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宴と祭り

 他の魔物やら野生動物に食べられないように見張りながら俺達は港に戻ってきた。

 こういうときもユウの結界が使えればいいのだが、結界の外と繋がっている物が存在していると使用する事が出来ない。

 なのでモビーディック・ムーンと船をつなげている縄を無視してモビーディック・ムーンだけに結界を張ることは出来ない。

 まぁ俺の他にジラントとかも威嚇してくれたので移動中に食べられることはなかった。


 しかしいくら港と言ってもモビーディック・ムーンをすぐに引き上げることは出来ず、工場でもさすがにこのサイズを収容することは出来なかったので町の広場を利用して解体作業が行われた。


「いや~……ホントよく狩れたな。このサイズのクジラ」

「ええ。少し価格は落ちますが十分だろう」

「あと心臓」

「分かっている。肉を切り分けながら心臓には傷付けずナナシ殿への報酬だと説明している。それにしても1番美味い所を選んだな」

「当然。頑張ったんだからこれくらい食わせてもらわないと困る」

「それから首都への手続きも進ませてもらう。ではな」

「おい食わないのか?」

「少し疲れた。宴には戻る」


 そう言ってポーラ嬢ちゃんは屋敷のほうに歩いて行った。

 まぁ過酷な旅だったし疲れたというのは当然だ。

 捕獲した後も船に乗っての移動だし、疲労がたまっているのも当然と言える。

 俺は……暇だから解体する現場を眺めるか。


 モビーディック・ムーンはバカデカい薙刀のような物で切り分けられ、あっという間に肉の塊に変わる。

 と言っても圧倒的なサイズからかなり時間がかかっているが、早く食いたいな~。


「ナナシ。モビーディック・ムーンの肉って本当に美味しいの?」

「ユウか。そりゃ美味くなきゃ食おうとしないって。俺が個人的に好きなのは心臓だが、初心者には赤身がちょうどいいか」

「牛肉みたいないい方だね」

「あんまり変わらないところもある。とりあえず赤身は脂っこく無くて食べやすいと思う。いろんな調理法があるしな。あとは皮に近い脂身の所とか、舌、あとは尻尾肉か。特に尻尾の近くは美味いと評判だ」

「尻尾も食べるの?」

「昔から狩りをして食べている連中の流儀と敬意ってやつだ。殺したのならむやみに捨てずに使えるところは全部使う。今運んで行った油の所は加工して石けんにするらしい。運が良ければお香も取れる」

「お香?」

龍涎香りゅうぜんこうっていう名前のお香だ。クジラの体内で出来るお香で俺も詳しい事は知らない。腹の中の異物が石みたいになったとか、単にクジラのうんこが偶然そうなったとか、色々聞く。ぶっちゃけ生成方法はよく分からん」

「ナナシでも分からない事ってあるんだ」

「当たり前の事を言うな。俺は神様じゃねぇんだ。なんでも知ってるわけねぇだろ」

「ふ~ん。それじゃそのお香をお土産にするの?」

「う~ん。それに関しては……面倒だからやめた」

「え、やめちゃうの?やめて大丈夫なの?」

「どうせ元々観光目的みたいな感じだし、おっちゃんに聞いた変な事を軽く確認できればそれでいい。どうせ人魚の犯行なのは確定してるしな」

「それじゃ何で気にしてるの?」

「あくまでも勘だが、なんか気になるんだよな~?何でだろ?」


 俺自身面白そうと言う感じだけで行くのが半分あるのでぶっちゃけ何の収穫もなくてもいいのだ。

 ただ……俺の勘では思っているよりもヤバい事になっていると思うが。


「それで宴はいつからやるの?」

「夜7時。お前も疲れてるだろうから少しでも寝といたら?」

「そうする。ナナシは?」

「……俺も暇だから寝ようかな」

「それじゃ久しぶりに一緒に寝よ」

「それもいいな~」


 という事で俺はユウと一緒に寝た。

 お互いに抱き枕のようにしながら寝る。

 思っていたよりも落ち着き、自然と目がつむると同時に寝てしまったことを自分でも分かったので相当疲れていたのだとその時ようやく分かった。


 ――


 しばらく寝たと思っていると奇妙な音で目が覚めた。

 何だと思って見てみると、サマエルがハンカチを噛み千切りそうな表情でこちらを見ていた。


「……どうした?」

「お疲れのようだったので添い寝しに来たら先客がいました。正直言ってかなり悔しいです!」

「元々ユウに誘われてだからな。まぁそのうちしてやる」

「その時は性交をしていただけませんか!!」

「はいはい。とりあえずユウ、起きな。晩飯の時間だ」

「ん。ん~?」


 ユウは深く眠っていたのか、目をこすりながらぼ~っとした表情で一応起きる。


「ほら、クジラ食いに行くぞ」

「お~……クジラ~」


 のろのろと起きながら俺にくっつくユウ。

 それを見て今度は血の涙を流すサマエル。

 なんかであったばっかりの頃みたいになってるな。

 グロイからやめとけ。


 なんて軽くやりながら屋敷を出ると外は祭りの準備中のような感じだ。

 まだ始まっていないが露店があり、所々輪投げのような物や射的のような物もある。

 食い物は……肉系はほぼクジラ肉ばっかり。

 これは今日の目玉であるモビーディック・ムーンを仕留めたからこそなんだろうが、これは仕方ないか。

 なんて思いながらポーラ嬢ちゃんを探していると祭りの中心みたいなところにいた。


「ポーラ嬢ちゃん。ずいぶん賑わってるな」

「ナナシ殿。ああ伝説のモビーディック・ムーンを仕留めたのだから今日は祭りだ。しばらく食糧にも困らないし、しばらくゆっくりできる」

「そうか。でもしばらくクジラ肉だけになるのは大変なんじゃないか?」

「確かにそれは大変だが問題ない。さすがにすべてをこの町で消費しきれないし、あちこちに販売する。中には希少な肉という事もあり珍味としてドワーフ達や獣人達が食べる事もある。一応一部はすでに販売が決定している」

「それは何より」


 これだけ巨大なクジラを腐らせるのはあまりにも勿体ない。

 もともとクジラは元の世界でも様々な用途に合わせて使用されている。

 単純に肉だったり、油は大昔なら燃料として、現在は一部の石けんの材料として利用されている。

 もともと日本人は狩った獲物を無駄なく使おうとする意識が高いからなのか、そういった無駄をできる限り排出しないようにしてきた。

 それがい世界でも行われていると知った時はうれしかったな。


「で、心臓は」

「もちろん保管してある。こちらの大型冷蔵庫の中で保存しているので後で取りに来ると良い」

「ならいい」

「そしてナナシ殿。乾杯の音頭を頼む」

「…………え、俺?」


 そんなこと一切予想していなかったので驚く俺。

 しかしそんなことは関係ないという感じで勝手に酒の入ったコップを渡されたし、そのままポーラ嬢ちゃんに背中を押されながら中心まで移動させられる。


「ナナシ殿は今回の主役なのだから乾杯の音頭くらい軽いだろう」

「軽いって俺がしたのはただ気を引いただけだぞ」

「それがどれだけ危険で重要な役割だったのか知っている。だからこそナナシ殿に頼みたいのだ」

「こういうのは嬢ちゃんがやるべきだと思うけどな。そんじゃみなさんグラスを持って、カンパーイ」

「「「「「カンパーイ!!」」」」」

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