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勇者との旅

 勇者の後ろに乗せて愛車でポラリスから少し離れた町まで飛ばしてきた。

 人を乗せて走るのは初めてだったのでゆっくり進んでいる間に朝になってしまった。

 とりあえず腹が減ったのでこの町のギルドで飯を食う事にする。


 ギルドとはよくゲームであるあのギルドだ。

 食事と冒険者の仕事場であるが利用者は非常に多い。クエストをクリアできればただ魔物の素材を売るよりも高い金が手に入るし、難易度の高いクエストをクリアすれば英雄視される事もある。

 と言ってもまだまだポラリスに近いこの町では俺のバイクは非常に目立つ。

 なので途中で降りてから町に入った。


「ナナシさんですね。奴隷は銅貨2枚となります」


 町の検問では俺の事を証明するギルドカードの提示と、奴隷を町に入れるための税を払った。

 奴隷には身分証明を提示する必要はない代わりに主人は絶対に身分を証明する事の出来る物を提示しなければならない。

 それから税金として金を支払わないといけない。

 これはペットや従魔を連れた冒険者などと同じ扱いとなる。生きた所有物を町に入れる事を許す代わりに主人がしっかりと粗相のない様にするためのシステムらしい。


 そして俺達はさっさとギルドに向かう。

 ゲームの世界だからだが、この世界にギルドが存在する。ゲームおなじみのあのギルドだ。

 国と言うよりは大陸と関わりが非常に強いのでちょっとした情報を得たり、各国の動きを知るには丁度いい情報施設だ。

 他にもゲームでおなじみ、クエストも発行されている。

 依頼者は様々で、どっかの村から頼まれた物だったり、個人だったり、貴族からの依頼だったりする。まぁ貴族とかお偉いさんの依頼の場合は大抵お抱えの冒険者とかが居るから依頼版に依頼を乗せる事は滅多にないけど。

 多くの冒険者が必要な時とかにはそう言う依頼が来ることがある。

 例えば開拓予定地で魔物を退治して欲しいとか、どっかの洞窟で魔物が大量に住み着いたから倒さないといけないとか、1人でも多くの冒険者が必要と言う時ぐらいだな。


 それから食事の提供もされている。

 町によってアタリハズレはあるがまぁこの世界の飯は食えるだけマシと言う物が多いので仕方がない。

 これも国によって変わるけどな。

 このポラリスと言う国は中世ヨーロッパ風なので食事もそんな感じで黒パンとスープで大体終わる。それに比べてリブラでは現代日本のファミレスとほぼ変わらない感じの食事なので非常に差が大きい。

 この国で肉を食うとすれば肉屋で肉を買って食う方が安上がりだ。この国じゃ肉を食うとしたらちゃんとしたレストランに行かないといけない。


「適当に安いの2つくれ。お前もそれでいいか?」


 勇者に確認を取るとただ頷いた。

 当然ではあるが勇者の姿は非常に目立つ。不釣り合いな鎧の姿の女の子、しかも首には奴隷の証拠である無骨な鉄製の首輪ははめられているのだからさらに目を引く。

 そしてそんな女の子を連れている俺にも厳しい視線を向けられるが、今の所は様子見ぐらいらしいな。

 とりあえず飯が来るまで話をしてみる。


「お前名前は?お前のステータス欄に名前なかったんだけど」

「ない」

「ないってマジでか?」

「ない」


 いや、奴隷扱いだったとしても名前ぐらい付けるだろ。

 もしくは実験番号ぐらいは付いているはずだ。色欲を手に入れる時にぶっ殺した研究者の所では奴隷に番号が付けられていたのでそれが名前になっていた。

 それすらないってマジか……


「それじゃ何て呼ばれてた?」

「お前。あの子。その子。英雄の子孫。勇者」

「…………勇者はギリギリ固有名詞になるかも知れないけど、それ以外全部名前になる事はないからな」


 これ本当に勇者?勇者ってゲームとかで見るみたいに小さな村から見つけてきたとかそう言う感じじゃないの?せめて。

 何と言うか話を盗み聞きしていた冒険者達も複雑そうな表情をしている。女性の冒険者なんてうっすらと涙を浮かべている。

 本当にこういう子が存在するんだな。


「とりあえず、お前の呼び方を決めるぞ。勇者だからユウでいいだろ」


 非常に安易な名前だがわざわざ深く考える必要もないだろ。

 そう思っていると勇者のステータスがちょっとだけ変わった。

 名前が表示されるところにユウと記された。ステータス欄だけで見るとスゲー簡単だな。

 でも勇者改めユウは何の反応もない。ただ自分の呼ばれ方が1つ増えただけで名前だと言う認識がないんだろう。

 そう思っていると不憫と言うべきなのかどうかすら分からない。こんな状況想像すらした事ねぇよ。


「はい朝食だよ」


 そう言ってギルドのおばちゃんが持ってきたのは最も安い料理である黒パン1つと野菜しか入っていないスープを俺とユウの前に置いた。

 美味いもん食いたかったらもっとちゃんと所に行きな。っと言われている様な気がする。


「いただきます」


 俺はそう言ってからスープに口を付ける。塩と野菜の味しか感じられないやっすいスープだな~と感じながら黒パンをかじる。

 ユウは目の前に置かれているのに口にしようとしない。


「どうした?食っていいんだぞ」

「食べていい?」

「ああ。そのために頼んだんだ」


 そう言うとユウはようやく食べ始める。

 ポラリスに住んでいる人間だと食事の前に祈りをささげるのが風習らしいがユウはしない。

 その事にちょっとだけ違和感を感じたらすぐにスープのスプーンを置いてしまった。

 しかも初めて変わった表情が顔をしかめるとなれば余計に気になる。


「どうした?苦手な野菜でもあったか?」

「濃い」

「は?」

「味濃い」

「……これが?」


 俺が食っているスープとユウが食べているスープは同じ物のはずだ。

 俺の舌にはうっすい塩味と野菜の甘味をほんのり感じるかな?というぐらい健康志向のスープ(笑)にしか感じない。

 もしかしてサービスでベーコンの切れっぱしでも入っているのかと思ったが見当たらない。

 試しに少しユウのスープをすくって飲んでみたが、俺が飲んでいるスープと変わらない。


「いや、味薄いだろ?これでも濃いのか?」

「しょっぱい」


 そう言って黒パンを散って小さくしてから食べる。

 どうやら黒パンは問題なく食べれるらしい。何の味付けもされていない黒パンはぶっちゃけ味がしない。細かく言えばほんのりと小麦の味はするが、本当にそれだけだ。

 こいつ、ユウって今までどんな食生活してたんだ?


「なぁユウ。お前、飯は1日何食食べてた?」

「1回」

「どんなもの食べてた」

「ん」


 そう言ってユウが指差したのはお盆。これは恐らくだが黒パンとスープしか食べてなかったと言う事なのではないだろうか。


「1日これだけ?それ本当か??」

「ん」


 たった一言で会話が終わる。

 それにしても子供がこれだけの食事で満足できるとはとても思えない。でも見た目は健康なのだから何かしらの影響があるのかも知れない。

 そう考えると1番最初に思い付くのはスキルの効果だ。

 俺はユウのスキルを確認していると美徳スキルの1つの効果に気が付いた。


 ――スキル『節制』――

 美徳系スキルの1つ。

 MP、体力ゲージのゲージをレベル×10消費を少なくする。

 所持しているスキルが少ないほど自身の身体能力をレベル×10する。


 なるほど。このスキルのおかげで少ない食事であっても腹が減って死ぬ事はないって事か。

 これは完全に暴食と真逆の効果だな。

 暴食はHPやMPの上限を取り払う効果だが、こちらは逆にMPなどの消費量を少なくする事で無双できるスキルの様だ。

 そう言えばあの時の戦いでやけに魔法を多用しているのに全然MPが尽きない魔法使いが居たな。多分その魔法使いが持っていたのが『節制』なんだろう。

 これにより体力ゲージの消費も少なくなるから少ない食事で済む。

 でも見てて気分が良い物ではないな……


「お前肉とか食った事あるよな?」

「ない」

「………………魚は?」

「ない」

「……逆に食った事があるものって何?」

「ん」


 またお盆を指差した。

 …………本当に黒パンとスープしか食べた事ないのか?

 これは……いろんな形で大変そうだ。俺の普段食べている物ですらユウにとって非常に味の濃い物になりそうだし、かと言って俺がユウの言うろくに調味料を使っていなさそうな物を食べたいとは思わない。だからと言って別々の飯を作るのも面倒だ。

 それに一般的なのはどちらか、と聞かれると多分俺の下の方がまあ一般的だろう。

 こんな調味料は塩しか使っていない様な料理ですら味が濃いと言うのは明らかに今までの食事生活が普通とは程遠い所に居たと感じる。


「……とりあえずそのスープは飲めよ。少しずつ舌を慣れさせてけ」

「……ん」


 ユウは初めて渋々と言う感じでスプーンを持ち直した。

 一体どんな生活を強いられてきたらこうなるんだか、俺には全く想像もつかない。

 とりあえず次の行動を決めておくか。

 ユウも俺ほどではないだろうけど、ポラリスの近くに居ていい存在ではないだろう。

 まぁポラリスと仲の悪い国は結構知っている。俺自身人間にとって良くない行動をし続けただけだが、その行動が喜ばれる事が多かったのも事実だったりする。

 なので次に良く国は実は決まっていた。


「ユウ。俺達は“愛の国”に行くぞ」


 俺がそう言うとユウは不思議そうに首を傾げた。


『愛の国』

 それは人間の国ではあるがポラリスの教義に合わないためにつまはじきにされている国だ。

 なのでポラリスに嫌われている国どうしで仲良くしている。

 主に医学と衣類方面で秀でている国であり、ポラリスから訳アリで出て来た人間に対して非常に優しい国と言える。

 まぁちょっと癖の強い住人が多い事でも有名だが。


「愛の国なら俺達が行っても問題ない。雲隠れするなら丁度いい国だ。奴隷だからって周りから変な目で見られる事もないし、基本的に優しい人が多いから俺もお前もしばらくは安心して暮らせる。どうだ?」

「……ん」


 どうやら愛の国の事をよく知らないようだが、俺が行くから付いて行くと言う感じらしい。

 まぁ奴隷と言う意味では間違いではないが、もう少し自由意志と言う物を持って欲しいと思う。

 ユウもスープを食べ終えた様なので少し休んでからまた出発するとしよう。

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