば問題ない。それでは」


 地図と店の名前を渡した後ポーラ嬢ちゃんはさっさと行ってしまった。

 それにしても人材ってそんな歩いて探すような感じだったっけ?

 とりあえず俺は地図に目を通すと……あ、このあたりなら300年前に行ったことあるから分かるな。


「そんじゃまずはこのホテルに行くか」


 っと言う訳で進む俺達。

 だがそこは……300年前とだいぶ違った。

 知っている店がないとか、改築されたとか、街並みが変わったとかじゃなくて雰囲気がかなり変わっていた。

 むしろ俺から見ると異常と言える。


「本当にこの先にホテルあるの?」

「あるらしいが……それにしてもここ、昔に比べてだいぶ変わったな」


 町と言うかこの一角は300年前賑わった商店街のようなところだった。

 もちろんある程度発展していたのでマンションとかもあったが、その前に出店のような簡素な店があり、結構にぎわっていた。

 でも今はずいぶんと雰囲気が暗い。

 まるでスラム街だ。


 町全体の空気がどんよりとしており、人々に覇気がない。

 ただ生きているだけと言う感じで生きようとしている雰囲気はない。

 なんて思っているとネクストの短剣を盗もうとした子供がネクストの返り討ちにあう。

 と言っても子供なので足を引っかけて転ばしただけだが。

 その子供の表情は飢えた獣のようであり、人の表情ではなかった。

 俺は子供の前でしゃがみ、交渉を試みる。


「お前、腹減ってないか」

「…………」

「獣の肉食わせてやる。食えるか?」


 俺がそう聞くと子供は腹の音で答えた。

 すでに調理済みであるクジラ肉のローストビーフ……ローストクジラを渡す。

 子供は奪われないようすぐに食いついて急いで胃袋に収める。

 子供の服はボロボロで、腕や足はやせ細っている。

 眉間には深いしわがありずいぶんと刺激的な生き方をしてきたようだ。

 子供が肉を食い終わったのを見てから聞く。


「いつからこの町はこんなんになった」

「……知らない。俺が生まれた時からこうだった」

「知ってそうな奴はいるか」

「……」

「追加の肉」

「ついてこい」


 そう言って子供はビルの隙間を縫うように歩いて行った。

 俺達もそのあとを追うが、周囲からの視線を感じる。

 敵意も混じっているがそれ以上に困惑しているような雰囲気が多い。

 それらの視線を無視しながら子供の後を追うと、小さな段ボールハウスの様な厚紙で作った小さな家のようなところで止まった。


「爺さんなら何か知ってるかも」

「そうか。ほれ報酬」


 子供に肉を渡すとまたすぐ腹の中に収めてどこかに逃げた。

 ユウはこの町の雰囲気を感じながら言う。


「この雰囲気、嫌い」

「俺もだ。どうやらここはあまりいい所ではなくなっちまったみたいだ」


 300年前は違ったんだけどな……

 そう思いながら俺は声をかける。


「あんたこの町の現状について何か知ってるか」


 俺がそう聞くと手だけ出てきた。

 しわくちゃでシミだらけ、皮しかない手に肉を置くと声が聞こえてきた。


「……儂の爺さんの代まではこの町は活気にあふれた町じゃった。他の町同様に活気があったと聞く。だが……当代の王がこの町を禁忌の町と言い経済的に攻撃を食らった結果じゃ」

「理由は」

「……肉を食う事。それだけじゃ」

「…………しょうもない理由だな」

「ああしょうもない。だがその思考は今も続いておる」

「他の町にはいかないのか」

「……行く場所がない。王によって出入りを止められておるからな」


 なるほどね。

 色々分かった。

 大雑把にだが200年ほど前に肉を食う人魚が気に入らない王様が現れてこのあたりを弾圧。そのまま衰退していったと言う訳か。

 しかも出入りを禁じられているってどういうこっちゃ。


「出入りってこの都市からか」

「ああ」

「全く。気に入らないならどこか遠くに追い出しゃ良いのに。目の前で弱っていくのを見ていたいとは悪趣味な奴だ」

「その通りだ」

「とりあえず話は分かったありがとよ」

「ああ」


 どうやらこの国も一枚岩とは言えないようだ。

 再びホテルに向かって歩いているとユウは聞く。


「ねぇ。ここにいる人達は悪いことしてないよね」

「俺達から見ればな。でも当時の王様と、その跡を継いできた王族たちはあいつらの事を悪だと決めつけた。それだけだ」

「でもそれってやっぱり悪いのは王様じゃ――」

「いいかユウ。自分は正義だと信じて疑わない奴ほど質の悪い奴はいない。何せ本気で自分の行動は一切間違ってないって思ってるんだからな」


 俺がそういうとユウは何も言えなくなった。

 そこから追い打ちをかける。


「おそらく王族の宗教観、モビーディック・ムーンを神としてあがめているのが原因だ。俺の地元じゃそう言った巨大な生物を神として祀る事もあったし、何ならそこら辺にあるただの岩に神様が宿ってるってな具合で大切にしてる奴らもいる。だから俺は王族のその反応が一方的に間違っているとは言わない」

「でも……こんなことしなくていいでしょ」

「そうだな。でもそれが必要だと思った自称正義が決めたんだ。いつだってこんなもんだよ。みんな正義の味方になんてなってない。自分こそが正義だと思ってるんだよ。でなきゃ人を選別しない」


 俺はそう言いながらホテルを目指すのだった。

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